創作童話「くろねこ」
小学2年のタカシが一人で学校から帰っていた時のこと。
一匹の黒猫がうしろからすーっとタカシを追い越していった。
まるでついておいでと言うように、黒猫はふりかえる。
タカシは少しぞっとしたが、だまって黒猫についていった。
『だいがく』とよばれる場所にきた時、タカシは立ち止まった。
お母さんから入っちゃいけないよ、と強く言われていたから。
タカシが帰ろうとすると黒猫がニャーと鳴いた。
その時つよい風がピューっとふき、タカシのぼうしが飛ばされてしまった。
しかたなく帽子をとりにいくと、タカシは『だいがく』の中に入ってしまっていた。
思っていたより広くて大きな場所だった。黒猫が走ったのでタカシも走った。
そして、小さな部屋へ飛び込んだ。
そこには、おばあさんが一人いて、お茶を立てていた。
「おやまぁ、小さなお客さんだこと。ここへきてお茶をおあがりなさいな」
黒猫はおばあさんの横に寝そべっている。
タカシはごくりとつばをのみこみ「いらない」と言った。
「かわいくないね」おばあさんは怒ったみたいだった。
タカシがきょろきょろしながら「この部屋狭いね」と言うとおばあさんは無言でお茶のお茶碗を割った。
タカシがびっくりして帰ろうとすると部屋の入口が閉まっていた。
「かえれないよ」黒猫がしゃべった。
タカシは「出して、ここから出してよう!」と叫んだ。
「こんなところについてくるお前がわるいんだ」黒猫が叫ぶ。
「お母さんに、入ってはいけないと言われていたのに」
「だって帽子が」
「いいわけをするんじゃない」
いつの間にかおばあさんが黒猫にのりうつっていた。
タカシは泣き出した。
「ゆるして!ゆるしてよう!」
「だめだ」黒猫がギロッとにらむ。
「ぼくの宝物をあげるから!お願いここから出して!」
「たからもの?宝物ってなんだ?」
「お父さんに買ってもらったサッカーボール!」
「そんなものはいらん!わしが欲しいのは」
「欲しいのは?」
「若さじゃ」
「若さ?」
「そうじゃ、若さじゃ」
「いいよ、ぼくは若いから。ぼくの若さを君にあげるよ」
次の瞬間、黒い煙が部屋いっぱいに立ち込めてタカシは目をつぶった。
四秒数えてから目をあけると、目の前に小さな子猫が一匹ないていた。
その子猫をさわろうとした自分の手を見た時、タカシは悲鳴をあげた。
しわしわのしみだらけのおじいさんの手だったから。
(おしまい)
☆この童話は、http://fanblogs.jp/honhonhon888/にも掲載されています。