04 高貴神の眷属
妖精の国、アルケー。
通称隠都とも呼ばれている。
名前に妖精を冠している通り、妖精の群生地だ。
だが、その姿を見たものはほとんどいない。
妖精を見るには特殊な素質がいる。
その国でも見れるものは代々素質を受け継ぎ続けている王族くらいのものだ。
だが、国民も旅人もここに妖精がいることに疑いは持たない。
何故なら、この国では妖精が起こしたと思われないような奇怪な現象が起こり、国の者以外ここを自由に出入りできるものはいないからだ。
妖精が住み、この土地を守っているようにしか思えない。
下界の人々にとってこの地は人知の及ばぬ奇怪な土地と特別の意味合いを持っている。
そして、神々にとってもこの土地は特別な意味合いを持っていた。
神々はここを始まりの地と呼び、魔神を除いた神々は決まって転生者をここに降ろす。
つまり、ここにはろくな人材も資源もない。そういう場所だった。
「どうやってここで幸運に恵まれろていうんだ」
「いや、幸運あるよ、ここには」
盗神がぼやくと、高貴神が前言撤回し、きたときと真逆のことを言い始めた。
「先といってることが180°違うぞ。掌くるくるかよ」
後輩のあまりの適当さに、頭痛がして、盗神は眉間を揉む。
「いやいや、自分の超有能な眷属がここにいるのを思い出したら手のひらもくるくるするでしょ」
「お前、最近、眷属作ってないだろうが」
貴族の地盤が盤石になってから千年余り、高貴神は眷属を作る必要性がなくなったはずだ。
昨今も貴族が大きく数を減らすようなことは起きていない。
信仰は揺らいでいないはずだ。
「いや、作る必要がないからて作らないわけじゃないでしょ」
クレフティスは高貴神の言っている意味が理解できなかった。
作る必要のないのに作る?
訳が分からない。
こちらはあくせくバカみたいな数の眷属を作って、ほぼ全滅し、又作り直すという地獄のような工程をループしているというのに。
その刻苦を免除されたというのに、わざわざ眷属を作る?
狂気の沙汰としか思えない。
「仕事ついでに貴族どもを殺して回るか」
「チョ、何切れてんの?コワいんだけど」
「糞みたいな責務に追われるもんにそんなことが言えるお前の精神の方がこわいわ」
「……」
高貴神が哀れな何かを見るような眼で見る。
やめろ、そういう同情のまなざしが一番心にこたえるんだよ。
このまま見られたら、涙腺が崩壊しかねない。
「まあいい、そんな些事より眷属の能力は何だ、お前の言が嘘じゃなければ、貴族を血祭りにするのはやめておこう」
傷心した心を切り替える。
こんな不毛な争いより、仕事を進めたほうがいい。
「まあ、納得いかないけど、それでいいわ。能力てユニークスキルでいいでしょ」
「どちらでもいいが、ユニークスキルがいいならそれでいいぞ」
眷属は、神への信仰を増やすための広告塔みたいなものだ。
だから、眷属が目立つようにユニークスキルという普通の職業スキルツリーでは手に入らない少し変わったスキルを付与する。
だがユニークスキルは転生者の特性をスキルの形に落とし込んだだけのものなので派手なものもあれば地味なものもある。
実際のところ宣伝効果があるかは当の神たちにもよくわからないのが現状だ。
高貴神の眷属のどれほどかは知らないが、ほとんどがゴミばかりのユニークスキルを開示するとはよほど自信があるらしい。
「あたしの眷属のユニークスキルは城を持った時、味方の性能を十倍」
高貴神が自信をはらんだ声での給う。
「産廃だろ、それ」
城を持つなんて、なんの身寄りもない転生者ができるものではない。
城を立てるためには貴族と王族、どちらともの認可がいる。
名目上はどんなものでも認可が在れば城を立てていいことになっているが、排他的な貴族や王族がどこの骨ともわからない人間を認めるわけもない。
それゆえ、実質城を立てられるのは名のある貴族の子弟か王族だけになっている。
高貴神の眷属は折角ユニークスキルをもらったのに使うことができないだろう。
発動すればなまじ強力なのでたいそう悔しいだろうに。
「いや、文言に囚われすぎでしょ。仲間がいればそこが城になるじゃん」
「つまり、パーティ組んだら誰でも性能10倍になるのか」
評価は一転だ。
Sクラスの眷属だ。
そいつをこちらに与すればすべてが10倍になる。
攻撃も、スキルの権能も、抵抗性も。
これならレベルをカンストした人ならステータスだけでも神と同じに引き上げられるかもしれない。
そうすれば優秀な盾役を手に入れることができる。
縛りのせいで攻撃に加担させらないが、それでなお喉から出るほど欲しい。わずかな光明が射してきた。
「まあ、でも性格に難があるから、期待されても困るけど」
「性格何ぞ気にしてるなら、お前と共に仕事などしない」
「ひど、先輩がそれいう」
高貴神は盗神の言にドン引きするが、盗神は気づく様子もなく、目の前に現れた光明に胸を躍らせていた。
転生者はクエストを受ける。
さらにイベントクエストとなれば、参加しない者はいない。
それに則って、2柱の神はイベントクエストの開催所に来ていた。
筋骨隆々の大男に、ごてごてとした鎧に身を包んだ大柄の女。
いかにもな感じの人間たちが、集結していた。
その中で、2柱の神は悪目立ちしていた。
2柱ともまわりを大きく、見まわすだけでイベント狩猟対象のイノシシの魔物にエンカウントしても、魔物を狩らずにほっておいている。
まわりの参加者たちはそれを奇異のまなざしで眺めている。
「お前の眷属まったく姿を現さないな」
「気の弱い子だからね、もしかしたら来てないかも」
「あきらめるか、同じようなスキルを持った眷属もどこかにいるはずだし、時間がおしい」
踵を返すことにする。
内心あきらめきれない気持ちもあるが、ここで時間を使ってもいいことはない。
姿を現すかもわからない眷属を待つより、繁栄した都をめざした方がいい。
そこであれば、人材も資材も移動手段も手に入る。
「もう昼か、少し時間を食ったな」
イベント会場から抜けようとした時、ゴルゥァァァという大きな咆哮が聞えた。
とてもではないがイノシシが出すような咆哮ではない。
それには聞き覚えがあった。
昔、竜神の元を訪れるときに、聞いたものだ。
咆哮の元に目が引き寄せられる。
大きな翼。
丸太のように太い尾。
身体に反して小さな腕。
そこには2頭の竜が飛んでいた。
竜の間から守られるようにして、男がおりてくる。
下界で最速の存在―竜騎士-が空から降りてきた。




