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21 妖精の導き



 盗神は焦燥に駆られていた。

 これからだった。

 これから卑屈さを克服したピティーに自信をつけさせようとするところだった。


 だというのに、竜騎士は釈放されてしまった。


 どうすればいい?

 そんな文言がいくつも頭の中を埋め尽くしていた。


 眉間のしわを揉む。

 あきらめることになることは想像していたが、いざ、目の前で可能性が逃げていくさまを見ると、胸が締め付けられる。


 まだだ。

 まだいける。

 竜騎士は釈放されても、ここに滞在することも考えられる。

 盗神は教会へと向かった。


 



 

 教会の門から竜騎士は伸びをしながら、出って来た。

 久しぶりのシャバだというのに不本意そうな表情をしている。

 この様子だとこれ以上ここに逗留することはないのかもしれない。

 

 近くの茂みからなにかが出って来る音がした。

 そちらの方向に目を向けると。

 ピティーが立っていた。

 こいつはこんなところで何をしてるんだ?

 ふと盗神の頭にそんな疑問が浮かんでくる。

 

 ピティーはそのまま、竜騎士の元に近づいていた。

 

「今、パーティメンバー募集しているんですけど、よかったら組んでくれませんか?」

 

 勇気を振り絞りましたという感じで、竜騎士をパーティに勧誘し始めた。

 あの頃のばかばかしいほどの卑屈さに比べると目覚ましい発展だ。

 あの頃の奴ならば、声などかけず、自分などといって腐っていただろう。


 まあ、そのがんばりを竜騎士が認めるかどうかは別の話であるが。

 

「パーティか、あいにくパーティは取らない主義だ。他のパーティを当たってくれ」


 竜騎士は少しぐらついたのか、ばつの悪そうな顔をして、誘いを断った。


「そちらにも事情がありますよね。しょうがないですよね」


 ピティーは落胆しているだろうに気丈にふるまっている。

 報酬で馬鹿にされたと勘違いして、激昂していた頃と比べると我慢強くなったものだ。


 盗神は諦めの悪いところが自分の長所であると思ているが、さすがにもう無理ではないかと思っている。


 最後に一つだけ悪あがきをして、終わることにしよう。


【ライアーファンデーション】を発動させる。


 使い勝手がすこぶる悪い最上級スキルの一つだ。

 すがたを変えることが効果だが、疑念を持たれたり、名前を言われたりするとすぐに溶けてしまう。

 ばけても所詮は違う人間なのだから、疑念を抱かれることなど避けようがない。


 今回は奴らの面識のない人物なので大丈夫だろう。


 化けるのは生前に出会った、魔人だ。

 魔人は寿命が長いので、もしかしたらあったことがあるかもしれないが。

 そんな、もしかしたらを言い始めたら、キリがない。


 茂みから飛び出す。


「俺はイライラしている。お前らに八つ当たりさせてもらおう」


 先ほど思い出したそいつの言葉を吐き出す。

 こちらの姿を捉えると、竜騎士は構え、眷属は目をむいた。


 魔人に化けたのは成功だったようだ。

 魔人の悪評が世に出回っているのが功を奏したのだろう。

 自分の化けている魔人は評判通りの奴だったが。


「その姿、相当な手練れのようだな。引く気はないか」

「ない」


 こちらが返事をすると同時に竜騎士は消えた。

 左横腹に鈍い痛みが走る。

 左を向くと、竜騎士が自分のピアスを取って立っていた。


「翼竜……」


 まずい。

 眼鏡に手を伸ばす。

 魔道具【鏡凍監獄(プリズン・グラス)】を起動する。

 竜騎士が止まるとともに眼鏡が割れた。

 何とか範囲内に収まったようだ。

 これで竜騎士は少しの間だけだがあの空間にとどめておくことができる。

 一回使用すると、壊れるので、二度は使えないが。


 後は眷属がこちらに特攻してきて、わざと負ければいいだけだ。

 そうすれば、もしかしたら眷属の評価が上がり、竜騎士が仲間になるかもしれない。

 限りなく可能性は小さいが。


 亡者の手を呼び出して、天に掲げる。

 いかにも、今から竜騎士を襲うという雰囲気を演出した。

 案の定、眷属が飛び込んできた。


「あ、そのナイフ、先輩じゃん!」


 唐突に聞きなれた声が聞こえてくると、変装が解けた。

 こちらの姿がいきなり変わったため、眷属は勢いをなくし、茫然とした顔でこちらを見つめる。

 竜騎士も驚愕に染まった顔をこちらに向けている。


 用なしになった眼鏡を捨てて、眉間を揉む。


 さて、どうしたものか?


 とりあえず、声の主―高貴神の方を見ると、鬼のような形相をしたアーツと凶相を浮かべたシスターがともにいた。


 積んだ。


 瞬きの間に、魔術の絨毯爆撃が行われ。

 距離を詰めたシスターに大剣でフルスイングされた。


 気づいたら、木々を巻き込みながら低空飛行していた。








 神は不死である。

 同じ神の攻撃でなければ大概はどんな攻撃を受けても死なない。

 だけれども、不死であるからといって、神は体力がゼロになって全回復という訳ではない。

 神は体力が一になったまま、攻撃をうけても、体力が減らなくなるだけである。

 要するに完膚なきまでやられたら、死にはしないが、瀕死のままになるということだ。


 それゆえ、盗神は瀕死の状態で一歩も動けず、空を見上げていた。


 最近多忙で空なぞついぞ見なかったらが、久しぶりに見る透き通た蒼穹は心を洗ってくれるようだ。

 身内にはよく心がないといわれるが、心が洗われたと感じるのだから自分には心があると感じる。

 瀕死で息苦しいのはあれだが、この状態がいつまでも続けばいいと思った。


「先輩大丈夫ぅ?」


 いきなり、びちゃびちゃと何かを顔に浴びせられた。

 眼にしみる。

 空が見えなくなった。

 その代わりに、息ぐるしさがなくなっていく。


 体力が回復してるようだ。


 ポーションでもぶっかけてきたのだろう。


「大丈夫に見えるか、見えたとしたら、お前は悪魔に魂を売ってる」


 上体を起こし、目を開ける。

 来た時となんの代り映えのしない高貴神が目の前にいた。

 目が合いそうになり、目を背ける。

 いわねばいけない言葉があるが、中々口から出てこない。


「竜騎士はどうなった?」

「竜騎士ならあたしが仲間にしたから大丈夫、他にも余分に二人くらい仲間にしたけど良かった?」



 こっちが、バカみたいに努力して仲間にしようとした竜騎士をこいつが仲間にしたのか。

 悔しいような気がするが、交渉術で言えば、高貴神の方が上だ。

 順当か。

 高貴神が竜騎士を仲間出来ずに嘘をついている可能性もあるが、今は体がボロボロだ。

 弱っている。

 自分に都合の悪いことは聞きたくない。

 今は嘘でも構わない


 余分な二人の方は、盗神をぶっ飛ばして、瀕死にした、あの二人組だろう。

 気は進まないが特に断る理由もない。


「お前、神器を使っただろう?スキルが弱体化したお前が何もなしにあいつらを御せるとは思えん」

「使ったね。今回使ったことで次使えるのは100年後ですけど」


 ペナルティがでかい神器か。

 高貴神の神器なので、状態異常系だろう。

 詳細を聞いた方がいいが、少し今日はグロッキーだ。

 次聞くことにしよう。


「てか、先輩、あたしに言う事あんでしょ」


 高貴神はケラケラと意地悪く笑い、催促をしてくる。

 催促をされると言う気が失せてくる。

 言わないという選択肢はないが。


「前はきつく言い過ぎた。すまない」


 いうことを言った。


「許しませんよ。なんか埋め合わせでいいことしてくださいよ」


 そういうと、高貴神は又笑い始めた。

 現金な奴だ。

 どこかから盗品でも見繕ってこよう。


「ああ、わかった。盗品でもやるよ」

「ええ―……」


 高貴神は見るからに嫌そうな顔をする。

 失礼な奴だ。


「ここでじっとしててもしょうがない。行くぞ」


 立ち上がって、真昼間の暑苦しい日差しを体に受ける。






 仕事は山積みだ。

 片づけなければならない。









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