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17 盗神の手






 神器。

 神になるとともに、大神から賜る、その者の生前の伝承を形にしたもの。

 大神を含めた三柱の神にとっては使い物にならない儀礼品の一種だが、他の神にとっては意味合いが異なる。

 伝承によっては、今までになかった力も獲得できる。

 それゆえ、神の中で力のないものにとっては福音となる。

 その者たちとってこれからのすべてを決定するといっても過言ではない。


 逆に、すでに力のあるものと伝承と実力が一致しているものにとっては、ただかさばるだけの無用の長物だが。




 盗神クレフティスの神器。


亡者の手(ネクロスケイル)


 生前の王族殺しのクレフティスの伝承から作り上げられた神器である。

 触れたあらゆるものを盗むことができ、かすりでもすれば、王族に確定で即死が入る。





 盗神は神器を信徒の顔に押し付けて、ぼやく。


「相変わらず、使いづらい。スキルが在ったら、接触する必要などないのに」


 盗神の神器に対する評価は低い。

 在るに越したことはないが、進んで使うようなものでもないその程度だ。


 クレフティスの伝承はただ誇張なしに事実が並べられたものだ。

 神器にはクレフティスの性能以上の事は出来ない。


 むしろ、相手との接触がいるという点で当人より性能は幾分劣化しているともいえる。


 今のスキルがほぼ使用不可な状況と、異界で追い込まれたときにしか使わないようなものだ。


 先ほど、二人の怪物に追いつめられたときは少し評価を挙げたが、再び普段使いで使用すると評価は急降下した。

 やはり、わざわざ接触しなければならないのは大きなマイナスだ。

 接触させるために対象を気絶させる必要があるのがきつい。


 亡者の手をリリースする。


 信徒の記憶を盗った結果、最悪なことが判明した。


 あのシスターは生きていた。


 近くで待機していたアーツの娘が魔術で治療したようだ。

 アーツが娘の救出からすぐに、こちらの襲撃を掛けたことがかえって功を奏したということらしい。

 これで、高貴神が教会から逃げることは絶望的だ。

 復活したシスターは神のステータスともうほぼ互角だろう。

 人と争った事のない、高貴神が奴に勝てるとは思えない。

 高貴神の神器に可能性を掛けるのもいいかもしれないが、奴が神器を使ったところを見たことがない。

 おそらく、使わないということは大したものではない可能性が高いだろう。


 こちらも手がばれている。

 もう一度、自分が奴と戦って勝てる見込みはない。

 教会に攻め入って救出するのは不可能だ。


 これからの行動には高貴神がいた方が円滑に進むが、諦めた方がいいだろう。




 どうにもならないことを考えてもしょうがない。


 こちらに襲撃をかけてきたはぐれ信徒をどうするか考えよう。


 ここで殺すと場所が特定される。

 殺すのはなしだ。

 記憶は奪ってあるし、そのまま野放しにしてもいいだろう。

 信徒の腕をつかんで、夜の森の深淵に向けて放り投げた。




 さて、眷属更生の下準備を今からしなくてはならない。

 木々の間から眷属のパーティーがいるだろう宿を見やる。

 部屋の明かりは灯っている。

 いないということはないだろう。

 宿に向けて、近くに生っていた木の実を投げる。

 パンと木の実がはじける音が鳴る。

 連続して投げる。


「うるせえ。何時だと思ってやがる!ふざけたことしてんじゃねえぞ」


 不機嫌な顔をした見知らぬ男が出てきた。

 男の頭上に五個ほど投げつける。


「なめてんのか!この糞野郎。おい、やろうども降りてこい!地獄を見たい奴がいるぞ」


 男は顔を赤くして、怒鳴り声をあげると、宿の中に大音声を響かせた。


「おい、おやじ切れすぎだろ。高々悪ふざけだぞ」

「そうだ、俺たちは賭けをしてたんだぞ」


 文句を言いながらもぞろぞろと人が中から出てくる。


「うるせえ!文句を言うやつはここからたたき出すぞ!くだらねえことをした野郎を俺のところまで連れてこい」


 ヘイヘイと言いながら、散らばっていく。

 宿の人間の気が短かったおかげで思いのほか早く、目的が達成できそうだ。

 散っていく人の中から、眷属のメンバー確認した。

 当の眷属本人は確認できない。

 あの性格だ。

 アーツにキレられたことがまだ堪えているかもしれない。


 メンバーたちは二人一組となり、二手に分かれて、こちらを探すようだ。


「もう逃げられねえぞ!今から素直に出ってきたら、甘くしてやってもいいんだぞ」


 宿の亭主がヤジを飛ばす。

 そんな文言を信じる奴はいないだろうに。


 メンバーたちが行く方向を記憶する。

 お互いに逆の方向に行くようだ。


 一方についていく。

 のっぽとちびの二人組だった。

 森の手前までくると二人とも足を止めて、世間話をし始めた。


「おい、聞いたかよ。昨日泥棒を捕まえに行った巡礼者様が逆に返りうちに会って、半殺しにされたらしいぜ」

「冗談だろ。どうやったら、あいつらを半殺しにできるんだよ。おれ何ぞ、前信徒に疑いを変えられた時に、逆に半殺しにされかけたぞ」


 こちらを警戒しているのか。

 雑談をしながらも二人は森に入って来ることはしない。

 仕方がないので、二人に木の実をあてて、気絶させる。


「おい、二人が倒れたぞ!」


 目ざとく、若い青年に発見された。

 折角捉えたのに、やり直しはごめんだ。

 青年の眉間に木の実を当てる。


「おい、狙われているぞ、気をつけろ!」


 さすがにおかしいと気づかれたらしい。

 森の近くで伸びている二人組を急いで森の中にひきづり込む。


 亡者の手を呼び出し、接触させる。

 二人組の良いような、悪いような記憶が流れ込んでくる。

 これで二人組は記憶をなくした。

 生まれたての赤子のような状態だ。


 まず二人排除が完了した。

 森の奥に向けて、放り投げる。

 おそらく明日には森の奥でハイハイをしているだろう。


 二人を排除できた代わりにこちらを探す宿の人間たちが厳戒態勢になっていしまった。

 油断ないように警戒した人間が四方八方に意識を送る。


「そこだ!テンペスタ!」


 先ほど盗神がいたところを、風の刃がズタズタにした。

 あれにあたたら、かぜにはじかれて、奴らの面前に飛ばされたかもしれない。

 そうすれば、教会の人間を呼ばれて、不死身のシスターに殺される。

 少し背筋がひやりとする。

 余裕な仕事と思ったが、意外にリスクが大きいのかもしれない。

 

 音を立てないように細心の注意をしながら、もう一方のメンバーが向かった方向を目指す。

 こちらも、先ほどの奴らと同じように雑談に耽っていた。

 

 「ピティーのことをどう思う。このままだと、また振り出しに戻る。アーさんがあそこまでお膳立てしたんだ。俺たちも動いた方がいいんじゃないか。もうピティーに捨てられるとか言う言い訳もいいだろう」

「確かにそうだな。アーさんがあそこまでやったのに、俺たちが何もしないのは無責任すぎるな」


 少し、気品のある二人組だった。

 冒険者などやっているが、いいところのでかもしれない。

 内容も眷属のことを真剣に考えていることがうかがえる。

 期限がなければこの二人に更生を任せただろう。

 この二人なら時間をかけても確実に眷属を更生させるような気がする。

 一年か二年くらいはかかりそうだが。

 

 そんな悠長に構えてたら、竜騎士は下界の裏側まで行くだろう。

 考えても、ろくな結果が想像できない。


 こいつらにもあの二人のように消えてもらおう。


 森の中にいるので、そのままナイフの柄を当てて、記憶を奪う。

 倒れても誰も気づかない。

 はっきり見えていないからだろう。


 月の光が届かないほど、木が密集していたのが功を奏した。


 再度、森の向こうに投げる。


 メンバーがこちらを警戒する問題は、メンバーを消すことで解決した。

 

 これで直接、眷属に働きかけることができる。


 下準備は完了した。

 

 

 

 





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