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16 人と神の闘争

 



 少し離れたところで、顔面から血を出して、大の字になったシスターが痙攣していた。


 眼前に近づかれたときに、カウンターで拳をふるった。

 反射で振るったものだ。

 手加減などしていない。

 自分のステータスであれば、たとえレベルマックのものであっても殴れば顔がはじけ飛ぶはずだった。


 なぜ奴は原型をとどめているのだろう?


 見た限り、奴は脳が揺さぶられた程度のようだ。


 まあいい。

 動けないならば、とどめを刺せばいい。

 先みたくいきなり襲われても迷惑だ。


 倒れたシスターに近づく。

 もう一発殴れば、爆ぜるだろう。

 拳を振り下ろそうとすると。


「でぅしゅひぃる……」


 と口からうわ言のような言葉を吐いた。

 光が生じた。

 女の顔面に拳を打ちおろす。

 木材の折れる音が聞こえた。

 ほおに衝撃を感じると同時に体が後方に吹っ飛ぶ。


 殴られた。


 つまらないことで油断てしまった。

 奴が大神の信徒だから、魔法を使えないと高を括っていた。

 あの光は、上級回復魔法【ネクスアタラクシル】だ。

 止まらずにすぐに追撃をかけて殺せばよかった。


 倒れていたシスターが何事もなかったようにむっくりと起き上がった。

 外れた顎は元通りになっている。

 顎だけもとに戻したわけではないだろう。


「すさまじい馬鹿力ですね。異端の神、盗神の信仰を極めるとそんなものまで開放されるのですか。あんたの事は覚えている。……今でも、あの頃の事は忘れない!」



 先ほどとは異なりしっかりとした口調で言葉を吐く。

 どうやら、シスターはどこさかの盗賊と自分を間違えているようだ。


「あんたのことなど、俺は知らない。初対面だ。そして二度と会うことはない」


 シスターに勢いをつけて、殴りかかる。

 おそらく、ステータスが隔絶しているので、見えていないのだろう。

 棒立ちのままだ。

 顔面に拳を叩き込む。


 このまま、倒れたところを殴ろうと思っていた。


 だが、シスターは踏みとどまり、あまつさえ大剣をこちらの腹に叩き込んだ。


 硬度が高いのでこちらのダメージはゼロだが、非常ににまずい。

 こちらの攻撃より、この短時間で硬度を高めている。

 詳細はわからないが、面倒なスキルを持っているのは確かだ。

 新造のスキルツリーなので、スキルを特定できないのが不安をあおって来る。

 確実に殺せる方法で殺そう。


 シスターはこちらの気など知らず、口の血をぬぐうと、こちらに語り掛けてくる。


 


 「そちらが知らずとも、確かに私のブラックリストに記載が残っています。国賊、王族殺しのクレフティス!やっと、再会できました。最悪の異端者がこれで一人減ります」


 シスターの言葉を無視する。

 狂人の戯言だ。

 こちらことをちゃんと知っているようだが、奴とは面識などない。

 面識があるとしたら、こいつは最低でも1000年以上生きていることになる。

 奴は見るからに人族だ。

 寿命がせいぜい100年の人族がどれだけがんばっても生きられるはずがない。

 生前の事を訳知り顔で話されるのも腹が立つ、ささっと始末しよう。

 

 喉をつぶして、そのまま即死を狙うことにする。

 たとえ、即死を避けても、呼吸困難で確実に殺せる。

 奴に向けて一歩踏み出す。

 奴もこちらに合わせるように駆けだしてきた。

 こちらについてきている。

 硬度だけでなく、敏捷も上がっているようだ。

 

 奴が横面に大剣をたたきつけてきた。

 先手を取られた。

 吹き飛ばされるのも面倒なので、膝と肘で大剣を挟みとめる。

 そのまま、大剣を奪って、足を払った。

 シスターは態勢を崩し大きく後方にのけぞる。

 その態勢で何故倒れないのか不思議でたまらない。


 仕方ないのでその上から大剣を振り下ろした。

 喉を殴るつもりだったが、大剣でこのまま、二つにした方が速そうだ。


 シスターは振り下ろされた大剣を白刃取りする。


 何をやっても、対応してくる。

 盗神は腹が立ってきた。

 大剣がシスターの目前で止まってしまった。

 大剣を殴りつけて、無理やり、下ろしていく。

 

 シスターの頭頂に刃が食い込む。

 あと、数発でこの化け物にとどめを刺せるだろう。

 

 拳を大剣に叩き込もうと、もう一度―



 気づくと空中に盗神は投げだされていた。

 前後がつながっていない。

 先ほどまでシスターの上で大剣を振り下ろしていたはずだ。

 どうしてそれが空にいる。

 視界に大きな穴が壁に穿たれた宿が見える。

 それを見て、自分が吹き飛ばされたことを察した。


 もう一人いたのだ。


 「エアズロック!」


 男の声が響きわたると、

 盗神の四方八方から圧がかかる。


 体の動きが鈍重になる。


 訳が分からない。


 教会は回復魔法以外の習得を禁止しているはずだ。

 なんで教会の人間が束縛魔法を使ってくるのだ。

 

 自分が作った宿の穴を見ると、若い男が飛び出してきた。

 アーツだ。

 その表情は憤怒に染まっている。


 教会とは犬猿の仲であるギルドの人間の奴がなぜここにいる。

 娘の報復に来るとしても教会とバッティングするのは避けるはずだ。

 

 「糞野郎。悪いがお前には死んでもらう」


 アーツは底冷えするような低い声で確定事項であるように告げる。

 どうやら奴も頭がいかれている(狂っている)らしい。

 

 「星を落とせ、フォールグラビディ!」

 

 四方八方から圧がかかったまま、さらに上からの圧が強まる。

 バランスが取れず、歩けなくなった。

 

 穴からもう一人、意地の悪そうな笑みを浮かべた女が出って来る。

 

 一瞬で形成が逆転した。

 

 アーツはこちらが動けなくなったとみると、また同じ魔法を使用する。

 どこから、そんな魔力が出るのか。

 神の動きを拘束する魔法だ。

 魔力消費は莫大なだろうに。


 無尽蔵の魔力、こちらも化け物か。

 

 こちらが地面に這いつくばっても使用をやめない。

 言葉通り殺す気なのだろう。


 さすがにまずい。

 じりじりと体力がえぐられているのを感じる。

 このまま加圧されればさすがにつぶれる。


 油断し過ぎた。



 自分の神器の名を念じる。


 使い慣れたナイフが自分の手の中に生じるのを感じる。


 力を込めて、重圧の中でナイフの切っ先を動かす。


 【エアーズロック】

 【スカイズロック】

 【ファールグラビディ】

 を入手しました。


 いつもの幻聴が聞えた。

 自分以外の誰にも聞こえない声。


 使えないのだから、魔法が奪えたとしてもどうでもいい。

 魔法の時だけ、しゃべらないようにできないだろうか。


 立ち上がると、アーツは驚いた顔でこちらを見つめる。


「エアーズロック!」


 こちらが盗った魔法を唱える。

 まだ使えないとわかっていないのだろう。

 奴との距離を詰める。


 もういいだろう。


「ノイズキラー」


 アーツの詠唱する声が消えた。

 無力化は成功だ。

 アーツは絶望に染まった顔で盗神を見る。


 殺されるとでも思ってるのだろうか?


 無力化したやつにわざわざ時間を割くわけがない。

 もう一人いるというのに。


 案の定、シスターはこちらにとびかかってきた。

 大剣を横面にたたきつけるように、大きく薙いだ。


 ナイフで受け止める。


 【クレイモア】を手に入れた。


 手に入れたクレイモアを真上からたたきつける。

 また硬度が上がったようでシスターの身体に刃は入らなかった。

 しかたないので、殴って、骨をつぶすことにする。

 肩、手、足、順にクレイモアで叩いて、つぶす。

 シスターの口にほころびが生じる。


「ネクス……」

「ノイズキラー」


 奴の声を消す。

 こいつは詠唱ができずとも危険なので、殺すことにする。

 頭を割るためにクレイモアを何度も頭にたたきつける。


 悲鳴が聞こえないのでやりやすい。


 血だまりが回りにできたので手を止める。

 もうこの状態で生還することはないだろう。


 振り返って、アーツが先ほどいた位置を確認する。

 逃げられた。


 逃げない方がおかしいか。


 シスターの亡骸を視認する。


 こいつが殺せたので十分だ。

 アーツは追いかけずとも問題はない

 又来るようなら、ノイズキラーで詠唱を封じて、やればいい。

 大した脅威ではない。




 盗神はこの現場をみられても面白くないので立ち去った。



 

 

 




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