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15 大神の信徒



 教会。

 大神のみを正統として、信徒が結成した組織。

 歴史は深く、伝承では、人が神によってつくられると同時に創造されたといわれるほどである。

 信徒たちも多く、特に魔界と天界の近隣の国などは国民全員が信徒といっても過言ではない。

 信徒たちは一般人にも優しく、損得など顧みず、人助けをするため、評判はいい。

 だが、冒険者に対してだけは視認したら殺しにかかるほど気性が荒い。

 なぜかというと彼らにとって冒険者は異端者だからだ。


 というのも冒険者は大概、職業スキルツリーを固定するため、選択した職業の神に信仰をささげる。

 職業スキルツリーを固定しなければ、スキルが中級から発展せず、半端ものになる。

 過酷な環境に置かれる冒険者にとってそれは死を意味する。

 それゆえ、冒険者が大神テオス以外の神を信仰するのは避けられないことである。


 この通り冒険者にも事情があるがあるのだが、信徒には関係ない。

 異端者は殺戮の対象である。

 地の果てまで追って殺さなければならない。


 大神テオス様をないがしろにしたのだから殺されてしかるべきだという理不尽な論理で彼らの中では正当化される。

 罪悪感はかけらもない。

 そんな考え方のため、信徒に冒険者がたくさん殺され、死体の山が各地にできた。

 ゆえに、冒険者が信徒から身を守り、身を寄せ合う集団であるギルドが作られた。








 そんな国レベルで対応するような狂暴極まりない教会の信徒たちが、盗神の目の前にいた。

 竜騎士の家の周りを囲んでいる。

 高貴神は法を破ると、ペナルティがあるといっていたが、想像以上だ。

 生前の盗神であれば、囲まれた時点で自害しただろう。

 こいつらに捉えられるという事は極刑を意味する。

 

 人ごみの隙間から再度、竜騎士の宿をのぞき込むと、中からちょうど竜騎士が出てきた。

 腰に縄をつけられ、四方から射す又のようなもので押さえつけられている。

 

「そこの!近づきすぎるでない。異教の神体に接触は避けよ。異端の神の狂信者になりたくなければな」

「ははあ!司祭様、忠言、ありがたき幸せ」


 ボスぽい信徒が、竜騎士に括りつけられた縄を持つ若い信徒に叱咤を飛ばす。


 竜騎士はどうやら、教会によると、神体に分類されるらしい。

 連れてかれたあとは、消されるか、そこらへんに放逐されるかになりそうだ。


「人の目がうざい。早く連れていくがいい。我が無実であることはすぐにわかる……」

「き、貴様!」


 司祭は、老けた顔を真っ赤に染めるが、竜騎士に手は出さない。

 先ほど言ったことを守っているのだろう。

 教会も、昔はもっとフリーダムな感じだったが今の世では制約が多いらしい。

 昔はエンカウントした瞬間に、冒険者の首を飛ばして雄たけびを上げていたというのに。


 こいつらと法がない時代に生まれたかった。


 竜騎士は、信徒たちに連れられて、馬車の中に入っていく。


 竜騎士は何を思い、何を考えているのかわからない。

 奴ならば、すぐにここから逃げることもできたし、盗神たちがやったと信徒の前で宣言すれば、今ここで捕らえられることもなかったはずだ。


 まさかかばったのか?


 プライドが高いだろう奴が、こんな屈辱を甘受してまでかばう理由などあるだろうか。

 それとも自分はこんなことでは堪えないという単なる傲慢か。

 前者であればまだ目があるが、後者であれば、屈辱を与えたこちらを殺しに来るだろう。

 どちらかは盗神にはわからない。

 人の感情はよく理解できていないからだろう。

 

 人の感情など、考えたことがないことが原因だ。

 盗みをやるような人間に他人をおもんばかる余裕はなかった。

 自己中心的に自分の感情を押し通すだけで精一杯だった。

 逆に他人をおもんばかっていたら、ここには自分はいないだろう。

 

 それゆえに人の感情が絡む問題は管轄外だ。



 高貴神の管轄だろう。

 奴はあれでも礼儀正しく、人の心をつかむことが得意だ。

 奴の周りにはいつも人がいる。

 スキルのこともあるが、奴のスキルが通用しない神界でも例外ではないのはそれ以外にも人を引き付けるものがある。

 それこそ、奴は他人を慮ることができる人間なんだろう。

 先ほど、けんか別れをしてきたばかりで気まずいが、頼むしかないだろう。

 大神のように謝れば鷹揚になるのならばいいが、それ以外だったら対処のしようがない。















 これからの展望を練る事と、高貴神との関係を修復するために宿に戻って来た。


 そこには誰もいなかった。


 代わりに根元からなくなった扉と壁にできた大きな穴があった。


 何があったかはすぐに理解できた。

 高貴神が教会に捕縛されたのだ。


 神を捕まえる。

 可能性があるとすれば、大神の加護がある奴ら以外にあり得ない。

  


 竜騎士が言わずとも自分たちが関与していたことはバレていたのだろう。

 でなければ、ほぼ同じような時間帯にはこの場所に来れない。

 竜騎士があの場で白状したとしても、奴にはこの宿の事は言っていない。

 すぐに見つけられるはずがない。

 

 壁の大きな穴の淵をなぞる。

 部屋の外側に向けて、淵は伸びている。

 高貴神が攻撃されて、ここにめり込んだのだろう。

 血を流さず壁にめり込めるほどの高いステータスを持っているのは奴しかいない。

 アーツの娘であれば、殴られた瞬間に頭が砕け散り、ここは血の海になっている。


 教会の人間には相当の手練れがいるようだ。

 仮にも戦闘能力は皆無に等しいとはいえ、神を無力化したのだ。

 大神の加護で実験的に新造のスキルツリーを埋めつけられているとはいえ、神を御すなど人の範疇を越えている。


 本格的に行き詰った。

 竜騎士の真意もわからず。

 人質が消えたことで、アーツの眷属更生も頓挫。

 道連れも捕まえられ、教会に追われる身分。

 おまけに教会は神を無力化する化け物を連れている。


 もうこれは積んでいる気がする。


 だが、ここで諦めてはだめだ。

 心に叱咤する。


 どれだけここに時間を費やしたと思っている。


 6日だ。


 現人神の移動速度が分からない上、竜神もどこで眠っているのかわからない。

 この状況ではたった1日でも無駄にしたくない。

 ここで諦めればかなりの浪費になる。

 だが逆にここで竜騎士を手に入れれば、一気に浪費など回収できるだろう。

 竜騎士ならば、100日かかる距離だろうとほぼ1日で飛びきることができる。

 6日など短縮した時間に比べれば微々たるものだ。

 失敗してもかけるだけの価値はある。


 この状況でもなんとかするしかないのだ。

 竜騎士の真意などもうどうでもいい。

 敵対しているかもしれないからチャンスを捨てるなど馬鹿馬鹿しい。

 奴がこちらに敵対していないことを前提で進めるしかない。


 頓挫した眷属の覚醒を期間内になんとしてでも果たす必要がある。

 竜騎士の拘留期間は幾何わからないが、これのおかげで時間も少なからず延長している。

 アーツが使えないというなら、高貴神の眷属をアーツなしで覚醒させればいい。

 多少力業でもしょうがない。

 少し精神が歪もうが人間は鈍感だ。

 気づかないだろう。


 計画は立てた。

 行動に移すことにしよう。 

 


 部屋から出ようと踵を返すと、

 突然破砕音がした。




 振りむくと、眼前に大剣構えたシスターが迫っていた。












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