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13 魔術師の激昂②

掲載分、改稿終わりました。




 アーツの怒号がギルドの中で響き渡った。

 怒号を向かう先は言わずもがな青の導きのリーダー、ピティーであった。

 アーツがいつもの妥協をせず、青の導きのメンバーの頼みでもなく、あの脅しによってピティーの更生を実行していた。


「いやだから、スキルが……」

「発動している!いい加減にしろ!お前のその卑屈さがどれだけ周りに迷惑をかけてると思う!お前のパーティのメンバーがお前にどれだけ失望しているかわかってるのか!」

「失望なんて……」


 いつもとは逆の展開となり、ピティーがアーツの剣幕に抑えられていた。

 追い詰められたピティーは最後の言葉を自信のない声で否定しようとした。


 が、メンバーの顔を見て、沈黙した。


「速く正統な報酬を受け取れ!又ふざけたことを言えば、お前らに報酬は渡さん!」


 ピティーの顔に報酬を押し付けるように渡す。

 ピティーは報酬を握って、唸るような声を出すとギルドの外に走っていた。


 青の導きのメンバーはアーツを引いた目で見るとピティーを追っていた。


 あふれ出る怒りがアーツの中でとぐろを巻いて、荒れ狂っていた。

 娘を取られ、あまつさえ男の言う事を聞く自分への怒り。

 自分の周りの問題が男の要求にこたえたことで皮肉なことに一つ減ったことに対する憤り。

 すべてがアーツの身体をむしばんでいた。


 気づくと、仕事を放て街道を走りだしていた。


 娘の生殺与奪が奴らに握られていることが許せなかった。

 嘘をつかないという妻との誓いを安心させるためとはいえ破った自分が許せなかった。


 力の抑えが聞かない手で扉を開けようとして、留め具ごと扉をもぎ取ってしまった。


 頭が考えることを放棄していた。


「ヴォイド、どうしたの……」


 アーツは声が耳に入らず、邪魔だったので雑多なものが置いてある机を蹴り飛ばした。


「何すんだ!?ひどいじゃないか!?」

「糞野郎どもを殺しに行くぞ、キルギス!」


 自分の口から信じられない言葉が放たれた。

 その言葉は、娘を見殺しにして、自分の鬱憤を晴らすために勝てるかもわからない相手に挑むということを意味していた。

 自分の頬を殴りつける。

 歯茎から血が出て、唇を濡らす。

 頭から血が少し抜けて、おちついていく。


 冷静さを完全に失っていたことを認識した。


 まわりを見ると魔術師の友人の家がめちゃくちゃになっていた。

 自分の仕業だと瞬時に理解した。


 扉は根元からなくなり、机から落ちた魔道具が床に散乱していた。

 友人は一つの魔道具をじっと見つめていた。


「すまない、キルギス、俺は……」


 冷静さを失い、取り乱したことに対して、絶望的なくらい情けなくなってくる。

 キルギスはこちらのことなど見ずに、目を輝かせていた。


「ヴォイド、これはすごいんだ!町の中の様子をすべて把握できる優れものなんだ!」


 歓喜の声で熱弁を振り始めた。

 スイッチが入っていた。

 魔術師は、こういう風に自分の魔術に関することになると相手のことを考慮せずにひっきりなしに話すことが多い。

 アーツも、冒険者だったときは同じ穴のムジロだった。

 娘ができた現在は、魔術より娘だが。

 

 「これを見ておくれよ!これはつい最近取れた、夜盗が大規模な盗みを働く姿なんだ!あいつら、僕のポーションを盗んで許せないよ!」


  目玉のような魔道具から、男女二人の姿が投影される。

  娘を攫っていた二人組だった。


 「キルギス、こいつを止めずに見せてくれ!」

 「オ!ヴォイドもこれのすばらしさに気づいたのかあ~。そうだよね。そうだよね。これを貴族に売れば、バカ売れ間違いなしだし、家庭―」

 

 キルギスの声を意識の外にやり、夜盗たちの姿を食い入るように見つめる。


 思い出した。


 こいつらは幾日か前に換金に来て、パーティに誘ってきた連中だ。

 本当はピティーの事はブラフで、前の腹いせだったのか?

 映像は進むと、奴らは最近の有名人である竜騎士の宿の中に盗品を運んでいた。

 伝説の竜騎士ならば、アーツのステータスを越えるだろうあの二人を従わせることもできる。


 奴らは竜騎士の子分なのだろう。


 ではなんでピティーのことを奴らが言い出したのか?

 ピティーはあんな性格だが、顔はいい。

 おおよそ、竜騎士が女としてかこうために俺にあの性格を更生させようとしたのではないか。

 奴ら子分はそれで、誘拐で俺を脅すことで命令を実行しようしたのではないか。

 すべての辻褄があった。


「そんな下らない理由で娘を攫うとは……!」


 アーツの中で再び怒りが再燃する。

 友人の家の惨状を再び見て、理性で抑え込む。

 ふっと、竜騎士と子分のつながりを利用して、娘を救う算段を思い付いた。

 奴らはおそらく、アーツが娘のことで教会に訴えたとわかれば、腹いせに娘を殺すだろう。

 しかし、別の罪―夜盗で、しかも竜騎士から教会の手が伸びれば、娘のことなど眼中から消え、慌てて逃げだすのではないだろうか。


 駆けの部分がだいぶ大きいが、もうこれしか残されていない。

 これが成功すれば、法を作ってくださった法の母、アリストクラテスに感謝を忘れずに生きるだろう。


 目のような魔道具を懐に収める。

 今からこいつが必要になる.


「キルギス、迷惑をかけた、俺は教会に行ってくる」


  まだ自分の魔道具に夢心地になっているキルギス声をかけて、外に飛び出した。


「ヴォイド!あんなやばい―」


 引き留めようとする友人の声が聞えたが無視した。


 元冒険者で今はギルドの受付だ。

 教会がギルド関係者にとって最悪な場所なのは重々承知している。






 教会の門の前に到着した。

 今は祈りの時間だ。


無を食え(ナッシングバイト)


 アーツは魔術を起動させる呪文を唱える。

 無そのものが魔力に変換され、身体に流れ込んでくる。

 魔力が体にいきわたった。


 門を開けて中に入る。

 案の定、武装した修道服の男たちが殺到してきた。


 「ロックポイント」


 ありふれた初級の魔術を使い、壁に男たちを縛り付ける。

 男たちは必死にもがくが、破れないようでみるみる顔が赤くなっていく。

 

 「なぜ破れない!貧弱な魔術を大神テオス様の加護を受けた私たちが解けぬはずはないというのに!」


 信徒どもの言葉が耳を打つ。

 初級といえど、魔力を多く詰めているのだ。

 加護か何か知らないがそんなわけのわからないもので破られたら困る。


「ブラックリストの異端者がそちらからきてくれるとは、手間が省けましたね」

 

 背を向けて、祭壇に祈りをささげる修道女が声をかけてくる。

 魔術を食らっているというのに、意にも介していない。

 代わりに無遠慮な殺気が漏れている。

 だから教会は嫌なのだ。


「無限の魔術師、ヴォイド!」


 祭壇にいた女が消えた。

 

 代わりに刃物が岩を削るような音が聞こえる。

 大剣を引きずった女がバカみたいなスピードで接近していた。

 魔術の圧と大剣のおもりがあるというのに、いかれた速さだった。

 大剣なぞどこから持ってきたのか。


 「竜を空に縫い留よ!スカイズロック!」

 

 拘束で最高クラスの魔術を発動する。

 竜をも止める見えない鎖が女を止めた。

 

 「さすがは、異端の神、智神に愛された男。

その無尽蔵の魔力で私を止めると言うのですね!

いいでしょう!私も大神テオス様への信仰を見せるとしましょう」

 

 女の身体から肉と骨がつぶれるような音がすると、ゆっくり、ゆっくり近づいている。

 馬鹿げている。

 信仰とやらで拘束にひずみを入れてきている。

 あと幾何もせずに女に掛けた拘束が壊されるだろう。


 これ以上の戦闘は避けたい。


 「人の話を聞け!俺はあんたらに夜盗どもをどうにかしてほしいと頼みに来ただけだ」


 懐からキルギスの魔道具を取り出し、壁に夜盗の姿を投影する。

 それを見るとみるみるうちに、女の顔が赤くなっていた。

 拘束を完全に解いて、投影されている壁を大剣で木っ端みじんにする。

 床を大剣で何度か殴りつけた後、荒い息をついて止まった。

 

 「何ですかこいつら!狂信を越えた異端者じゃないですか。どれだけの信仰をささげれば、これだけ異端の神の気配を漂わせられるのです!」


 教会に悲鳴にも似た女の絶叫がこだまする。

 嫉妬と嫌悪がないまぜになったような表情でなくなった壁を見つめる。


 「正当な神は大神テオス様のみ!この異端者たちは危険です。早急に消すべきです」


 何を言っているのかはよくはわからないが、こちらの意図通りに動いてくれるらしい。

 この女ならばたとえ奴らと戦闘になっても勝てるだろう。

 根拠のないがそう感じた。

 単純な強さとは違う、得体の知れなさがそう感じさせるのだろう。

 


 だがそれでも。

 娘が解放されてそれでも、奴らが教会でどうにもできない場合は、アーツも出向くことに決めている。


 怒りはまだ消えていない。

 とぐろを巻いて、自分の中に納まっている。

 奴らに次会えば必ず殺し合いになる。

 それだけは現時点でもわかった。






 下界最高クラスの魔術師と教会を二神は敵に回した。
















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