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prologue-1

「ねえ、覚えてる?」


「なんの事をですか?」


 互いの掌越しに伝わる、隣の少女の温かさを、より強く握って確かめようとすれば、それに応えて握り返してくれた。相手の顔は、見ようとすると、鼻の頭同士がぶつかりそうな距離にある。もう年の瀬がすぐそこの冬の夜風が、衣で覆われていない顔を撫で続け、二人共鼻の先が少し赤くなっている。


「一ヶ月くらい前、貴女が私に声をかけてきたあの日のこと」


「もちろん覚えていますよ。忘れるわけがありません」


 そう言われるとはやり嬉しくなって自然と笑みが溢れる。彼女も笑い返してくれた。


 昼間の青白さとは一転、輝く星がはっきり見えるようになった夜空に視線を上げて、言葉を出した。


「あの日にね、まさかこんなになるなんて、思えるはずなかったんだよ」


 今日云おうと思ってはいたが、踏ん切りがつかず言えなかった言葉をどうにか云いたい。


 しかし、いざ口にすれば、胸の拍音が周りの音を掻き消すくらい大きくなっていく。思った通りの言葉でないし、当然彼女の顔をなんて見ていられない。


「私は、少し期待してはいたんですよ」


 彼女の、心なし弾んだ声が、煩い拍音の隙間から聞こえた。


「でも、あまり期待しないようにしようと思ったんですよ。……それは私のエゴだったので」


「まさかそのエゴに、こうやって私が付き合わされるなんてね」


 辛うじて返事はできたが、呼吸も荒くなるほど、心臓がまだ激しく打っている。彼女は返事をしない代わりに、私の左手をまた強く握ってきた。


「今日なんて、クリスマスに貴女と二人で遊んだんだよ。しかも、あんなアミューズメントパークの類に誘ってくるなんて、ちょっと予想外だった」


「普段からよく行くとか好きだとかではないんですけど、ただほら、普段は、もう年明けには受験ですし、全然遊べないじゃないですか。だから、ちょっと一日ぐらいはいつもと全然違うことをしたいなって思ったんです。それに、私はこうやって行きたい人と遊園地でデート、なんてシチュエーションは私だって憧れるんですから」


 まだ本当に伝えたい言葉を口にする勇気が無くて、私は照れ隠しに必死に遠くの方を見ながら云ったのに、彼女は厭うことなく口にする言葉で、私の顔は一気に熱くなるのがわかる。


 真っ直ぐ見ることはできず、横見で彼女の顔を見てみれば、目が合って、そうしたら彼女がそれを反らした。珍しく赤くなった耳元を此方に向けながら。彼女も照れを感じている事がわかって安心感のようなものを得ると同時に、彼女の照れる姿を見る機会なんて覚えている限り全然なかったから、そんな彼女の反応に、血圧が更に上がる感覚がする。

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