第9話
「……ふむ」
「ガク、お前、それを良く読んでいられるよな」
放課後になり、ガクに遅れて幼なじみの住処に顔を出す。
遅れたのは今日が掃除当番だったからなんだけど、手帳の件があるのだから教室で待っていてくれても良いとは思うんだ。
まあ、ガクが相手だから仕方ないんだけどドアを開けたらあの手帳の中身を眺めている幼なじみがいるのだから言葉に困る。
「ん? まあ、いろいろと思うところがあったんだ」
「いろいろね……おい。あれはなんだ?」
こちらに気が付いたガクは手帳を閉じると昨日、帰り際に作った封印と書かれた場所に置く……ただ、そこはなぜか昨日の放課後より、お札やしめ縄など物々しく改造されている。
……なんで、こうなっているんだ? あまりの禍々しさにあれだけでは抑えきれなくなったのか? やっぱり、きちんとした場所でお焚き上げ、お清めが必要なんじゃないか?
あの手帳がそれほどの物だったのかと言う恐怖で背筋が寒くなる。
ただ、ガクは俺が思っている事などまったく気にした様子もなく、2人分のコーヒーと朝のあまりもののマカロンを置く。
「今日は特に頼みたい事はないぞ」
「……俺だって、毎日、手伝いたくない。あれの件で何かわかった事がないかと思ったんだよ。進捗状況くらい聞く権利はあるだろ?」
本日は特に依頼人がいないようでガクもゆっくりとした感じに見える。
手帳の件で昨日は家に帰ってマカロンを焼いたし、いろいろと指示が出ていたんだから何か進展があって欲しい。
「確かにそうだな。ネタにされている事さえ知らない哀れな人間もいる事だし」
「本音を言えば、ネタにされている事を俺は知りたくなかったよ……それで何かわかったか? もったいぶらずにはけ」
どこか、何も知らない宇木やハルの事を羨ましく思う。
ただ、知ってしまった手前、このままではずっと背中に冷たい物を感じそうだから、はっきりさせたいんだろう。
昨日の今日と言われそうな気もするけど、ガクの事だから絶対に何かをつかんでいると言う確信がある。
「そうだな。今朝、わかった事なんだけど、うちのクラスに……腐女子が多数発見された」
「どうしてそうなった……」
ガクの口から言葉にうちのクラスにも容疑者が複数人いると言う事実に力が抜けてしまう。
そして、心が折れそうな俺はこの後に更なる追撃がある事を完全に頭から除外していたのだ。
「お前の口にマカロンを運んだ様子を見て、ペンを落とした事に気づかずに俺達に視線を向けていたのが2人、机や人にぶつかって転んだのが3人、純粋に目を輝かせていたのが2人、鼻血を噴きだしたのが1人、もう隠す気がないのか興奮で机を叩いていたのが1人、平静を装いながらも食べていたお菓子を落としそうになったのが1人……計10人の腐女子及び腐女子候補が発見された」
「お前、それを確認するためにあんな事をやったのか?」
あの騒ぎの中でも周囲の様子をうかがっていたと言う事に驚きを隠せない。
ただ、それ以上に自分と俺をネタにしてクラス内の腐女子をあぶりだすと言う方法とその事実を淡々とした口調で話すガクの事がわからなくなっている。
これは絶対に容疑者をあぶりだすためにやった手が被害を拡大させるだけのヤツとしか思えない。
「宇木とハルが題材にされているのが多かったから、クラス内に犯人が潜んでいると思ったんだけど、予想以上に容疑者が増えたな」
「……完全に悪手じゃないか。だけど、10人って多すぎないか?」
「いや、ホモが嫌いな女子はいないと言う迷言もあるらしいからな。ただ、恐ろしい事にあくまでクラス内の容疑者が10人になっただけで学内と考えるとこの何倍も容疑者が増えるだろうな」
知ってしまった手前、俺はこれからきっと教室内でガクや宇木達といると背中におかしな視線を感じる未来しか見えない。
……どうしてこうなった?