第8話
羽美視点になります。
……あ、あの2人は朝から何しているの? ホモおなの? 本物なの?
突然、目の前で行われた情景に一瞬、時が止まってしまった。その後に動き出したのは私の中にあるちょっと可愛い乙女心。
スズから提案のあった新見くんへの相談の事を考えていた時、新見くんと幼なじみの……確か空木円くん?が教室に入ってきた。
あの手帳の中にはあの2人を題材にした物もある手前、やっぱり、内容が内容だけに手帳の事を相談するのは止めた方が良いと考える。
そう他の方法を探そうと決めた……はずだった。ただ、その瞬間に思考が停止するような事が起きた。起きてしまったのです。
……男の2人であーんとかここは天国か?
新見くんの手から直接、推定マカロンが空木くんの口に運ばれた。
もう見る人が見れば完全にBLな1シーンにしか見えない。実際、この教室の中に数名の腐女子がいた。
あれを見た瞬間に手にしていたペンを落とす、机にぶつかると言う女子達の可愛い乙女心が発動したのだ。
私はなんとか外に出す事は押し込められたはず……実際は危なく食べていたクッキーを落としかけたけどなんとか押し込められた。
目の前にいるスズも特に私の変化に気が付いたような仕草はなかった。だまし切れていたはず。
……しかし、幼なじみ2人のBLな空気から一転して宇木くんの口へマカロンを詰め込む姿、私の本能は間違っていない。
新見学……あの男は絶対にドS、これは確定事項。弱みなど絶対に見せられない。
「……ねえ。知っている? 昨日の放課後、新見君が空木君を押し倒して制服脱がしていたんだって」
「やっぱり、あの2人って、そういう関係なのかな? さっきのあーんも良かったけど、その場で見たかったよ」
絶対に新見くんへの相談は出来ないと心に決めたのだけど、先ほど、動揺を隠せなかった腐女子達が聞き逃してはいけない言葉を発していたのが耳に入ってきた。
……なぬ? それはいったいどういう事? 放課後、何でも屋もどきの部室で幼なじみ2人の絡み合いだと? 昨日の放課後に何があったの?
聞こえてくるやり取りに一気に心が傾く。し、仕方ないじゃないか。これはただの可愛い乙女心。
や、やましいことなど微塵もない。神様だってきっと許してくれる……いや、神が許さなくてもそこで繰り広げられる情事は後学のため、新たな作品を生み出すため、創作者には絶対に見ないといけないものなの。そう、これは神秘への探求心であって何もおかしい事はない。
「羽美、どうかしたの?」
「ふぇ!? な、何でもないよ。仲良いなと思って」
思考が一気に傾いていた時、スズの声で現実に引き戻される。
少しおかしな声が出てしまったけど平静を装いながら、沈められた宇木くんの周りでバカ騒ぎしている男子達を指差して見せる。
「本当だよね。仲良いよね」
「朝からどうしてあのテンションで騒げるのかわからないよ」
私が指差している方へと視線を移したスズはほんわかとした笑みを浮かべた。
どうやら、私の可愛い乙女心は外には漏れていなかったようだ。目の前にいたスズすら気がつかなかったんだから絶対に問題ない。
……そう、この時の私はスズをだませた事で完全に油断していたのだ。後であんなことになるとも知らずに。