第13話
「えーと、いってらっしゃい? ……これはチャンス到来ね」
新見くんが空木くんを引っ張って部屋を出て行ってしまった。
2人の背中を見送った後に不意に訪れたチャンスに口元が緩んでしまう。
しかし、人の作品を禍々しい物と言うのはどうなんだろう? 年頃の女の子のちょっと可愛い乙女心が漏れただけじゃないか。まったく2人とも失礼だよ。
「さすがにこれを回収して逃亡すると私が疑われるよね?」
封印と書かれたお札を破り、手帳を回収する。うん、手に吸い付くようなこの感じあるべき場所に戻ってきたと言った感じだ。
手帳を取り戻したため、こんな場所からはおさらばしようと思ったけどさすがにこれは不味いよね?
留守を頼まれた人間がいなくなって破り捨てられたお札となくなった封印物……犯人、私しかいないじゃない。
さすがにこのままにしておくわけには行かない。どうしよう? ……一芝居うった方が良いよね?
空木くんは女子に甘そうだから簡単に騙せると思う。問題は……あのサド男、簡単に騙せる気がしない。
「……もう少し信頼を得てからにするべきだったよね?」
不意に転がってきた幸運に飛びついてしまった事を少し後悔する。しかし、時間を空けると私の乙女心が詰まったこの手帳が焼かれてしまう可能性があったのだから仕方ない。
若干、後悔するものの自分の判断は間違ってなどいなかった。そう言い聞かせて何か使える物がないかと周囲を見回す……ただ、特に使えそうなものはない。
役に立たない……そうなると使えるものは私の演技力?
「……できるかな?」
不安が口から漏れてしまうけど、できるかな? ではない。
やらないといけない。この手帳の中身を知っている人間が少なからず、2人もいてそれを回収してしまったのだ。
なくなった事に気が付けばここに残っていた私が疑われるのは当然……ん? それならいなかった事にすれば良いのか?
いなかった事にする……まあ、単純な答えに行きついたわけだけど理由をどうするかね。逃げたと思われてはいけない。だけど、疑われないようにする。
方向性は決まった物の作戦自体が決まらない。そんななか、時間だけが過ぎていく。
このままではダメ。焦っても何も考え付かない。そう思い、テーブルの上にあるコーヒーへと手を伸ばす。
……インスタントと言う割には美味しい。ち、違う。落ち着こうとは思ったけどここまでまったりして良いわけではない。
息を抜きすぎてしまったことに慌てて首を横に振る……何なんだろう? この場所の空気は人を堕落させるの?
時間がない。10分しかないのにこんな事をやっているヒマはない……コーヒー飲みすぎたかな?
考えがまとまらないで焦っているのに重なってか、微妙にお花をつみたくなってきてしまう。
ただ、そんなことをしているわけには……いや、これで良いのか? 若干、乙女として恥ずかしい方法だけど手帳が私のものだとバレてしまう方が恥ずかしい。
「……良し、そうと決まればここから一時撤退ね。私がここから離れている間に侵入者が来て手帳を奪って行った」
手帳を制服の内ポケットにしまうとドアを開けて周囲を見回す。
とりあえず、新見くんも空木くんもいないね。このタイミングで見つかってしまっては犯人が丸わかり、台無しになってしまう。
一先ずはトイレに1度逃げ込もう。後は私の演技力の問題ね。大丈夫よ。スズをもだまし切ったこの私の演技力を見せてあげるわ。




