第11話
……ここは天国なの?
放課後になり、朝の様子が気になって新見くんの何でも屋もどきの部室に足を運ぶ。
決して、新しいネタが見つかるのではないかと思ったわけではない。いや、多少はそんな気もあった事は否定しないけど本題はそっちではない。
ただ、新見くんは守秘義務を守ってくれると希望的なものを持ってはいるけど、他に協力者がいた場合にはそうはいかないかも知れない。なんとなく物珍しいからと見学に来たていで様子をうかがい、何か情報があればその情報を元に手帳を回収できれば儲けもの。新見くんは依頼によっては協力者を選ぶと言うのだから、興味本位で名乗りを上げた。そんな感じで行けるはず。
そう思い、少しドアを開けて部室の中の様子をうかがってみると新見くんだけではなく空木くんがいた。話は良く聞こえないけど2人でラブラブしている。きっと、いや、間違いなく。もう鼻血が出そう。
お、落ち着こう。そうじゃない。これは新しい手帳用のネタに取っておこう。すーはー……よし、これでいける!?
深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとした時、私の目におかしなものが映った。
部室の一角に封印と書かれたお札が張られ、まるで邪悪な何かを封じているような場違いなもの。その中心に置かれているのは間違いなく、私が落とした手帳なのである。
……何か情報でもと考えていたけど、まさか目的のものがあるなんて。
予想外の展開に頭がくらっとする。ただ、あの手帳は自分のものだと突撃するわけにはいかない。どうしよう? 考えろ……あ、新見くんと空木くんが見つめ合っている。これはまさか本番が始まっちゃう? いや、違う。今はそれじゃない。でも、もっと近くでみたい。そう。これは生命の神秘を求める探求心!! 決して、やましいことなど何もない!!
頭をフル稼働しようとするけど目の前に移る素晴らしい光景に考えがまとまるわけがない。
それどころか本能がこの部室内に踏み込めと言っている……あ、不味い?
葛藤を繰り返していたなか、どうやら、理性が完全に本能に負けてしまったのか右手がドアを叩いてしまった。
に、逃げないと?
部室内に手帳があった事で対応方法が変わってくる。それの対処がまったくできていない。
今の段階で話を振られてもまともに対応できるはずがない。それどころか私が腐女子である事が露呈してしまうかも知れない。
それは絶対に避けないといけない。ただ、そこには男子2人がいちゃいちゃしていると言う夢の空間がある。そう考えると足が動くわけがない。
「浅見? どうした。何か用があるんじゃないのか?」
「え、えーと、お、お邪魔します」
私が動けないでいるとドアが開き、新見くんと目が合う。
のどが一気に渇いて行く気がする。ただ、ここで逃げると間違いなく不審に思われる。
逃げ出しそうな足を何とか押し止めて、新見くんの後に続く。
「浅見、コーヒーで良いか? 紅茶もあるけど」
「えーと……なんでそんな物があるの?」
「インスタントじゃ不満か?」
当たり前のように部室の中心にあるソファーに座るように案内され、新見くんは飲み物を用意してくれようとする。
ただし、その行動は明らかにおかしい……なぜ、当たり前のように飲み物が用意されるか理解が追いつかない。
「そうじゃないけど……コーヒーでお砂糖とミルクはあるかな? な、ないなら良いよ」
「女の子はやっぱりブラック飲めないものなのかな? あ、マカロン食べる?」
「人それぞれだろ。缶コーヒーは甘すぎて、缶の場合は絶対ブラックと言う人間もいるからな」
新見くんと空木くんが飲んでいたコーヒーはブラックだったため、飲めなくもないけどミルクと砂糖を頼んでみる。
そして、当たり前のように出てくるあたり、この部室内はおかしいと思うんだけど2人には当たり前のようで気にした様子もなく、マカロンまで差し出される。
マカロン、美味しい……あれ。ここ、すごく居心地良いかも知れない。
ち、違う。私がここに来たのはマカロンを食べるためじゃない!?




