第1話
夕日が差し込む部室、その夕日は2人の男子生徒を照らすスポットライトのようにも見える。
「ハル、さっさと帰らないか?」
「……なあ、宇木、ちょっと聞いて欲しい事があるんだ?」
部活はとっくに終わっているのにいつまでも帰ろうとしないハルを心配して宇木は彼の顔を覗き込む。その近すぎる距離に小さく息を飲むとハルは何かを決意したのか真剣な表情する。
彼の表情に宇木は不思議そうに首を傾げた時、彼の頬に何かが触れる。
「ハ、ハル、何をするんだ!?」
「宇木、俺、お前の事が好きだ」
頬に触れたのが唇だと気づいた宇木は冗談にしては悪質だと怒りの声をあげ、彼を吐き飛ばそうとするのだがそれよりも先にハルは手を伸ばし、彼の身体を引き寄せた。
「何を言っているんだ!? 俺は男だぞ!?」
「……知っている。だけど、もうこの想いは止められそうにないんだ」
その告白は非現実的な事であり、宇木は必死にその腕の中から抜け出そうとするのだが彼を押さえつける力は予想以上に強い。
「……バカな事を言うんじゃねえよ。冗談にもほどがあるぞ。そうだ。ドッキリだろ。ほら、大成功だ。どこかであいつらが見ているんだろ。さっさと出て来いよ」
「……冗談でこんな事を言うかよ。聞こえるだろ。俺の心臓の音」
「わかった。わかったから逃げないから放してくれよ……」
普段、ハルはこんな事を絶対にしないため、性質の悪い友人達が何かを企んでいるのだと宇木は決めつけようとするが否定するハルの声は震えている。
それは本来、有ってはいけない告白をした事で今まで築き上げてきた関係性が崩れてしまう事への不安の表れである。
制服越しに伝わるハルの鼓動は速く、その告白が嘘ではないと証明していた。
鼓動から伝わる彼の想いに冗談ではない事が理解できた。ただ、この状況は何かと問題があるため、解放するように頼む。
「お、俺はお前の気持ちには答えられな!?」
「……嘘言うなよ。それなら、どうして、こんなになっているんだ?」
その願いに彼を押さえつけていた力はゆっくりと緩められて行き、宇木は対峙するようにハルの前に立つ。
自分を落ち着かせようとしたのか大きく深呼吸をするとまっすぐと彼の顔を見つめ、絞り出すように苦しそうな声で告白への拒絶を示そうとする。
しかし、その言葉をハルは遮ると彼の鼓動を確かめるようにその手を伸ばした。
ハルの手に伝わる鼓動は自分が彼の事を想っている時の物と同種であり、否定など許さないと言う強い瞳で聞き返す。
「だって、おかしいだろ? 男がおと……」
「おかしいわけなんかない」
それでも認める事は出来ないと拒絶する宇木だがハルはそんな彼を引き寄せるとその口を塞いだ。
「Noooooooo!?」
拾った手帳の内容を見た俺の口から出たのは圧倒的な拒絶であり、手にしていた手帳を床にたたきつけてしまった。
それはそうだろう。手帳を拾って持ち主の手がかりでもないかと開いてみたらそこに書かれていたのは軽音部に所属している友人2人を題材にしたホモおな恋愛小説なのである。
確かにあの2人の距離は近い。それは同じ部活であって趣味が合うからであり、決してこんなただれた関係などではないはず……そう思いたい。
「……これ、どうするべきだ?」
こんなコアな内容が書かれたものを他の人間に見せるわけにはいかない。誰かに見られて発表された日にはこの手帳の持ち主もそして題材にされた2人も尊厳的な死を迎える。きっと、持ち主も落とした事に気が付くと必死になって探すだろう。
正直、こんな物を書いた人間とどう向き合って良いかわからない。ただ、拾ってしまった手前、こんな危険物をそのままにしておけるほど神経は図太くはない。
「……絶対にガクのせいだ」
元々、授業が終わってすぐに帰宅できる予定だった。
ただ、幼なじみの新見学におかしな事を押し付けられてしまったためにこんな時間になってしまったのだ。
この意味の解らない憤りをぶつける場所を学に向ける事を決めると待ち合わせている奴の不法占拠へと向かう。