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ペッパーミルな男

作者: クオリアファンクラブ

 モモは、昼間のバラエティー番組をみながら、めそめそと泣いていた。

 テレビでは、姑が嫁である相談者に対し、嫌がらせをすることを訴えている。相談を受けたタレントたちは、姑にも嫁にも受けが良いように

「あなたにも悪いところがあったんじゃありませんか」

と、執拗に説いている。

 どちらにしろ、こういう番組を見るのは女性が大半で、女性が

女性に対する嫉妬心を煽ったり、姑の共同意識を掻き立てるために、こういったトークが繰り広げられているんだってことに、わかっていても腹が立っていた。


 テレビを見ながら、我がことのようにモモが考えた。

 モモも結婚して16年。夫の家族からのありとあらゆる、ちょっとした嫌がらせに耐えてきた。

 モモも女性ではあるが、女性が女性に対してやってくる嫌がらせっていうのは、かなりこたえるものが多いのだ。

 モモが今までにいたどんな集団でもだが、同調圧力といったものがじわじわ増していくのが普通だ。

 そこにいるってことで得られる安心感も束の間、気が付くと、抜けないように、こぼれおちないようにという緊張感で集団は一種ヒステリックな状態になるときがある。

 女性の場合、そういった緊張感への突破口が、ひとつイジメとなってあらわれてくる気がする。

 モモは、こういった突破口の入り口にもってこいの女だった。


 冴えない容姿。

 背は低くて151センチしかない。

 結婚後はこの身長にして体重は67キロ。

 スモッグとか、膝まであるチュニックをきて、下にゴムのパンツをはいて体型をごまかした気になって鏡をできるだけさけて過ごす、そういう女である。 

 気が弱く、現実を直視するのも苦手。

 感覚的なことが強く、妄想気味。

 論理的なことにも弱いため、ちょっと論理に秀でた女性からはバカにされ、論理一辺倒の男性からは話し相手とも、女としても見られない、そういう存在であった。

 夫は、優しいふりをしているが、モモのそういった部分をうまく利用して好き放題やっていた。


 そう、モモは醜かった。

 おどおどとして、自分でも醜いと思っていたし、周囲も醜いと思っていた。

 モモは、あらゆる集団にとって、まず真っ先に、いじめの矛先になりやすかった。

 モモはそして、そういった状況を許してもいた。

 仕方ないんだと。


 モモはテレビを消して、こたつの机に手をかけながら、ゆっくりと立ち上がった。

 最近は、太りすぎのためか、手足がしびれやすい。手先も冷えるし。

 だからって病院にいくとか、運動をするではなく、なんとなく怖いので、清涼飲料水をがぶ飲みしたり、お菓子を食べまくることで、自分をだまそうとしていた。


 モモは給料日まで2週間なのに2000円しかない財布を持ち上げて、歩いて5分のスーパーまでだらだらと歩いた。

 


 スーパーで買い物といってもおからだけである。

 大抵、後半2週間はおからだけで過ごしていた。

 子供たちはブウブウいうけれども、夫に請求するのは気が引けて、ずっと請求できないでいた。


 玄関のドアをあけて家に入ろうとした、その時だった。

 「いまからいうとおりにしろ」

 そういう声が聞こえたわけではない。

 なんだか、そういう考えが頭に浮かんだ気がしたのだった。

 モモは、あたりをグルグルと見回してみた。

 誰もいない。

 「これって、どうしたことなんだろう!」

 モモは慌てて、PCに向かった。そして今しがた自分に起こったことをグーグルで検索してみた。

 そしてどうやらこれは、幻聴で、もしかすると統合失調症という病気かもしれない、そう思いつく。

 慌てたモモは息が苦しくなり、このまま死んでしまうかも知れないと意識が薄れてくる。

 なんとか電話まで這って行って、救急車を呼んだ。

 病院での判断は

「女性にはよくありがちですけれども、何か良くない病気などをきくと、そう思い込むというやつですね。それと過呼吸症候群ですね、これは。死にませんよ」

「あの幻聴みたいに、頭に考えのようなものが浮かんだんですけれども」

「幻聴って、結構よくあるもんですよ。普通、みんな気が付かないだけで。それに、自分で幻聴だってわかる場合は、幻聴とはいわないもんなんですよ。わからない場合だけ病気として治療していくもんです」

 モモは結局、心を落ち着けるための薬を大量にもらい、家に帰った。

 


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