黄昏色の分かれ道/2
◇◇◇
お昼休み。
私はまたいつものようにメグミとミノリといっしょにお弁当を囲む。
いつもの、普段通りの風景。
それは私に昨夜の事が夢だと思わせるには十分すぎるくらいなものだけど、生憎と私ははっきりと覚えていて、しかもその矛盾に気が付いてしまったからもうどうしようもない。
さらに言えば、あれが本当にあったことである以上、私のこの大切な日常にまで影響を及ぼすかもしれない。
なら私は、それを何とかしなきゃいけないのだと思う。
「――よう」
ふわり、とまるで羽が地面に落ちるような、もしくはパズルのピースがぴたりとはまるような自然さで、彼は私の隣に腰かけた。
「…………ケン?」
「よっ、また一緒に食おうぜ!」
邪気のない笑顔。
あまりに無防備なその顔に、何故か、言い様のない不安を抱く。
それが私の良くない感情に直結する。
要するに、ものすごくイラついた。
「言わなかったかしら、私にからむなって」
「おう、言ってたな。まぁいいじゃねぇか、飯食おうぜ」
「いいじゃねぇかって、あんたねぇ……」
「あーッ! ちょっとストーップ!」
「ミノリ……」
強引に私たちの間にミノリが割り込む。それに合わせて兎塚くんもやってきた。
「ストップ! まったく、朝にいがみ合ったんだからさ、今日はもういいでしょ」
「そのとおりだ。空気を読めと言ったはずだぞナオヤ。どうしてお前はそう大神に突っかかる?」
「……」
「ってかさ、いつものケンカならいいのよ。むしろそれならあたしは大歓迎だしね。でも今日のレイコってなんか変じゃん。だからさ、ケンも少しは自重しなよ。そうじゃないと逆に雰囲気悪くなるって」
「……そうね」
ふいっと、私はそっぽを向く。
まだ手がかりをつかんだだけで何もわかってはいないのだ。だから今はケンにかまけてる余裕はない。
「ほらよ」
「…………え?」
最初それが何なのか理解できなかった。
私と同じくそっぽを向いたケンがぬっと差し出してきた腕。
それに握られていたモノが。
「やるよ、なんか知らねぇけどイライラしてんだろ? ならこれ食えよ、小魚はそういう時に効くんだぜ」
「あ、うん……」
呆然としたまま私はそれを受け取った。
男子だからか少し大きめに握られたまん丸のおにぎり。
それは昨日ケンが食べていた彼のお弁当で、たった今私に渡したものだった。
「は……? あんた何がしたいわけケン。ってかレイコがイライラしてるのってあんたが原因じゃん」
「ちっげーよ! 朝からなんか暗かっただろーがよ。それで元気づけてやろうかと思ったらいきなりキレられたんだよ!」
そういえば、確かにケンにイラついて当たったけれど、よくよく考えれば彼は何も悪く無くて。
言うなればあれは単なる私の八つ当たり。
「――――」
ケンとミノリのやりとりを聞きながら、両手に収まったそれを見る。
海苔も巻かれていないおにぎりはどこか無骨で、食べざかりの男の子用だとわかる大きめなもの。
撒かれたラップを解き、一口、口にする。
具材は白子と胡麻とひじき。混ぜご飯にしたものを握っただけのとても簡単なそれは、けれどとてもしっかりとした味で。
「ケン」
「お、おうよ。どうした大神」
「これ、だれが作ったの?」
「は? そんなん俺に決まってんだろ。けっこういけるだろ? 俺さ好きなんだよな、この具材の組み合わせ」
「そう。あんた、意外と料理上手なのね」
自慢げに浮かべられた笑み。それを見て何故だか自然と笑みがこぼれた。
なんだかすっきりとした気分。
憑き物が落ちたかのように軽くなる。
もしかしたらケンの言う通り本当に効き目があったのかもしれない。
「あれ、レイコ?」
「心配掛けたわね、ミノリ。でももう平気みたい。なんだろ、自分でも良くわかんないや。でも、なんかバカ犬のおかげですっきりした」
「へ……?」
「悩むのがバカらしくなったのよ。こんな能天気な奴見てたらね」
もう一度微笑んで見せる。
そう、本当にバカらしい。
いいじゃないか、わからないならわからないままで。
それならそれで、後は行動あるのみなんだから。
◇◇◇
「ミノリ、悪いけど今日の部活あんたが代わりに指揮とって」
放課後。
ホームルームが終わった直後に私がそう言えば、ミノリは目を丸くして固まった。
「悪いけどお願い。これメニュー表。一応作ったけど状況に合わせて好きに変えていいから」
「ちょ、ちょっとまったレイコ! まず意味分かんないんだけど?」
「だから私の代わりに今日の練習の指揮をとってほしいのよ。私、今日は行かないから」
「行かないって、朝はそんなこと言ってなかったじゃん」
「ええ、さっき決めたことだから」
正確には昼休みにだ。
あの一件でなぜか私は吹っ切れた。だからこればかりはバカ犬に感謝だ。
絶対に言ってあげないけれど。
「さっきって、そんな勝手したら示しつかなくない?」
「そうね、でもお願い。大事なことなのよ」
頭を下げてミノリにもう一度頼む。
これは私の身勝手だ。我儘は十分承知しているし、ミノリの言う通り主将として示しがつかない。
けれどこればかりは譲れない。放っておくことなどできない。
勝手な直観だけど私は知っておかなければいけない、そんな気がするのだ。
そのためにはもう一度あの二人に会う必要がある。
「ちょっ、……ああ、もうっ! わかった、オーケーレイコ。アンタにそこまでされたら逆らえない。仕方ないからあたしがテキトーに言い訳しといてあげる」
「ありがとう、ミノリ。恩に着るわ」
それだけ言って私は踵を返す。
憂いを断ったら善は急げ。後はもう行動あるのみだ。
明るいうちにできるだけ多く探し回らないと。
「レイちゃん」
「ん?」
不意にメグミに呼びとめられた。
「無理、しないでね」
「……メグミ?」
「レイちゃんの良いところは何でも一生懸命なところだよ。でも頑張りすぎちゃうのは悪いとこ。だから無理しないで。わたし、いつでも相談に乗るから」
「…………。ええ、わかったわ。約束する、無理はしない。それと、無理になる前に相談するから」
「うん。――じゃあ、頑張ってね」
「ありがと」
今度こそ教室を後にする。
やっぱりメグミにだけは隠し事はできないみたいだ。
でも、おかげでやる気がでてきた。何とかなりそうだ。
心を切り替えて外に出る。
昨日の出来事を再生させて、気合いを入れなおす。さぁ、行動あるのみだ。
と。
「――――思い、出した」
唐突に甦る記憶。
思い出した。あの男の人が言っていた台詞を。
普段聞くことのない言葉は、だからこそ異和感として記憶に掛かっていた。
そう、あの人は
〝アヤカシツキ〟
確かにそう口にしていた。
なら、おそらくはこれがキーワードになるはずだ。
◆◆◆◆
夜にはまだ遠く、昼と言うには遅い時間。
この時間は私と同じ学校帰りの学生や夕方のセールだろうか、買い物帰りの人々で賑わっていた。
それにちょっと後悔する。こんなに多くては探し出すのは難しい。
あの二人の顔は覚えていたから簡単だと思っていたけどそれはどうやら勘違いだったようだ。
さて、どうしよう。
「とにかく、歩くしかないか」
声に出す。そうすることで自分に喝を入れるのだ。
というか、そうでもしないとさすがに心が折れそうだった。
とにかくがむしゃらに歩いた。
この街は大きくはないと言ってもそれは都会と比べて、という意味であってけして小さいというわけではない。
だから街中を歩くとなるとかなり時間がかかるし、ましてやこの中から人を探し出そうとすればそれはかなり不可能に近いことだった。
それでも私は街の中を歩いて回った。
時間がかかる街中とは言ってもそこは地元民だ。近道や効率の良いルートは知りつくしてると言っていい。
だから私はけっこう短時間で街を見て回ることができた。そうして、気が付けば辺りはだいぶ西日が傾いてきていた。
茜色に染まる夕暮れ時。
街の中が、この、どこかもの淋しい郷愁を感じさせるオレンジ色に包まれていく。
歩く私の足元を長い影がついてくる。
もう、あと少しで完全に日が暮れるだろう。
冬の夕空は短い。
すぐに沈んでしまって夜が訪れる。
だからだろうか、この季節の夕日がこんなにも悲しく見えるのは。
立ち止まり、夕日を眺める。
そこはちょうど建物と建物とが道路を挟んで対峙する道の真ん中。
その中心を、まるで挟まれるように、地面に飲み込まれるように夕日が沈んでいく。
別れの季節。
そんな言葉が脳裏をよぎった。
「……」
ほんの少しだけ眺めて、また私は歩を進めた。
◆◆◆◆
完全に日が暮れた。
隣町に行こうと思ってもいたけれどそれは取りやめることにする。
理由をつけるならそれは「なんとなく」がふさわしいと思う。
そう、この行動に意味はない。
だって本当になんとなく。ただそう思っただけというものなんだから。
それでも、私には確信があったんだ。
ここに、彼女たちがいるんだって。
「――――」
大きく息を吸って立っている電柱にもたれかかる。
ずっと歩きまわって疲れもたまっていたから少し休むには調度よかった。
吐き出した吐息から疲れも一緒に吐き出されていく。
それに、これなら私が二人を捜していたのだといういいアピールになるだろう。
そこは人気のない暗い路地。
何の変哲もないただの道。
車二台分の幅しかないこの道はしかし、車の利用自体が少ないのか通る気配すら見せない。
そうしてまばらに配置された街灯がぽつぽつと仄かにこの暗闇を照らし出す。
そう、しいていうならば、
そこは昨日私が襲われた場所によく似ていたのだ。
「…………」
待ったのはほんの数分。あるいは数秒か。
「あら、また会ったわね」
彼女は心底うれしそうに微笑んだ。
「えぇっ、なに話しちゃってるんですかミナトさん!?」
にこやかに話しかけてきた女性とは裏腹に男性のほうはひどくうろたえていた。
それは昨日見たときと何ら変わっていない情景で、私はあらためて昨日この二人に会ったのだと確信する。
「なんでってなんで?」
「はっ? 何をいまさらなことを言ってるんですかミナトさん! 彼女の記憶は消したんですよ。ならその対象に対して自分から話しかけるなんてやっちゃいけないことじゃないですか!」
「まぁ普通ならそうよね。でもね、ソウジくん。それもこれもたった今キミが全部しゃべっちゃったけどね」
「あ……」
おかしそうに笑う彼女に男性は自分の失態に気づいて絶句した。
でも私としては都合がいい。
だって今の会話で私の記憶が勘違いじゃないって証明されたのだから。
「しょうがないなぁ、おバカなソウジくんには特別に講義をつけてあげるからよく聞きなさい」
「……はい。お願いします、センパイ」
私そっちのけで何やら二人のやり取りが進む。
でもどうやら彼女はその間も私を観察しているようなので逆に私は彼女を観察することにした。
「じゃあまず最初にソウジくんが言ったことだけど、それは基本的に正しわ。確かに記憶操作した人にこちらから接触を持つのは良くない。でもそれには例外があるの。何事にも例外はつきものだしね。それに今回は別に私から接触を持ったわけじゃないのよ。
まず何事においても基本となるのは観察よ。そこから正確に状況を判断するの。で、ここで質問だけど、今私たちがいるのはどこかな?」
「え? ……路地ですけど」
「そう、正解。じゃあここはどんなんとこ? 雰囲気とか正確に言ってみて」
「ええっと……薄暗くて、人気はあまりありません。それに道幅が狭くて、圧迫感があります」
「うん。じゃあ次のステップ」
そこで彼女はほんの一瞬言葉を区切った。ちらりと私のほうを横目で見てくる。
それには男性をからかって楽しんでいるようなそんな茶目っ気が浮かんでいて、私はこの人とは気が合いそうだな、なんてことを思った。
「さっき私たちが来たときに彼女は今と同じように電柱にもたれかかっていたわ。これはぱっと見、誰かと待ち合わせしているようにも見えるけど、さっきソウジくんが言ってくれたことをいっしょに考えるとちょっと変じゃないな?」
「……? ええっと、なんでです?」
「うん。バカなのね、ソウジくんは」
「そんな……」
「はいはい、すぐに落ち込まないの。やさしーセンパイが教えてあげるから」
涙目になる男性と、それを慈愛の微笑みで見つめる女性。
うん、この人は悪魔の化身か何かだ。
「さっきソウジくんが言ったようにここは薄暗い所よ。そして何もない。普通そんなところで待ち合わせなんかするかしら? だって待ち合わせようにも目印になるものが何もないんだもん。それに人通りが少ないってことは普段から人が利用しないってこと。だとするなら何で彼女はここにいたのかしら? たまたま? でもそれなら電柱に寄りかかっていた理由は? 彼女、まるで誰かを待っていたみたいだったでしょ」
「え……、それって、僕たちってことですか?」
「そう、正解。つまりね、彼女にはどうしてか昨日の私の暗示が聞かなかったのよ。それで全部覚えていた勇敢な彼女は、昨日の事が本当かどうか確かめるために私たちを待っていたってわけ。どうして私たちがここを通るかがわかったかは知らないけど、ここにいたのもああして電柱に寄りかかっていたのも全部昨日の事は覚えていますって言う彼女なりのアピールなのよ」
ね、と彼女は私にウィンクを投げてよこした。
私は無言でそれに頷く。
そう、全部彼女の言う通りだから。
でもやっぱりこの女性はただ者じゃない。だって一目見ただけで私が無言のうちに示した背景を全て見抜いたんだから。
「でも本当、まさか全く効かなかったなんてね。一応確認なんだけど、ここで私たちを待ってたってことは全部覚えてるってことなんでしょ」
「ええ、そうよ。私は全部覚えてる。忘れてる、なんて言っていたのにとんだ嘘つきね」
「うーん、そう言われると耳が痛いなぁ。でもその通りか。やっぱり言霊じゃダメだったってことだもんね」
また彼女はわからない言葉を言った。それが面白くない。でも今は何もできないんだ。
「どうするんですかセンパイ」
「うーん、こまったわねぇ。私、邪視は強くないし暗示系のスキルもそんなに多くは習得してないのよ。よわったなー、やっぱり攻撃系だけじゃなくてもうちょっと補助系の術も学んどくべきだったな―」
なにやら腕を組んで悩み始める。
でも私にはさっぱりわからなくて、とりあえずこの女性が何だか危ない人だということは理解できた。
ていうか攻撃系ってなによ。
「ねぇ、ちょっと提案なんだけど。あなたこのまま昨日の事も全部忘れるっていうのはどう?」
「え?」
「だからね、このまま全部を忘れるの。っていうか知らないふりをするのよ。私には何の関わりもありませんって。そうすれば全部が知らないうちに解決してあなたは普通のまま日常にいられる。ね、どう?」
…………。
質問口調で聞いてきてはいるものその声音には有無を言わせない響きがあった。
だけどそれがなんだというのだ。
「関わりがないって言うけど私はすでに昨日一度襲われてるのよ。それで関わりありませんって言えるかしら」
「……言えないわね。でもそれをなかったことにするの。そうすればもう関わりはないでしょ」
「そうね、でもそんなことはできない。私は知ってしまったから。それに、」
いったん言葉を区切る。そして、強く、彼女を見据える。
「ここからは私の推測。いいえ、ただの勘よ。最近この街で起きている連続失踪事件、あれって昨日の事と関係あるんじゃないかしら?」
「――――」
「…………。いいわ、ならもう一つ。もし今のが正しかったとするなら私どころかそれはこの街に住んでいる人全てに関係あるんじゃないかしら? だってそうよね、もう行方不明者が十数人と出ているんだから。
そしてそうすると一つ嫌な事実が出てくるのよ。
悔しいけど、あんなに近寄られて気が付かなかったってことは今まで生きてきて初めてよ。あんなに恐怖を感じたこともね。
正直言って私は助からないと思ったわ。
でも今は助かってこうしてここにいる。それはあなたたちのおかげ。それには感謝してるけど、私には昨日の事は人外の出来事にしか思えないのよ。
でもだとしたら、だとしたらよ、私たちはあんな奴らに襲われた時に対処なんてできなくないかしら?
そうだとするならただ諦めるしかならなくなる。でも私はそんなのはご免よ。私はともかく私の友人が襲われるかもしれないのになんにもできないなんてそんなの冗談じゃないわ!」
まくしたててても彼女は眉一つ動かさなかった。
まったく表情が読み取れない。
男性のほうはさっきから明らかに動揺しているのがわかるんだけど、彼じゃ意味がない。
いや、まてよ……
「……何も答える気はなしなのね」
睨みを入れて彼女を牽制。
表情一つ動かさないあたりこの人の胆力は相当だ。
けど、わかっていても反応せざるを得ない事は誰にだってある。
そう、例えば――
「いいわ。ならこれだけ聞かせてもらえないかしら」
諦めた振りをする。
猿も騙せないようなバレバレの演技にかえって彼女の警戒心が強まるのを感じる。
けれど、猿以下のオツムの人は明らかにほっとした様子を見せて、
「この事件にアヤカシツキはどこまでからんでいるの?」
「――――なっ!?」
動揺が走る。
明らかにうろたえた声に、左右に泳ぐ視線。
「ど、どうしてキミがそれを知って……」
「ソウジくんッ!!」
――――ヒット。
ニヤリ、と思わず口元がほころぶ。
それに彼も今度はハッとした表情になり、彼女のほうは盛大に溜息をついた。
「ちぇ、せっかくポーカーフェイスを貫いてたのに、ソウジくんの動揺を誘われたか」
「あ、あのー、ミナトさん……?」
「もう、ソウジくんのせいだからね! あなたより彼女のほうが何万倍も上手だったのよ」
そう言って、彼女はもう一度溜息をついた。
やっぱり彼女には私がハッタリを噛ましただけだというのはみやぶられてたか。
というか、アヤカシツキってなんだろう?
「いいわ、そんなに言うなら教えてあげる。それにこの勝負はあなたの勝ちだもの。だからこれは当然の権利だけどね。でも、話を聞かせるだけよ」
「ええ、今はそれで構わないわ」
「はぁ。今は、ね。まぁしょうがないか。じゃあとりあえず場所を移動しましょう。ここで立ち話もあれだしね」
そうして彼女は来た道を引き返すように歩き出す。
その諦めの良さというか潔さはすごく格好良い。
この人、ものすごく頭の回転が速い人だ。
「ああそうそう、話をする前に自己紹介をしないとね。話をするのに相手の名前がわからないのって何かと不便でしょ?
私は相良湊。あなたは?」
「大神麗子です。よろしく、相良さん」
「ああ、ミナトでいいわ。ソウジくんもそう呼んでるし、苗字で呼ばれるのって好きじゃなくて」
「そうなの? じゃあミナトさん、改めてよろしくお願いします。それから私も名前で呼んでもらえません? 理由はあなたと同じで」
「へぇ、なんだか気が合いそうね。じゃあこちらこそよろしく、レイコ」
笑いあってお互い握手を交わす。
なんだろう、この人とは気が合いそうだ。
「あ、あのー、僕を無視してませんかー」
「ああ、彼は高見操示くんよ。まぁ、無視しちゃっていいんじゃない」
「そうなの? よろしく、ソウジくん」
「あー、できれば僕は高見さんって呼んでほしいんだけど……」
「じゃあ行こうか」
「ええ」
ミナトさんについて歩き出す。
行き先はわからないけどどこだっていいと思う。とりあえず今は知ることが重要なんだから。
「あー、やっぱり無視されるんですか……」
とりあえず、彼は無視の方向で行こうと暗黙のうちに決まった。
~次回~
第三話 黄昏色の分かれ道/3
12/02(金) 18:00更新




