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やしゃ ひめ!  作者: 星村 哲生
「付喪神《つくもがみ》の章」
67/70

〇六五 看 破

「えーと、じゃあ、牛鬼(うしおに)濡女(ぬれおんな)、それに取られてた(ぬえ)が奪還できたことを祝して、かんぱーーい!」


「「「「「「「「「かんぱーーーーい!!」」」」」」」」」


 ごくっ ごくっ ごくっ ごくっ ぷはーーーー


「はーー、お酒っておいしーですねーー」


「おお、いい飲みっぷり。もう一杯いくかい?」


「はい、(つつし)んでお受けします!」


 コップ酒を飲み干して上を見上げているのは、一番最年少に見える白蔵主(はくぞうず)だ。

 さっきまでの黄色いワンピースじゃなく、お寺のコスプレ姿みたいな袈裟の格好だ。大きなキツネ耳と太いしっぽもしっかり出している。

 最初の宴会を切り上げてから、浜辺に出て濡女、牛鬼。それにドゥーガル率いる虚神軍団との連戦が都合2時間強。

 部屋に戻った私たちは、改めて祝勝会をすることになった。


 メンバーは私、ねこ妖魅の火車、猫又、五徳猫、それに岳臣(たけおみ)君。

 それに加えて、六花(りっか)ときつね妖魅の刑部(おさかべ)と白蔵主、最後に百々花(ももか)ちゃん。

 さっきクーラーボックスに入れたのも併せて、料理がテーブルに所狭しと並べられていて、みんな手に手に皿を持って取り分けている。

 日本酒の一升瓶、焼酎、ビール、ウイスキーが当然のように大量に並べてあった。


「ちょっと、六花。子供にお酒なんか飲ませて大丈夫なの?」


「ああ、この子ら見た目と実年齢全然違うからさ。一番最年少の五徳猫(ごと)ちゃんも二百歳超えてるし。

 それに白蔵主(はく)ちゃんはお坊さんの格好してるけど、還俗したって。妖魅の見た目って、本人の気持ちの持ちようが強く反映されるみたいだし」


「そんなものなの?」


 火車は鬼力(きりょく)が足りないとかで、いつも以上に飲み食いしてる。お浴衣の前はだけてるし、足も投げ出して。行儀悪いなあ。


「ああーー、お預けくらった後のお酒は格別ニャーー!

 にゃあ六花、料理とつまみはいっぱいあっても魚が足りんニャ、さっきの刺し身は全部食べたし。生の魚ってもうちょっとないかニャ?」


「おう、ある。火車も妖具化(ぐるか)して戦ったんだって? お疲れ様」


「うん、やっぱしたまには妖魅として鬼力も使わないと、身体が(なま)るニャ」


 六花は夜叉の浄眼からクーラーボックスを取り出す。その中身は――――


「なんでマグロの(サク)とか干物とか、こんなにあるの? それに油揚げとか」


「いや、聞けばねこたち妖具化(ぐるか)とかして頑張ってるっていうからさ――、ご褒美にって思って。

 途中漁港近くの道の駅に寄って買ってきた。油揚げはきつねたちに。まあ定番だな」


 言いながら六花は、何事もなかったように出刃包丁とまな板、それにガスコンロを夜叉の浄眼から取り出す。


「ちょっと待ってよ! 旅館の部屋でそんなに匂いが出そうなもの(さば)いたり焼いたりしたらーーーー!」


「それも大丈夫、今簡易結界の『蚊帳吊(かやつ)り』展開してるだろ?

 少しくらい騒いだり、匂いが出るもの料理しても平気だって。なんだったらキャンプファイヤーやってもばれないし」


 六花はそう(うそぶ)きながらタンクトップ一丁でマグロを(さば)きだした。大皿に盛りつけてねこ妖魅に配る。

 きつねふたりは、辞書くらい分厚い油揚げや、重箱に詰められた大量のいなり寿司に目を輝かせた。


「おいしーー!」


「ほんと、脂が乗ってます!」


「これは酒が進むニャーー!」


「りっかさま、この油揚げ表面がカリカリでおいしいです!」


「ほんまや、お稲荷さんもわさび入りとかひじきごはんとか、種類がたくさんあっておいしいわあ」


「うん、みんなどんどん食べてくれ」六花が今度は牛肉の塊と七輪と木炭を出した! 


 手際よく七輪で火を(おこ)して、かたまり肉を薄く切って七輪の上の金網に乗せだす。もくもくと煙が上がった。

 その隣では白蔵主が大鍋で何か煮込んでる。完全に屋外気分だ(ある意味妖魅らしいけど)。


「おお、そういえばこの肉を焼く匂い、牛鬼に炎の矢を浴びせた時と同じ匂いニャ。

 妖魅も焼いたらおいしくなるのかニャ?」火車がそこはかとなく物騒なことを言い出す。そんなの食べらんないでしょ。


「刑部に白蔵主、油揚げもいいけど、こっちの神戸牛の焼き肉も美味いニャ、みんなで食べて飲んで旅と闘いの疲れを癒やすニャーー」


「こちらもどうぞ! 私の故郷の名物、甲斐の国、山梨のほうとうです!


「で、こっちが姫路は兵庫県名物の明石焼きや。これはドブみたいなソースやのうて、(みやび)にだし醤油でいただくもんやで」


 白蔵主がたっぷり野菜が入った煮込みうどん、刑部がだし醤油で食べるたこ焼きまで出してきた。。


「……あなた方……福岡でわざわざ食べることないでしょ」


 蚊帳吊りの効果で、旅館の和室は実際の部屋よりかなり広い。天井は5mもある。どういう機能になってるのか、排気もできてるみたい。

 おまけに妖魅の特殊能力で、時間の流れもかなりゆっくりみたいだ。おかげで、ねこきつね入り混じっての大宴会はだいぶ盛り上がる。


 御滝(おんたき)水虎(すいこ)の通常時の顕現体、みこ、それにみとらに生肉をあげると、ふたりとも角切りをぱくぱく食べてる。よかった、今夜はがんばったね。鎌鼬(かまいたち)三匹も天ぷらとか食べてる。

 えっと……これは……(ぬえ)? 確かに、胴体が子狸、手足にトラの縞模様があって、しっぽが蛇の顔になってる。

 でも顔はニホンザルじゃなくてキツネザルみたいなのが、鳥の照り焼きを両手で持って食べてる。私と目が合うと会釈した。

 おかえりなさい。

 お肉の皿を持って百々花ちゃんの隣に座った。


 そういえば、岳臣君は? いた。浴衣に着替えては、いる。

 けど、女子(?)だけの宴会に入りづらいのか、平テーブルの端っこで、切れ子の明太子と一緒に、旅館で出されたお(ひつ)のご飯を握った塩むすびを食べている。私は彼にそっと近づいた。


「岳臣君、改めてお疲れ様。もう、戦って疲れてるでしょ。もっと豪勢なの食べればいいのに」


「いや、とにかくおなか減ったんで。でもよかったです。

 いつだか僕が『牛鬼がいい』とか言い出したから、責任っていうかちょっと考えちゃって。

 結果的にだけど濡女と、奴らに取られた鵼まで帰って来たから……」


 言いながら、岳臣君は百々花ちゃんの方を見た。浴衣には着替えないで、薄いピンク色のスゥェット姿だ。

 両手で塩むすびを持って、ちびちび食べている。上目遣いで私を見てきた。


「ああ、彩月(さつき)も言ってたけど、鵼はあなたが持ってていいから。他の妖魅の宝珠も必要に応じて貸すし。

 逆に、鵼も必要があったら私や六花に貸してくれるかな」


 百々花ちゃんは、塩むすびを口に当ててこくこくとうなずく。


「さつき、って夜叉姫さんのことですか?」


「うん、さっき身体の主導権を貸した時そう名乗ってた。でも苗字は三滝って言ってたし」


「それじゃあ、夜叉姫、いや彩月さんって、涼子さんのご先祖様とかですか?」


「どうなんだろ? 濡女には久しぶりとか言ってたから、何百年も前から存在してたのは確かだし」


 私は無意識に右手の甲にある水滴みたいな水晶を見る。いつも通り蒼いままだ。


 ――――彩月、彩月? 起きてる?


『……すー、すー、すー、すー』心の裡で声をかけても返事がない。今は完全に眠ってるみたいね。



「――――こさん、涼子さん?」


「ん?」


 意識が現実に戻る。意識を自分の内側に集中させると、外界の声とかが聞こえなくなる。ぼーーっとしてると思われたみたい。


「なんでもない、大丈夫――――」


 そういえば……! 岳臣君の顔を見て、思い出したことがあった。

 あの時は何の気なしにOKしたけど、よく考えたら結構軽率だったんじゃ――――!


「涼子さん? 顔が……また夜叉姫(さつき)さんに替わってお酒飲まされたんですか?」


 心配されるくらい顔が真っ赤になってる。「違う、そうじゃない」慌てて否定する。

 出先だろうが何だろうが、私は絶対羽目を外してお酒飲むわけにはいかないから。

 百々花ちゃんが視線をこっちに向けてる。私と岳臣君を交互に見た。


「――――二人は付き合ってるの?」




 次の瞬間、それまで騒がしかった場が、しんと静まった。全員の視線が私に集まる。


「え? ああ百々花ちゃん? 私と岳臣君はそんなんじゃなくて……。

 そう、あの友達は友達なんだけど、なんていうか……」


 不意に百々花ちゃんが手を伸ばしてきた。反射的に手を握り返す。

 百々花ちゃんが今度は岳臣君をじっと見る。彼は固まったままだ。


「だいじょうぶ、片思いじゃなくて、ちゃんと気持ちは通じてる。

 でも、ちゃんと付き合うにはもうひと押しみたい」


「――――!?」


「そうなんですか? 涼子さま?」


「いつの間にそんなことに……!」周りのみんな、特に猫又と五徳猫が騒ぎ出す。


「はあ……男かーー、ええなあ」


「きゃーー! 夜叉姫とその従者との禁断の恋! 燃えますねーー!」


 二人だけじゃなく、刑部まで煽ってくる。白蔵主は顔に両手を当てて立ち上がった。だから岳臣君は従者じゃないから。

 すぐに、ねこ妖魅ときつね妖魅に詰め寄られた。


「……違う。そうじゃなくて!

 そんなことよりも、今、百々花ちゃんが……」


 六花が手をぱんぱんと叩く。


「はいそこ、話をそらさない。まあ、あれだ、私ら邪魔しないから。

 二人 おふとぅん並べて休んで。いつもなら無理でも、出先ならこう、気が大きくなるとかあるだろ?」


「なにバカなこと! 岳臣君、あなたもちゃんと……!」


 すー、すー、すー。


 見ると、当の岳臣君は塩むすびを握りしめて寝こけていた。この状況でなんで寝てるの? 釈明してよ!!


「こんなこともあろうかと、部屋はもう一つ先んじて予約しといた。

 いい(Good) 夜を(night)!!」


 六花は親指を立て(サムズアップし)て白い歯をのぞかせる。


     き らーーーーん


「ダメです! 涼子さまがその気でもぜったい阻止しますから!」


「涼子さまは私たちのものです!!」


「ええんちゃう? 私たちの時代なんか、逢引きなんてしょっちゅうやったし」




「だーーかーーらーー!!! ちーーがーーうーーーーっ!!!!!」




 私のこの時の叫びは、蚊帳吊りの結界を破って、深夜の旅館全体に響き渡った、らしい。

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