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やしゃ ひめ!  作者: 星村 哲生
「牛鬼《うしおに》の章」
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〇四八 狐 妖

「妖魅顕現、乗獣(じょうじゅう)朧車(おぼろぐるま)』!!」


 空に(かすみ)がたなびいて、そこから淡く光る薄靄(うすもや)に包まれた半透明の牛車が(あらわ)れた。

 私たちの前に音もなく停まる。乗り降りするところの御簾(みす)がするすると上がった。

 中には、貴族らしい十二単を着た小さな女の子が乗っている。この子が本体らしい。


「朧車、憑依」


 文言を唱えると、霞に包まれた牛車は(こご)って宝珠になった。そのまま夜叉の浄眼に吸い込まれる。

 私がバイクのハンドルを握ると、左手から薄靄がバイク全体を覆う。よし、憑依完了。

 暫定的なものだから、鬼力は消費するけど移動能力は格段に増す。

 あとは――――


「旅のお供も喚ぶか。

 妖魅顕現、法獣(ほうじゅう)白蔵主(はくぞうず)』」


 左手をかざすと、人間態の妖魅が顕現する。

 甲斐国(かいのくに)は、山梨県で眷属になってもらった妖魅だ。

 見た目は10歳くらいの女の子。

 くりくりっとした目、好奇心旺盛で利発そうな顔。可愛くていい子そうだ。うん、あとでお菓子をあげよう。

 格好は、黒い法衣の上に黄土色の袈裟(けさ)、それに白五条袈裟で頭を覆っている。まあ頭巾と同じだ。お坊さんのコスプレみたいなもんか。


 ただヒトと明らかに違う部分は――――やっぱり白い布、白五条袈裟の下からでもはっきりわかる二つの三角形、いわゆるキツネ耳。

 それに、法衣と袈裟の下からでもきっちり外に出て、ぴこぴこと自己主張してる、ふさふさもっふもふの太くて真っ白いしっぽ。

 まあマニアでなくても撫でたくなるな。


「六花さん、これって……」


「ああ、刑部(おさかべ)姫のお付きにと思って、眷属になってもらった妖魅だ。

 刑部はあの通りだろ? 絶対ねこ二人、特に猫又(また)ちゃんと反りが合わなさそうだから、折衝役にって」


「狐妖魅を眷属にしたって、涼子さんには伝えてあるの?」


「………………」無意識に眼をそらす。


「言ってないんだな。あの子は言っても、そんなに人付き合いがいい方じゃないだろ? 断られたらお前があちこち連れまわすのか?」


「わあ、それもいいですね、諸国行脚(しょこくあんぎゃ)して見聞(けんぶん)を広める。大切なことです」


 狐の妖魅白蔵主(はくぞうず)は目を輝かせた。


「おーー、いい答えだ。じゃあさっそくこれに乗って見聞を広めよう」


 バイクを親指で示すと、白蔵主は小躍りして喜ぶ。


「わあ、これが化石燃料で走る、早馬よりも(はや)く走る『おーとばい』ですか? 一度乗ってみたかったです!!」


「うんうん、素直な子はよい子じゃ」


 夜叉の浄眼から、フルフェイスのヘルメットを出した。髪をまとめてからかぶる。


「ほら、あんたのはこれ」


 夜叉の浄眼からジェットヘルメットを出す。子供用とはいえ作りはしっかりしてるやつだ。

 渡すと白五条袈裟の上からメットをかぶる。少しメットが浮いてるけど、やっぱりキツネ耳にはちょっときついか? まあ、あとでキツネ耳用のメットをオーダーで作ってもらおう。

 白蔵主をシートの前に座らせる。

 万一後ろで落っこちたら、いくら妖魅でも無事じゃ済まないだろう。まあ女同士の二人乗り(タンデム)じゃ色気はないけど、仕方ないな。

 キーを回してエンジンをかける。うん、いい音だ。


「んじゃ行ってくる、二人も来れたら来てくれ」アクセルを吹かしつつ刑事たちに言う。


「分かった、まあ俺たちが着いたらことは終わってるだろうが」


「六花さん、気をつけて」


 片手を挙げてから一気にアクセルを吹かす。


 グォォォォォン!!


 後輪が砂利を吹き飛ばして、前輪が思い切り浮いた。

 なんでこんなとこでウィリーする? 目立とうなんて思ってないし。

 わあ、めっちゃきれいなほしぞらーー、じゃない。(あわ)てて両腕で前輪を押し込んでクラッチを切り替える。


「おし、行くぞ!!」


 砂利道の上で一気に加速。目の前は車道も何もない。切り立った段差というより、もはや崖だ。遥か下には城下町、じゃないや住宅街が立ち並んでる。


「おい! 飛び下りる気か!?」


 夜叉の浄眼の効果で、倉持(アンコ)の叫びがしっかり聞こえる。

 返事の代わりに振り向かずに親指を立て(サムズアップし)た。


「きゃーーーーっ!」白蔵主がシートにしがみつく。


「大丈夫、目ぇ開けてろ!!」


 アクセルをさらに吹かす!!


 ダァン!!


 オートバイからは霞が噴き出した。何もない空中に緩いスロープができたようにオートバイは崖からまっすぐ進む。

 さらにアクセルを吹かした。


 グゥン グゥン グゥン!!


 これが妖魅『朧車(おぼろぐるま)』の能力だ。

 憑りついた乗り物を乗ってる私たちごと、重力や空間を意に介さず進ませることができる。

 もちろん、その間一般人から認識されない。いや、正確には認識阻害効果でわかりにくくなるって言うのが正しい表現か。

 近くの県道に出た。通ってる車の流れに乗る形でバイクを進ませる。うん、やっぱしバイクはいいな。

 目線を少し下げると、白蔵主がバイクのボディーにがっちりしがみついてる。

 白いしっぽはぴーんと伸びてて、ぷるぷる震えてるし。だいぶ怖がってるな。


「だいじょうぶ、振り落とされないから安心して乗ってろ」


 ヘルメット越しに頭をなでてやる。



 高速道路に乗った。ETCは付けてるから、普通にレーンを通る。このときは朧車は一時的に解除する。

 国土交通省も、妖怪絡みだからって素通りは大目にみてくれないだろうし。


 車道が広くなったら一気に加速する。この一体感、たまんないね。

 朧車が憑りついてる効果で、バイクの周りは風圧が思ったほどはない。

 現在時速200km。

 一般に時速36kmで風速10mだから、200kmで受ける風圧は50mを軽く超える。

 大型台風クラスの風圧をものともしないのは、妖魅朧車の効果でバイクごと一種の結界を張ってるから。それでも新幹線みたいに風景はびゅんびゅん変わるし、夜中の流れる電灯の灯りがすごくきれいだ。

 白蔵主も興味津々で辺りを見回してる。

 涼子のことも気になるけど、やっぱりタンデムさせて正解だったな。


「よっし、あとでなんか食べよう。なにがいい?」


 しっぽを振りながら、少し迷った僧侶姿のきつね妖魅は、はきはきと答える。


「やっぱり大きいお揚げが乗ったおうどんがいいです! あ、あと甘辛い稲荷寿司も!」


 こういうとこはやっぱきつねだな。


「わかった、できる限り距離稼いでから道の駅で食べよう。刑部も一緒にな」


「はい!」



 目指すは九州、涼子がいる福岡の海岸だ。私は改めてバイクのハンドルを握り直した。


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