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やしゃ ひめ!  作者: 星村 哲生
「牛鬼《うしおに》の章」
48/70

〇四六 白 澤

「妖魅顕現、神獣白澤(はくたく)!!」


 文言を唱えると、浄眼から身体が純白で枝分かれした角を生やした巨大な鹿のような妖魅が現われる。(たたず)まいは神々しい。

 眉間に一つ、それから両脇腹に三つ、合計九つの眼がある。

 厖大(ぼうだい)な知識と、人間にはない広い視野を持った象徴の眼だ。


妖具化(ぐるか)!!」


 白澤が白い宝珠に変化して、浄眼の水晶部分に吸い込まれる。

 それと同時に右手から長い光が伸びた。中からは馬上槍(ランス)が出現する。


()神槍(かんやり)、『月慧槍(げっけいそう)』』


 見た目は馬上試合(ジョスト)用の槍そのものだ。

 全長は2mほど。(つか)は短めで上把(じょうは)中把(ちゅうは)部分が円錐状、穂先が鋭く尖っている。

 そして護拳状になった鍔に当たる部分に、白澤の胴体のと同じ、両側に三つずつ正三角形に、合計六つの水晶がついている。

 妖具化(ぐるか)の許可が白澤から下りたのはごく最近だ。

 条件は、

 『11520種類の魑魅魍魎の(たぐい)、その名前と特徴を半分の5760種類説明せよ』

だった。

 テストの間、いつ休憩とってもいいとはいえ、あんまりだらだらもしてられない。

 都合4時間で6000問くらい回答してから採点してもらったらなんとかクリアできてた。

 半分で妖具化(ぐるか)、全問満点クリアするとさらに力を貸してくれるらしいけど……その話はまあ後だ。今は亀姫と契約しないと。


 私の新しい武器を警戒したのか、亀姫の動きが止まった。

 その一瞬の隙をついて、月慧槍が解析(アナライシス)を開始する。

 ものの一秒も経たずに相手の情報が私の視野に広がる。


【種族】中級妖魅 史跡、史実、創作系

【名称】亀姫

【来歴】会津(福島県)の武士・松風庵寒流の聞き書きによる『老媼茶話』にあるもの。

    寛永17年(一六四〇)12月、堀部主膳――――

【能力】着衣や身体を硬質化させて攻撃、防御を行う。性格は攻撃的、かつ感情で動く。

【弱点】――――


 へえ、そこまでわかるもんか。夜叉の浄眼の見鬼(けんき)と同質だけど、弱点まで解るってのがいいね。


「じゃ、いっちょやりますか。妖魅顕現、城獣(じょうじゅう)刑部(おさかべ)』!!」


 文言を唱えると夜叉の浄眼から光が射し、十二単(じゅうにひとえ)で狐耳を生やした女の妖魅が顕現する。

 見た目は……二十歳前後くらいか。吊り目で瓜実顔(うりざねがお)。ちょっと古風だけど美人の類だ。

 ふさふさしたシッポも十二単から出るように生えている。狐っ子か。


「……刑部……! よくも私の前に顔を出せたな……!」


 と、それを見た亀姫が激昂(げきこう)する。どんだけ仲悪いんだよ。


「はああっ!!」


 ゴ……ッ!!


 亀姫の攻撃は私たち(・・・)には届かなかった。甲羅で固めた拳は白い城壁(・・・・)でガードされる。そう、これが長壁(おさかべ)の別名を持つ『刑部姫(おさかべひめ)』の特殊能力だ。

 鬼力を消費して、任意の場所に好きな形の城壁を生成できる。これだけだと、ただ防御にのみ特化しただけだけど。


「はっ!!」


 刑部姫が手を上にかざす。亀姫の真上に一辺が3m程、高さ10mの上から見たら『ロ』の形、四方を囲むためだけの城壁が生成された。そのまま亀姫を取り囲むように落下する。


 ズズン!!


 城壁ごと落とせた。

 だけど、もちろんこれで倒せるなんて思っちゃいない。


 ダン ザシッ タン


 うん、駆け上がって来るよね。そこを一か所しかない出口で迎え撃つ。

 ……つもりなんだけど、足音がやんだ。どっかでヨロイがつかえたか?


 ――――ガァン!!


 城壁の瓦屋根の真下を、内側から拳で叩き壊した!! 白い壁や砕けた瓦が散弾みたいにあたりに吹き荒れる!!


「おのれ、姉上……いや刑部。今日こそ決着を……!!」


「残念だけど、姉妹(きょうだい)ゲンカはまた今度にして」


 私は亀姫の背後から(・・・・)声をかけた。

 なんのことはない。私は、いや月慧槍に妖具化(ぐるか)した白澤は亀姫が素直に登ってこないこないことは予見していた。

 まあ、私も同じ発想だったけどね(負け惜しみじゃないから)。


 振り向きざま繰り出される裏拳を、思いっきり開脚して体勢を低くしてかわす。

 そのまま、がら空きのどてっぱらに!!


 ど  すっ!!


 鈍い音が、濃くなった夕闇の中に響く。穂先で突いても大したダメージはないからね。だから槍の柄、石突きの部分でボディーを攻撃した。

 女子相手にお腹(ボディー)はダメ? まあ相手は妖魅だ。そこはお互い言いっこなしってことで一つ。

 城壁から地面に落ちた。私も後を追って地面に降りる。うつ伏せになったままだけど……。


 ガッ!!


 今度は蹴って来た。うつ伏せの状態からブレイクダンスの要領で首と頭を軸に回転してキック!? パラフーゾかよ!! 

 なんとか月慧槍でガードする。


「うわっと! まだやる気? そもそもなんでそんなに刑部を目の敵にすんのさ? 姉妹同士の妖魅なんてめったにいないんだから、仲良くした方がいいんじゃないの?」


 亀姫は立ち上がる。


「私は刑部よりも強くならなければ、刑部を……姉さんを、守れない……!」


 それを聞いた私は槍を下ろす。


「そっか、そういうこと。んーーーー、刑部は今私の眷属になってくれてる。

 こっからは提案なんだけど、あんたも私と契約して眷属になってくれない? そうすればいつでもケンカ……じゃないやお互い訓練して強くなれるしさあ。

 毎日楽しいよ? 新しい夜叉姫のところにも契約してる妖魅がいるし。

 ご飯はおいしいし、おやつと昼寝、晩酌もつけよう!」


「……もし断ったら?」


「仕切り直し、かな。そうなるとこっち使うかも」


 月慧槍の妖具化(ぐるか)を解いて、代わりに氷獣(ひょうじゅう)雪野槌(ゆきのづち)を顕現。雪蛇刀を出して亀姫に見せる。

 刀身から放たれる凍気に亀姫は身構える。雪蛇刀を使わなかったのはただ力で従わせても意味がないから。できる限り話し合いで契約にこぎつけたかった。


「我が妹亀姫、昔は色々あったが共に妖魅に(あだ)なす虚神と戦おう」


 刑部が手を差し出す。その言葉に亀姫が反応して、甲羅の武装を解いた。


 全身鎧(フルアーマー)状態が解除されて、最初に見た十二単の姿に戻る。おずおずと手を差し出してくれた。

 おし、これで亀姫と契約できれば任務(ミッション)完了(コンプリート)

 やれやれ、涼子は牛鬼と契約出来たかな――――


 ズズン


 地面になにか叩きつけるような音がした。振り向くと赤いドレスが視界に入る。


「お疲れ様、お元気そうでなによりね六花(りっか)さん」


「お前か、那由多(なゆた)。……一応聞いとこうか、何の用だ?」


「あなたが今契約する妖魅『亀姫』、それをこちらに明け渡して欲しいの。もちろん宝珠にした状態でね」


「誰がそんな条件飲むか、ってのも言わせてくれないみたいだな……」


 那由多の後ろには、おそらくは『新調』したんだろう、見慣れないデザインの虚兵(ウツロへい)が二体いた。

 一匹は四本腕に四本足の忍者風。もう一体は脊椎、首の後ろから毒針が出てる武者風。

 聞けばこいつら元人間、しかも連続殺人とか重篤犯罪者だろ?

 生きて罪を償わせないで、さらに生き地獄に落として罪を重ねさせる……悪趣味もここまで(きわ)めればたいしたもんだ。()めちゃいないけどな。

 その虚兵が捕まえているのは、清楽ちゃんと倉持(アンコ)だ。


「く……っ!!」「六花、すまない」


「なにはなくても清楽ちゃんだけは解放して。倉持(くらもっ)ちゃん、長い付き合いだったけど、今までありがとうな」


「おい!」


 いいよ、その反応(ツッコミ)。少しは場の緊張(テンション)(やわ)らぐ。


「とりあえず、二人は解放してくれ。どちらにせよ契約しないと渡せないし、こんな状態じゃ落ち着いて契約できない」


 那由多はうなずいて、二体の虚兵に目視で合図を送る。

 操り人形のような動きで虚兵は二人を離した。


「さ、契約して」


 上から目線の発言にいらっとしたけど、背に腹は代えられない。左手の夜叉の浄眼を亀姫に向ける。

 当の亀姫は刑部と視線を交わしていた。そのあと私に向きなおる。

 小さくうなずいた姿はさっきまでの猛々(たけだけ)しさは微塵(みじん)もない。

 そこに在るのは、自分がどんなに辛い目に遭っても刑部姫(かぞく)を守ろうという、強い決意を秘めた女の子の姿、それだけだ。

 ここで小細工しても意味がない。

 浄眼の光を照射すると、亀姫の躰は一点に向けて凝りだす。


 コーン




 硬い音を立てて、緑がかった灰色の宝珠が地面に落ちた。

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