表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やしゃ ひめ!  作者: 星村 哲生
「御滝様《おんたきさま》の章」
3/70

〇〇一 浄 眼

 新連載です、初めての方もご存知の方もよろしくお願いします。

「ふーーっ、ふーーっ、ふーーっ……。

 はぁッ!!」


 ザンッ! ――――ザアアアアアアアアアアアアーーーー


 真一文字に振り抜いた私の木刀は、滝壺に勢いよく落ちる大量の水を斬り裂いた……。

 はずだったけど、当然木刀で水が斬れるはずもなく、間断なく落ちる滝は相変わらず。

 滝壺へ落ちたあと、川になって下流に流れていく。

 飛沫(しぶき)が起こすマイナスイオンの癒し効果も……全くなし。


 ――――すぅぅぅぅぅぅぅ――――………… ぴたっ。


 両腕を開いて、胸いっぱいに息を吸う。止める。


「――――っていうか……今の私には……。

 ……マイナスの効果しか、ないっていうのーーーーッ!!!」


 腹筋に力を入れて、胸を反らして、空に向かって叫んだ。

 その叫び声も、滝の音にかき消されて吸い込まれていく。


     ザアアアアアアアアアアアア――――


「はくしゅん!!」


 何が悲しくて、5月の寒空に16歳の若い身空で、早朝5時に起きて剣道着着て。

 滝壺で水に打たれながら、木刀で滝斬りなんてしなくちゃならないの?

 ここは滝壷のほぼ真ん中。すぐ右には大きな岩が注連縄(しめなわ)をくくりつけられて鎮座してる。

 聞けば、古い昔に旱魃(かんばつ)が続いてこの地域が飢饉(ききん)になった時に、えらい僧侶が現れて、御祈祷(ごきとう)をしたら崖から水が湧き出た。

 滝になって、この地域は餓死者を出すのを免れたとか。そのあとこの岩を祀ったらしいわね。

 まあどこにでもある類型(テンプレ)の民話ね。名前は御滝(おんたき)様。


 なにか、岩じゃなく他の何かに見える時もあるけど、なんだろう。

 ――――ああそうか、思い出した。大きな虎だ。

 私自身は覚えてないけど、2歳くらいのころ、夜中にお月様に照らされてる岩を見て、虎だと思った私がわんわん泣いたって。

 そうしたらお母さんがあやしてくれて、お父さんが肩車して『こわくないよ』ってなだめてくれたんだった。

 思い出すと懐かしいな……。

 


 おっと、のんびり脳内解説してる場合じゃないわ、心臓麻痺(マヒ)起こしちゃう。


「――――あれ?」


 滝壺の底に何か光るのが見えた。もう剣道着もずぶ濡れだから、としゃがんで光った部分を手で探る。

 拾い上げると、直径7cmくらいの水晶があった。


「きれい……」


 思わず見とれてしまった。今の私、滝壺でびしょびしょだわ。身体が冷えちゃう、早く上がらないと。


「あーーさむい」


 滝行もそこそこに滝口から出た。そのまま家の裏口に向かう。

 珍しいことにうちは家の真裏に滝がある。というか滝の近くに家を建てた、っていうのが正確な表現か。


「こりゃ、涼子。こんなに早く滝行から帰ってきおって」


「おじいさま、くしゅん、どうにも寒くって。それに滝斬りの行は済ませました」


「なんだ、そんなことで御滝(おんたき)様と心が通い合わせられると思うのか? まったくけしからん」


「お説教は後で、今はお風呂に入らないと」


 寒さで歯の根が合わない。


 ガチガチガチガチガチ


「ちょっと待ちなさい、その手に持っているのはなんじゃ?」


「なにって、今滝壺の底にあったのを拾いました」


 おじいさまに今しがた拾った水晶を見せる。


「……んんーーーー? こ、これは……。ああ、身体が冷えるといかん。早く風呂に入りなさい」


 まったくもう……スポーツブラはしてるけど、濡れた道着着たままだから寒いし。透けてないでしょうね。




 ――――シャァァァァァァァァァァ


 ……はあ、やっぱりシャワーって気持ちいいなあ。身体が冷えてたから余計あったかい。

 指先に血が通っていくのが分かる。しっかりマッサージしとかないと。

 滝に入ると、時々だけど初めて滝壺に入ったこと思い出すなあ。

 自分ではそんなにはっきり覚えてないけど、4歳くらいだったかな。

 庭で一人遊びしてて、弾みで滝の淵に落ちちゃって。

 下手したら、滝壺に呑まれて溺れ死ぬかもしれなかったみたいだけど、奇跡的に助かったんだよね。

 その滝にまた修行で入るんだから、ほんっと人生って皮肉なものだわ。

 


                           ――――カサッ

       ガラッ

               ガスッ!!!

「ぐおう!!」


「なにやってんのこのスケベじじい!! 孫娘のお風呂、堂々と(のぞ)きに来ないで!!」


 私は素早くバスタオルを身体に巻きつけて、おじいさま、いやもとい回春スケベじじいにハイキックを見舞う。

 足の甲がじじいの首、そして頬にクリーンヒットした。


「な、なにを……(わし)はただ……可愛い孫娘の身を案じて……」


「案じるなら、朝っぱらから滝行なんてやらせないでよ!!

 どうせ、シャワー浴びるから覗き(それ)目的にやらすんでしょうが、このエロじじい!!」


 わなわな震えたかと思うと、今度は突っ伏してしくしく泣き出す。


「う、ううっ……おばあさん、涼子が、涼子がーー……ぁぁぁ……」


「困った時におばあさんに泣きつくの悪いクセ。第一、とっくに他界してるでしょうが」


 おばあさまが生きていたなら、この広い家で二人で暮らすこともなかったろうし、私の気ももう少し安らいでいただろう。

 それだけにおばあさまが先に()かれたのは、心の底から悔やまれてならない!

 おじいさま、いや今はエロじじいか。


 名前は三滝光蔵(こうぞう)

 見かけは伸びた白髪を首の後ろで束ねて、口ひげを整えて道場着を着ている。

 やや面長の顔立ちと相まって、黙っていればそこそこ見栄えはいいんだろうけど、年甲斐もなく、とにかくスケベなことに目がない。


「突っ伏して号泣してないでさっさと脱衣所(ここ)出てください。ごはん食べて学校行きますから」


 おじいさまは両手を顔につけて、黙って出ていこうとするけども――――


「その前に、私のブラ返しなさい!」

 振り向きざまの、背徳煩悩じじいに右フックを()める。


 どむっ!    ダァン!!


 拳はじじいの肝臓(レバー)を正確に打ち抜き、身体は壁に叩きつけられた。

 その懐には私のブラが入れられていた。すかさず回収する(加齢臭が気になるから、洗濯しなおそう)。

 スローモーションで倒れながら、じじいは感慨深げにつぶやく。


「……ブラジャー(乳当て)のホックが三つ……57のEか……成長したな、涼子……」


 ばたん、     ガクッ


 どこで成長確認してるんだか、全く。




 制服のブレザーに着替えて、お茶の間で食後のほうじ茶を飲んでいると、不意におじいさまが、奥座敷から私を呼びつける。

 行ってみると座敷の上座にいたおじいさまは、納戸から何か桐の箱を持ち出してきた。


「その箱を開けてみなさい涼子。それは、のちのちお前の人生に必要になるものだ」


 目を閉じて(おごそ)かな調子でくるので、私は言われるまま箱のふたをを開けた。

 布にくるまれて何かが入っている。




「……? ……………!」


「どうだ? 驚きのあまり声も出んか」


「確かに驚いてます……。これが本当に、のちのちの私に必要なんですか?」


「うむ」


 おじいさまは、目を閉じて腕を組んで胡坐(あぐら)をかいている。

 (らち)が明かないので、私は仕方なく印字されている字を読み上げた。


「――ええと、

 『ツインテール (しま)パン ブルマ スク(みず) チアガール メイド服 おにいちゃん大好き♡スペシャル480分 2枚組』。

 もう一枚は――

 『田舎暮らしの義母(おかあ)さん、旦那だけじゃ身体が(うず)くから義父(ちち)も一緒に 540分 3枚組』

 他は――――」


「うわっ!」


 性欲の権化(じじい)は慌てて私からDVDケース5つをひったくった。


「こ、これは(げん)さんの秘蔵の……。

 い、いやうら若き乙女がそんなもの読み上げるな!!」


 うら若き乙女に、まかり間違ってもエロDVD(そんなもの)渡す方がどうかしてるし(他にもレーベル別女優スペシャルとか、企画もの総集編とか……。

 けっこうオールラウンダーね 源さん)。



「……これじゃ」


 桐の箱に入れられてる、紫色の絹の布を開くと一種異様なモノが入っていた。

 一見すると、昆虫の幼虫とかタツノオトシゴみたいにも見えるけど、フォルムは、人間の胎児? 未熟児にも似てる。

 そして目に当たる部分には、直径7cmほどのくぼみがあった。色は黄色で全体の長さは25cm程だ。数珠や勾玉が巻きつけられている。

 あんまり可愛くは、ないかな。


「今朝お前が拾ったという水晶があったろう。それをここに」


 言われるまま、水晶をくぼみに押し込む。きれいに収まった。全体が少し輝いたようにも見える。




「これはお前も名前は知っていよう、『夜叉の浄眼』だ」


 何も変更なければ、本日5話まで投稿します。お付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ