策謀
「悪いけど時間が必要だ。ハッキング技術で勝てって言ってんだからな、あんたは」
「もちろん。こっちだって無防備で侵入しようとは思ってない。亀裂は過去の実例から見ても48時間は消えない。焦る必要はないわ」
「分かった」
「2時間後、あなたの家にいくわ」
そういって、彼女は俺の前からログアウトした。
「ん? 今なんて言った?」
確か家に来るとかなんとか言ってなかったか?
俺もログアウトし、家でカップ麺を食べながら、ニューゲート内の座標の解析をしていた。
時刻は23時半を回ろうとしていた時だった。
ピンポーン。
「まさか・・・・」
玄関まで歩いていき、ドアレンズを覗くとそこには腕を組み、無表情なのに何故か不機嫌にも見える少女が立っていた。
俺は仕方なく玄関の扉を開けた。
「こんばんは」
一瞬言葉を失った。ニューゲート内で会う彼女は勿論、100%彼女の分身であるはずだったが、初めてその姿を目の前で見て本当に綺麗な顔をした少女なのだと思った。
たしかにこのレベルの少女に会うというのが久しぶりと言うのも否定はできないが。
「なに黙ってるの、どいてよ、入れないじゃない」
「あ、はい。・・・ってなんでお前、俺の家知ってんだよ!」
「そんな細かいことは今はどうでもいいわ。お邪魔するわね」
彼女はまったく悪びれもせず、リビングに歩いて行った。
「はぁ・・・・」
ため息をつきながら、俺は冷蔵庫からミネラルウォーターの入ったペットボトルを出し、彼女が当たり前のように座ったソファの前のテーブルに置いた。
「ありがとう」
「はいはい・・・・」
俺はソファの近くにあるパソコン用の椅子に腰を下ろした。
「で、来た理由はなんだよ。会うならルームを作ってそこで会えばいいだろ?」
「これ知らない?」
おもむろにヒカリは黒のコートのポケットからスマートフォンを取り出し、バーチャル映像を俺の前に映し出した。
映像は数か月前の新聞の記事だった。
“VR空間を運営権利の56%をマーザス社が買取。実質、マーザス社の運営へ”
「こんなニュースあったけか?」
「成海、知ってる情報に偏りがあり過ぎね」
彼女が呆れた顔で言った。
「確かVRの運営権利はマーザス社が30%でワールドコム株式会社が25%だったよな。その他、10社くらいが権利を持ってた記憶なんだけど」
「それは3カ月前までの話。アルファゼロがマーザス社を買収して、さらに運営権利に名を連ねた」
「まじか・・・・。でもネットゲームの運営会社は確かVRの運営権利を獲得することは出来ないんじゃなかったっけ?」
「確かにグレーゾーンではあったけれど、マーザス社という隠れ蓑や、経済界の大物を懐柔してそれを可能にした」
「裏ではやりたい放題ってことか」
「そういうことね。だからこそ、VR内のルームも100%安全ではないってこと」
「でもマーダードライブを俺に話してくれた時はどうだったんだよ? あれも危なかったんじゃないのか?」
「あのときはルームに運営に解析されないように特殊な磁波を発生させてた。簡単に言えば、ルーム内での会話にノイズが混じるような感じね」
「じゃあ今回だって・・・」
「2度も同じ磁波を発生させたらそれこそ怪しまれるわ」
「まぁ・・・・そうか」
「それで、あの亀裂の解析は進んだの?」
「ああ。だけど必要な作業がある」
「話して、成海」