真相への道程
顔は綺麗に整っており、目は人形のように大きい、そして服は肌色のトレンチコートを着ており、黒の膝まであるブーツを履いている。
身長は150後半だろうか、御堂光と名乗る少女の顔に肩まで伸びている金髪の髪がその色白の身体にうまく合わさっていた。
「ねぇ成海くん、君の顔だけど、それ君の本当の顔じゃないでしょ?もっとだらしない髪型で覇気のなさそうな顔をしてたと思うけど?」
その少女は透きとおるような声で俺に言った。
「なんで知ってるんだ? 俺のVRのユーザーページにでもハッキングしたのか?」
「いいえ。そもそも君は有名人じゃない」少女は俺の傍まで歩いてきてきっぱりと言い切った。
「……あの事件で俺を知ったのか?」少しの動揺を感じている。クライアント自体、よからぬ情報網から俺を知ったロクでもない人間だと思っていた。
御堂光という少女はおそらく世間一般でいう完全な美少女だ。
「そうよ。そしてメールで言ったことも本当」
「お前、一体……?」
「まあいいわ。とりあえずこの時計塔の最上階で待っていたのはあなたの実力やシステム解析力とかを判断したかっただけだから、場所を移すわよ。一回ログアウトして。ルームを作るわ」
「…分かった」
ため息を吐きながら俺はログアウトした。
VRの電脳データベースに戻り、御堂光から指定されたルームNoを確認した。
ルームNo987376 開設者・御堂光 招待者・新藤成海
俺は電脳上に浮かぶそのルームNoを右手でタッチした。
意識は電脳上のルームに移動した。
そこはマンションの一室のような場所だった。
彼女はそこにある唯一の家具であるソファに座って退屈そうに待っていた。
「成海、遅いわ。早く座って」
おい、待て。いつの間にか呼び捨てにされているぞ。こいつそもそも年下な気がするんだが。
「はいはい、分かりましたよ。えー、御堂ちゃん?」
俺は彼女と向き合うようにして反対側のソファに腰を下ろした。
「ちゃん付けは気持ち悪いからパス。ヒカリでいいわ。それより、事前に確認したよりもずっとガリガリね。ホントに食べてるの?あと髪切れば?」
「こういう体型なんだよ。それよりとっとと本題に入れよ」
俺は本ユーザーでログインした。つまり俺のそのままの姿だ。
「……私の要求はたった1つ。あなたに協力してほしいの」
彼女は静かに、ただ確かにそう告げた。
「協力?」俺は聞き返した。
「もし誰かがやらなければ一年後の12月31日、私たちの住んでいるこの世界はある一部の人間たちに支配される。勿論死者も数え切れない程出る。マーダードライブ(殺人衝動)によって」
「あの、何を言ってるのか意味が分からないんだけど? マーダードライブ(殺人衝動)?」
「そうでしょうね。でも実際にすでに日本、そして世界で事例が確認されている。さっきも私たちがプレイしていたゲーム、ニューゲートの中でね」
「意味が分からない。ニューゲートが何の関係があるんだよ、その殺人衝動ってやつが」
「2018年3月25日VR上で少年A、当時17歳が被害者、大柳南朋を殺害。少年Aの弁護人は正当防衛を主張。しかし少年Aの主張は通らずAは有罪。少年院へ2年の収監。こう言えば分かる新藤成海くん?」
「……!!!」
俺はソファから立ち上がり座っている彼女の華奢な肩を掴んだ。バーチャル上であっても身体の感覚はBCによって確かにある。
身体が衝動的に動いてしまうほど今の彼女の言葉は俺の神経に触れた。
「君のことはなんでも知ってるわ。被害者・大柳南朋は君の親友だったってこともね? そしてその南朋少年がいきなりナイフで斬りかかってきて、君は身を守ろうとしてそのナイフが”偶然”少年Bに刺さってしまったことも」
「おい、話はそこまでだ。御堂光」
俺が背を向けてログアウトしようとしたとき彼女は言った。
「いいの? あの事件は本当に正当防衛だったのに。いえ、それどころか君にナイフを突きつけた親友くんすらも何も悪くなかったのに」
「は……?」耳を疑うような言葉だった。
「君も親友くんもどちらも被害者だって言ってるの。すべてはVR内で引き起こされたマーダードライブが原因よ。正確には君たちが当時プレイしていたオンラインゲーム・クエスターズの中でね」
ふざけるな。こいつは一体、何を言っている?
「じゃ……じゃあ、あのとき南朋が俺に襲いかかってきたのはそのゲームから引き起こされたマーダードライブってのが原因だったのかよ? そんな話……!」
「信じられない?南朋少年は君をいきなり殺そうと思うような人間だったの?」
彼女が言ったことは一応は筋が通っていた。
だが……
「どうやってマーダードライブなんて引き起こす……」
自分でその言葉をつぶやき、そして即座にその答えは閃いた。
「BCなのか……?」
彼女は俺の答えに小さくうなづいた。