始まりの少女
違法ではあるが、ゲーム初心者がこのステージを突破するにはある程度の裏ワザも必要だ。
先ほど侵入したニューゲートのレベル2のセキュリティはプレイヤーのステータス情報やダンジョン管理のシステムだった。
なので、ステータスのみ限界まで上げさせてもらった。
スケルトンを倒したことで、奥にあったエレベーターの扉が開いた。
2階層にいたのはゴブリン大将という全身緑色のモンスターだった。
一撃で撃破。
3、4、5、6…と順調に進んでいって道中、洋室に集まっていた6人のうちの数人が苦戦していたところに遭遇したが無視して次へ。
二十一階層。ダメージは今のところ大してくらっていない。
するとまた6人の中の一人が戦っていた。外見を一言で言えばヒゲ面の汚らしいオッサンである。だが、ここまで上がってきたということはそれなりに実力はあるのかもしれない。
そのヒゲ面の頭上に表示されているステータスを見ると残りのHPは70、回復用アイテムも所持してないのか、もう瀕死の状態だった。
戦っているモンスターは大龍・グレートエンパイア。
ヒゲ面のオッサンの3倍くらいの図体で見た目だけなら強そうだった。
この時計塔のモンスターは公正を期すためか、プレイヤーひとりごとに一体のモンスターが現れた。
というわけで俺の目の前にもグレートエンパイアが現れたわけである。
早速口から現実ではありえない緑色のヘドロのようなものを口から吐き攻撃してきた。とにかく汚い。
ズパァァアアアアアアン!!!!!!!!!!
木の棒で一撃で撃破。
倒すとアイテム・大龍の唾液をドロップした。
一体どこでこんな汚いものを使うのか。
開いたエレベーターに進もうとすると後ろからヒゲ面が叫んだ。
「おい、君!頼む、助けてくれ!見たところ相当な実力者だろ?助けてくれたら私の持っている最強装備をすべて無償で渡す!残り10階層だ、一緒に進まないか? もちろん、2億というクライアントからのギャラは君が7割貰ってくれていいから!」
「あんた、本当に5億なんて貰えると思ってんの?」俺は鼻で笑った。
「ああ、そうだとも!実際VRオンライン上ではユーザー間の金銭のやり取りは合法的に行われている!これも例外ではない!」
「ああ、そう…。だとしても興味ないな」
「ふ…ふざけるなよ!じゃあ何の為にお前はここに来ているんだ!」
オッサンは年甲斐にもなく激高した。
「馬鹿なクライアントに仕返し」
「は?」
オッサンが喚くフロアをあとにして次の階層に向かった。
道中、たしかにモンスターのレベルは上がっているがなんとか30階層に到達した。
ジャック・ザ・リッパー、これが時計塔最後のモンスターらしい。
モンスターの等身は人間と同じくらい、ただ覆面をかぶり、顔は見えず黒いマントを羽織っていた。
相手はとにかく素早く、目で追いきれなかった。しかもフロアは小さく、隠れる場所もない。
ナイフ攻撃はダメージこそ一回80くらいだが、ヒット&アウェイという卑怯極まりない攻撃を仕掛けてくるので地味にHPが減る。
俺はふと21階層でモンスターがドロップした大龍の唾液というアイテムを思い出した。
データベースにアクセスし、そのアイテムを自分の右手に出現させた。
革の袋のような外観だが、とりあえずゴキブリのようにカサカサ動くリッパ―目掛けて投げた。
瞬間、革の袋からフロアを埋め尽くすほどのネバネバとした液体が流れた。
相手はなんとそのネバネバに捕まり、身動きが取れなくなった。
「なるほど、足止めに使えるわけか。よくできてるよ、このゲーム」
俺は敵にゆっくり歩いて行って、身動きのとれないモンスターを攻撃した。
フルボッコである。
ジャック・ザ・リッパー撃破。
「こんなもんか」
一際大きな扉が重厚な音を立てて開く。その先は協会のような場所だった。長椅子が1ミリの狂いもないように規則正しく並べられ、ステンドガラスがフロア内を煌びやかに彩っている。
教会の一番奥、女神像の下に見覚えのある人間が一人立っていた。
「あんたは……」
そこに立っていたのは時計塔の洋室で俺たちに依頼内容を説明した喪服の初老の女性だった。
「やはり、あなたが来たのね」女性が口を開いた。なんだ?何か違和感がある。
「おい、どういうことだ?あんたはクライアントから依頼を受けただけなんじゃないのか?」
「自分でもやってるのにまだ気付かないの?」
喪服の女性はそう言った。やはりそうだ。声がダブって聞こえる。
「どういうことだ?」
喪服の女性がデータベースを操作した。
数秒後、初老の女性は俺の目の前から消えていた。
「サブアカウント…!?別人……」
女性の白髪の髪は一瞬で金色の色に変わり、その姿は……
「はじめまして、新藤成海くん。御堂 光です。」
金色の髪をした少女は女神像の下でそう告げた。
リンゴ―ン、リンゴ―ン。
新しい一日を告げる時計塔の鐘の音が教会に響く。