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ニューゲート   作者: 佐倉蒔人
第1章
19/20

真実ー2

「亡くなった!?財閥の社長が死んだってなればそれなりのニュースにならないですか?」


「ええ。アルファゼロの社員でさえ、ほぼ99.9%はまだ生きていると思っています」


「は??」

意味が分からない。死んだことが隠されているってことか?

女将がいつの間にか静かに泣いていた。芳賀の後ろにいる牧野の顔も暗い。


「生きてはいるが、死んでいるのです」


「すみません。言ってる意味が……」


「阿久津陽一は保存したのです。古谷丈一郎の『脳』を」


「……」


「古谷財閥のIT部門であるアルファゼロだけではない。発足当初から古谷重工業や古谷商業、古谷化学、銀行、ほぼすべてのグループに一週間に一度、丈一郎様からの労いの言葉が流れます」


「…AIを使えば可能か。AIで人間を映写し、古谷丈一郎の人工知能をインプットすれば……」


芳賀の長い沈黙が、俺の言った言葉が正解だという事を示していた。


阿久津のやってることは非人道的すぎた。まるで悪魔のような行いだ。

そんなのと、あいつは戦っていたのか。


「…牧野、ヒカリ様のネットを起動してください。ここに新藤様を呼んだという事は、おそらくはそのネットに何かしらの手掛かりがあるはず」


「了解しました」


牧野がパソコンを操作し始める。

「どうやらパスワードが必要なようです」


「貸してくれ」

「え?」

俺は牧野からパソコンのキーボードを奪った。


「5分待ってくれ」


パソコンはホーム画面に移動した。


「お見事です、新藤さん」芳賀が拍手をする。

「褒められたことじゃないですよ…」


ホーム画面にkurusuと書かれたファイルがあった。

来栖…。あいつが部屋に残したというUSBの情報か。

ファイルをダブルクリックすると映像が流れ始めた。



ピッ。

ザザッーーーー

『こんにちは。御堂さん、そして新藤さん』

画面には無邪気にはしゃぐ来栖の姿があった。

映像は暗く、来栖が辛うじて見えるくらいの明るさしかなかった。

『まずここがどこかと言いますと、ですね。銀行で言えば金庫、企業で言えば、重要書類を保管する書庫。……国で言えば、絶対にメディアに出てはいけない核の部分ですかね』


そう言いながら来栖は何か階段のようなもので下へと降りていく。


『まぁ、実際のところ、こんな映像を撮ったことがバレたら阿久津さんにマーダードライブ引き起こされて死んじゃうんだろうけど、いっか。これから死ぬし』


『はい、とーちゃく』

部屋は機器の発光によってさっきよりも見やすくなっていたが、芳賀も牧野もそして俺も、映像に映るその謎の物体が何であるか予想がつかなかった。

しかし来栖は、その答えを簡単に話した。


『ジャーン!!ここに眠るは古谷丈一郎社長でーす』


「は?」


来栖が示したそれは、人間ではない。



強大な鉄の塊だった。



全長3メートルはあるだろう。その無機質な鉄の塊から何本もの管が繋がれている。

鉄の塊は表面からは何も分からない。ただ球体の中央に赤いボタンのようなものが付いているだけだ。


『ヒカリさんはもう知ってるからいいますけど、この塊はお父さんの脳みそが入っています。さらに言えば、その脳みそに日本のスーパーコンピューターが繋がれています。つまり人の脳とコンピューターが合わさった世界最高峰の処理能力をもったある意味、生命体ですね、これはー』


「なんと惨いことを……」芳賀が珍しく感情を露わにしている。


『阿久津さんはこれを『ターミナルブレイン』と呼んでいました』



『2023年12月31日、24時ジャスト。阿久津さんはここでマーダードライブをすべてのニューゲートのアクティブユーザーに引き起こす。普通のスパコンじゃ、こうはいかない。柔軟な人間の脳がないとね』

来栖は自分の頭をトントンと指で叩いた。



『これが僕らの核の部分。あ、ちなみにここは現実世界にもあるし、ニューゲートの中にもある。ニューゲートが唯一、コンマ1ミリに至るまで全てを同じように造った唯一の場所』


『御堂さん、新藤さん、僕は君らに負けたけど、阿久津さんはもっと手ごわいよ。頭が良くて、用心深い。でも執念深い、だからこそ、自分に害のある人間はすべて排除しないと気が済まないんだ』


『それじゃあ頑張って』


来栖は他人事のように笑顔でそう言って、動画は切れた。


「もう逃げ場なんてどこにもないってことか…」

とるべき道はたったひとつ、ターミナルブレイン、つまりは古谷丈一郎の脳の破壊。




…あいつ、俺には何も教えてくれなかったな。


「……倒します阿久津を。そんであいつも助けます」


これは俺の過去の清算でもある。


旅館のロビーに行くと、客の一人が大型のテレビでニュースを見ていた。


<機密保持法違反の容疑で学生の新藤成海……容疑者は依然、逃走を続けており、警察はサイバー対策本部を設置するとともに……>


「申し訳ございません、あなたをここまで巻き込んでしまって……」芳賀が深々と頭を下げる。


「今更何言ってるんですか。ハッキングしてた時からこんな事態は覚悟してますよ。……芳賀さん、それより、ここからログインってできますか?俺はリアルではこんな状況だし、ニューゲートからあの鉄の塊を探したいんですけど」


「勿論、すぐに準備いたします。少々お待ちください」芳賀が足早に部屋から出て行った。




2時間後、満月庵

畳の部屋に用意されたのは随分と高級そうなチェアとVR空間にログインするための設備だった。


「くれぐれもお気をつけて……」芳賀と女将が見守る中、俺はチェアに深く腰掛け、BCを頭に装着した。



阿久津を倒さなければ、誰も報われない。

俺も、南朋も、古谷丈一郎も、そして古谷ヒカリも。


過去の清算をして、未来を変える。

その為に俺はもう一度ニューゲートにログインをした。

―――――-――――

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