真実ー2
「亡くなった!?財閥の社長が死んだってなればそれなりのニュースにならないですか?」
「ええ。アルファゼロの社員でさえ、ほぼ99.9%はまだ生きていると思っています」
「は??」
意味が分からない。死んだことが隠されているってことか?
女将がいつの間にか静かに泣いていた。芳賀の後ろにいる牧野の顔も暗い。
「生きてはいるが、死んでいるのです」
「すみません。言ってる意味が……」
「阿久津陽一は保存したのです。古谷丈一郎の『脳』を」
「……」
「古谷財閥のIT部門であるアルファゼロだけではない。発足当初から古谷重工業や古谷商業、古谷化学、銀行、ほぼすべてのグループに一週間に一度、丈一郎様からの労いの言葉が流れます」
「…AIを使えば可能か。AIで人間を映写し、古谷丈一郎の人工知能をインプットすれば……」
芳賀の長い沈黙が、俺の言った言葉が正解だという事を示していた。
阿久津のやってることは非人道的すぎた。まるで悪魔のような行いだ。
そんなのと、あいつは戦っていたのか。
「…牧野、ヒカリ様のネットを起動してください。ここに新藤様を呼んだという事は、おそらくはそのネットに何かしらの手掛かりがあるはず」
「了解しました」
牧野がパソコンを操作し始める。
「どうやらパスワードが必要なようです」
「貸してくれ」
「え?」
俺は牧野からパソコンのキーボードを奪った。
「5分待ってくれ」
パソコンはホーム画面に移動した。
「お見事です、新藤さん」芳賀が拍手をする。
「褒められたことじゃないですよ…」
ホーム画面にkurusuと書かれたファイルがあった。
来栖…。あいつが部屋に残したというUSBの情報か。
ファイルをダブルクリックすると映像が流れ始めた。
ピッ。
ザザッーーーー
『こんにちは。御堂さん、そして新藤さん』
画面には無邪気にはしゃぐ来栖の姿があった。
映像は暗く、来栖が辛うじて見えるくらいの明るさしかなかった。
『まずここがどこかと言いますと、ですね。銀行で言えば金庫、企業で言えば、重要書類を保管する書庫。……国で言えば、絶対にメディアに出てはいけない核の部分ですかね』
そう言いながら来栖は何か階段のようなもので下へと降りていく。
『まぁ、実際のところ、こんな映像を撮ったことがバレたら阿久津さんにマーダードライブ引き起こされて死んじゃうんだろうけど、いっか。これから死ぬし』
『はい、とーちゃく』
部屋は機器の発光によってさっきよりも見やすくなっていたが、芳賀も牧野もそして俺も、映像に映るその謎の物体が何であるか予想がつかなかった。
しかし来栖は、その答えを簡単に話した。
『ジャーン!!ここに眠るは古谷丈一郎社長でーす』
「は?」
来栖が示したそれは、人間ではない。
強大な鉄の塊だった。
全長3メートルはあるだろう。その無機質な鉄の塊から何本もの管が繋がれている。
鉄の塊は表面からは何も分からない。ただ球体の中央に赤いボタンのようなものが付いているだけだ。
『ヒカリさんはもう知ってるからいいますけど、この塊はお父さんの脳みそが入っています。さらに言えば、その脳みそに日本のスーパーコンピューターが繋がれています。つまり人の脳とコンピューターが合わさった世界最高峰の処理能力をもったある意味、生命体ですね、これはー』
「なんと惨いことを……」芳賀が珍しく感情を露わにしている。
『阿久津さんはこれを『ターミナルブレイン』と呼んでいました』
『2023年12月31日、24時ジャスト。阿久津さんはここでマーダードライブをすべてのニューゲートのアクティブユーザーに引き起こす。普通のスパコンじゃ、こうはいかない。柔軟な人間の脳がないとね』
来栖は自分の頭をトントンと指で叩いた。
『これが僕らの核の部分。あ、ちなみにここは現実世界にもあるし、ニューゲートの中にもある。ニューゲートが唯一、コンマ1ミリに至るまで全てを同じように造った唯一の場所』
『御堂さん、新藤さん、僕は君らに負けたけど、阿久津さんはもっと手ごわいよ。頭が良くて、用心深い。でも執念深い、だからこそ、自分に害のある人間はすべて排除しないと気が済まないんだ』
『それじゃあ頑張って』
来栖は他人事のように笑顔でそう言って、動画は切れた。
「もう逃げ場なんてどこにもないってことか…」
とるべき道はたったひとつ、ターミナルブレイン、つまりは古谷丈一郎の脳の破壊。
…あいつ、俺には何も教えてくれなかったな。
「……倒します阿久津を。そんであいつも助けます」
これは俺の過去の清算でもある。
旅館のロビーに行くと、客の一人が大型のテレビでニュースを見ていた。
<機密保持法違反の容疑で学生の新藤成海……容疑者は依然、逃走を続けており、警察はサイバー対策本部を設置するとともに……>
「申し訳ございません、あなたをここまで巻き込んでしまって……」芳賀が深々と頭を下げる。
「今更何言ってるんですか。ハッキングしてた時からこんな事態は覚悟してますよ。……芳賀さん、それより、ここからログインってできますか?俺はリアルではこんな状況だし、ニューゲートからあの鉄の塊を探したいんですけど」
「勿論、すぐに準備いたします。少々お待ちください」芳賀が足早に部屋から出て行った。
2時間後、満月庵
畳の部屋に用意されたのは随分と高級そうなチェアとVR空間にログインするための設備だった。
「くれぐれもお気をつけて……」芳賀と女将が見守る中、俺はチェアに深く腰掛け、BCを頭に装着した。
阿久津を倒さなければ、誰も報われない。
俺も、南朋も、古谷丈一郎も、そして古谷ヒカリも。
過去の清算をして、未来を変える。
その為に俺はもう一度ニューゲートにログインをした。
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