真実ー1
シルバーのSUVが夜を疾走する。車のスピードは100キロを優に超えている。後部座席から見ても牧野の運転技術はすごいものだった。
SUVが信号を無視し、十字路を突破する。
クラクションが鳴り響き、背後から車のタイヤが擦り切れる様な急ブレーキの音がする。
「まだ一台、追ってきていますね」そういうと芳賀は助手席の窓から上半身を乗り出し、スーツからマグナムを取り出した。
ズガン。
とんでもない音で発射された弾は背後の車のタイヤを捉え、車は半回転し、道路のど真ん中で急停止した。
「…あんた何者だよ」やっと意識がハッキリし、声が出せた。
「ただの執事でございます」
「芳賀さん、助けられなかったこと謝る。ただ、あいつが、ヒカリが言ったんだ。日本橋に行けって。後は芳賀さんに聞けって」
「…そうですか。日本橋ですか」
「はい」
「牧野、向かってください」
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首都高の下の道路を擦すり抜けるように車は通過した。
古くからの百貨店とビルがひしめく街は何事もなかったかのように煌びやかに光っている。
車のデジタルの時計は2023年の1月5日を指している。
車はビルとビルの間の小道には入っていく。
しばらく道なりにいくとビルとビルの間に挟まれるように昔ならではの風情を残した旅館が目に入った。
牧野はハンドルを切り、その旅館の右隣に車を止めた。
「ここなんですか?ヒカリが言っていた場所って…」
「ええ」芳賀は頷き、後部座席の扉を開けてくれた。
旅館のロビーに入ると年配の着物を着た女性が驚いたような顔をしてこちらを見ている。
「女将、久しぶりですね」
「いつもヒカリ様の運転手は牧野さんだから…、芳賀様がいらっしゃるなんてまぁ、まぁ…」
「女将、ヒカリ様が寝泊まりしている部屋に案内してくれますか?」
芳賀がそういうと、最初驚いていた様子の女将がピタリと止まった。
「事情は察してください。事は一刻を争います」
「……分かりました。ご案内いたします」
案内された部屋は旅館の地下1階だった。木目の長い廊下を女将に先導されて歩く。
行き止まりになった通路の隣の襖を開けると、広い畳の間に不釣り合いなパソコンが数台繋がれていた。
「ここでいつも?」芳賀が襖の前で立ち止まる女将に聞いた。
「はい」
「…新藤様、ご説明がまだでしたね。この旅館、満月庵は御堂光…いえ古谷光様の祖母にあたる古谷由紀様が経営なさっていた旅館です」
「古谷財閥は古谷丈一郎、つまりその古谷由紀さんの次男さんの代でIT業界に進出し、今や巨万の富を築いている」
川内に聞いて、その後調べた。情報こそ大々的には載せてはいないがアルファゼロは古谷財閥のIT部門として一翼を担っている。
確かに色々なことに合点がいく。普通に考えれば国の官僚や警察組織の上層部にまで力が及ぶなんてこと、古くから国家に根付く企業でもない限りは不可能だ。
「ええ。その通りでございます。もともとは手広くやっていた古谷財閥でしたが、平成のリーマンショックもあり、大打撃を受けました。その時、財閥の子会社であったナノセンスにいた阿久津陽一が丈一郎様に接触をしてきました。結果として古谷財閥は当時最先端であったVR技術を武器に、財閥の地位を完全に復活させました」
「社長からも全幅の信頼を貰ってるってことか…。でもいくらなんでも逆らう娘を監禁したりなんかしますか?」
「……丈一郎様が今の現状を知れば間違いなく阿久津陽一を断罪するでしょう」
「?じゃあ、ヒカリが何とか社長に接触できれば解決するんじゃ……」
「丈一郎様は亡くなったのです、2年前に」
「亡くなった……?」




