雨と来訪者
12月19日、午前10時25分
川内からの電話があって完全に目が冴えてしまっていた。おまけに外はひどい大雨だ。
頭で考えたくもないのに考えることが多すぎる、そう思った。
川内によれば御堂というのは偽名で、何かしら素性を隠す必要性があるからとのことだった。
しかし、だとすると、なぜヒカリはアルファゼロを潰すと言っていたのか。
よく漫画にあるような父親の暴走を止めるとかいうやつか?
考えてもキリがなかった、幸い、ヒカリは今日うちに尋ねてくる。その時にすべてを聞けばいい。すべてはそれからだ。
川内は説教臭く、古谷光との接触はするなと言っていたが、言うのが遅すぎる。こっちは面倒事にすでに巻き込まれているのだ。
午後17時、ヒカリが来ることはなくコンビニに行こうとマンションを出た時、目の前に黒い傘を指した男が立っていた。
男は俺を見ると軽く会釈をした。身長は170後半で髪は全て白髪だった。60歳くらいだろうか。
グレーのスーツに同色のベストを着込み、水玉のネクタイを締め、企業の重役のような印象だった。
「どちらさますか…?」
「執事の芳賀と申します。この度は新藤成海様にお願いがあり、こちらに伺わせていただきました」
「執事? お願い?」
「あなたにヒカリ様を助けて頂きたいのです」
「助ける?あいつに何かあったんですか?」
「今朝、アルファゼロに拉致されました」
「捕まったのか?」
芳賀は頷いた。そしてすぐ後ろに止めてあったシルバーのSUVの後部座席を開けた。
「どうぞ。ここは濡れます」
一瞬躊躇いながらも俺は車に乗り込んだ。
車に乗り込むと運転席に俺と歳の近い女性が座っていた。ボブの黒髪で黒いスーツに白いワイシャツを着ている。
女性はこちらに振り返り軽く会釈をした。
「使用人の牧野です」俺の隣に座った芳賀が運転席の女性を紹介した。
「ども」使用人とか執事とか、海外の富豪みたいだな。
「今、執事とか日本にもいるんだ、とか思いましたか?」芳賀が少し笑ったように言った。
「いや、別に…」このジイさん、怖い。
「まずは私はあなたの敵ではございません。ご安心を」
「ああ、それは良かった。でもなら、あんたたちはどこの人間なんだ」
「それは組織という意味で、ですか?」
「そうですね。私は過去、古谷丈一郎様に雇用された人間ではあります。しかし現在はヒカリ様に雇用されております。私たち執事の世界ではよくも悪くも契約が全てございます。その契約が続く限り、私も牧野もヒカリ様の命令に従う立場であります」
「なるほど…。というか、やっぱりあいつはアルファゼロ社長の娘なんですね」
「はい。その通りです。すべてはそこに集約されると言ってもいいでしょう」
「芳賀さん、ちなみにこの車、どこに向かっているんですか?」
「アルファゼロ本社です」芳賀はあっさりとそう告げた。
「敵陣のど真ん中かよ…」
ため息が出る。どうして毎回こうもリスク続きなのだろうか。
セダンが雨の都内を疾走していく。交通量は少なく、車はスピードを上げてアルファゼロ本社に向かっていく。




