加害者の烙印
2022年12月21日
「疲れた…」
VR仮想空間ASからログアウトし、時計を見たら午前2時過ぎだった。
俺は今日こそはとベットに入り目を閉じた。
目を閉じるとあっという間に睡魔に襲われた。
翌朝10時に起きて、リビングに置いてある16インチのテレビの電源を入れた。
「昨夜、VRゲーム制作会社マールスが何者かからのサイバー攻撃を受け、自社のすべてのVRゲームがログイン不可になり、事実上の経営不能となったことが、警視庁電脳課の調べで分かりました。同社は個人情報の問題で以前より……」
見慣れた女性アナウンサーがニュースを報じている。
ピンポーン。久しぶりに家のチャイムの音を聞いたかもしれない。
「成海、いるだろー?」その声は嫌というほど何回も聞いたことがあった。
「新藤成海、逮捕するぞ、開けろ」開けない限り、そうやって玄関の前で言い続けるのだろう。なんの嫌がらせだ。
「はぁ……。勘だけはいいな、あいつ」
ため息をつきながら、玄関の扉を開けるとそこにはくたびれた顔で無精ひげを生やした長身の男が立っていた。
スーツはヨレヨレで羽織ったコートは皺だらけ、頬はこけている。まだ20代後半の筈だが、今の見た目だけなら30代後半に見えてしまうだろう。随分と疲れているその男は警視庁電脳課の川内和真だった。
「コーヒー入れてくれや」
川内は玄関を開けるや否やズケズケと人の家に入り、そう要求してきた。
「自分で買ってこいよ……」
「面倒だー」
そういって川内はリビングにあるソファに寝そべった。
「おい成海、お前、またやったろ?」
「……」
俺はキッチンに立ち、黙ってインスタントのコーヒーを2人分つくっていた。
「いつも言ってるが、あれは電脳課の仕事だ。お前が出しゃばる問題じゃない。マールスにも3日後にガサが入る予定だった。物事をややこしくするな」
「今回はハッキングは依頼だ。俺を逮捕するならいつでもやればいい。ただ、俺を引っ張ったところでネットに犯罪はなくならないけどな」
「成海、昔のことを忘れろとは言わんが、大人になれ。少なくともこの国ではお前のやってることはサイバー法に思いっきり抵触するんだからよ」
「……」
「これを知ってるのは電脳課では俺だけだ。だが、ハッキリ言わせてもらうが、もしほかの人間に感づかれたら、お前を守ることは俺には無理だ」
「分かってるよ。あんただって過去の事件と俺を餓鬼の頃から知ってるから、ここまでたどり着けたんだろ? ほかの電脳課の連中に俺が遅れをとると思うかよ」
「慢心は身を滅ぼすぞ。お前が思ってる以上にな」
コーヒーを飲むと「またな」といって川内は帰って行った。
要するにわざわざ俺に説教をしにきたのだ。
「ったく、朝っぱらから迷惑な奴」
顔を洗いに洗面所に行こうとしたとき、ピコンとパソコンからメール通知の音が鳴った。
パソコンの画面にアイコンが表示された。
「3年前の事件の真相をお教えします」
件名を見た瞬間、感覚すべてが画面に集中した。
「……真相だと…?」
俺は反射的にメールを開いた。
『新藤成海様。マールス社の件、お見事でした。つきましては私からはVRオンラインゲーム<ニューゲート>の破壊をお願いしたくご連絡致しました。ご興味がありましたら本日19時にニューゲート内の時計塔ステージに来てください。―――――私はすべての真相を知っています。 M・Hより』
「M・H、誰だ……?そもそも、なんで俺がハッキングしたことを知っている?」
雨が降り始めた。すぐに雨脚は強くなり、豪雨になった。
そうだ、あの日も雨が降っていた。
俺とあいつが殺し合った日も。