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乱界  作者: 酒井順
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第5話 核の実験場/婚姻

人類序章の第5話 核の実験場


 サクが三沢基地に着く頃を見計らって、ヘイは“りっちゃん”の駆るパジェロエボで迎えに行った。やがて、車中の人となったサクは「よっ」と言っただけで、日本のことを語り始めた。


「ヘイ、福島の状況はどの程度わかっているんだ」

「あの原発にN国の発射したミサイルが落ちたことは確からしい。ニュースでは曖昧なことしか伝えないし、独自で情報を掴むしかない」

「あり得そうだな。日本の政府も隠蔽工作だけは国際級だからな。よく聞け、あの原発はメルトダウン起こした。もう誰にも止められない。福島を縦断する陸路も空路もシャットダウンされているはずだ。明日になれば、それもはっきりするさ」

「なんだって。どうなっちまうんだ」

「これも誰にも予測できない。日本政府は沖縄に移転することになりそうだ」

「逃げるのか」

「そうだ。この東北は実質的に日本から切り離されたも同然だ」

「いい方に考えれば、自然独立か」

「そうでもない、東北の支配権を巡って日本と米が摩擦を起こしている。下手すりゃ米軍VS自衛隊になるぜ」

「日本政府も勝手なもんだ。切り離しておいて支配権の主張か」

「米が挙手したから対抗しているだけさ。米は東北で核の実験や観測を行いたいらしい」

「そんな勝手をさせるか。東北は東北の人のものだ」


 サクも同感なのだろうが、如何ともし難いものを感じているのだろうため、日本の話はこれで打ち切りとなった。


「ところで、例の話を聞かせてくれ」

「よくわからんからお前を呼んだんだ。ハッカー様の出番さ」

「電話で聞いただけだと、あれはコンピュータと別物のような気がする。いずれにしろ実物をみてからだな」


ということで、この話も打ち切りとなりパジェロエボの車内に沈黙が襲った。


 現地の近くになると、例の如く“りっちゃん”に連れられてサクだけが、一足先に“ノン”のもとに辿り着き“ノン”と格闘しているコウの姿を認めた。コウはいつものようにそれだけに没頭しているらしく、サクの到着に気付きもしない。


「よっ」

いきなり声を掛けられたコウは、ようやく現実に戻ってきたらしい。

「あれっ、サクじゃないか。そう言えば、ヘイが迎えに行ったんだ」

「何処まで進んでる?」

「う~ん。入口というところかな。ここでこいつに話し掛けると頭の中にパネルが現われるんだ。パネルは真っ白で、どうしたいかを思うといくつかボタンが表示される。それのどれかを選択するとゲーム開始というところかな」

「じゃあ、やってみるか」


 いくらか触ってみたサクであったが「やはり、これはコンピュータなんかじゃない」と結論を出しただけだった。



人類新生の第5話 婚姻


 獅牛も3つの花の痣を持っていると聞いたサクは、そんな嫁取り、婿取りのことなどどうでもよく、獅牛の能力を確かめてみたかった。獅牛の姿は下肢、上肢共にネコ科で、胴体もネコ科、頭部だけが、牛に似ていて2本の角も備えていた。確かに利発そうではなかったが、それを3つの花の痣が補っているのだろうか。しかしそもそも3つの花の痣の意味がわからないサクには、潜在能力も可能性も予想できなかった。


 獅牛に「紅天に勝つ方法を教える」と騙して、サクは獅牛を連れだした。「あれを教えてくれ」とせがむ獅牛のあれとは『縛』のことらしい。確かに『縛』は、基本の印で難しいものではないが、その術者が何系に属するかで難易度は変わってくる。例えば、紅天のように自然現象系では『縛』の習得に時間が必要だ。


 印にはいくつかの系統があって、サクの知る系統は『精神感応系』『自然現象系』『技能系』『感知系』『時空系』などがあり、サク本人は特定の系統を持たない『万能系』であったが、だからといって他の系統より優れているかというと、そうではなく、これといった特技を持たず、ただ印の多様性が優れているだけだった。また、天性がその系統でなくとも努力によりいくつかの系統に属する印も習得できることがわかっている。


獅牛の系統が何に属するのか?サクは確かめたく、獅牛に印を結ぶように言ってみた。ところが、

「印?」

 獅牛は印の“い”の字も知らず(やはり、3つの花の痣と印とは関係ないのか)とサクを落胆させた。確かに手指がネコ科のものであるから器用でないのはわかるが、それでも何かあるだろうと、サクはいろいろ試みて、紅天と同じ自然現象系の印を教えてみたが、ものにならずに、傍らで紅天がゲラゲラ笑っていた。これに怒った獅牛は、紅天に向かって突進したが、その時、

「きゃ~。きゃ~」と叫ぶ紅天と同時にサクは何かを感じた。万能系はこういう時に便利で、感知系の印である『印視』を発動させると、獅牛の突進先の空間が印の効果で歪んでいるではないか。

「何すんのよ。この馬鹿牛」と叫ぶ紅天と同時にサクは『縛』を発動させた。堪らないのは獅牛であって、怒りの収め先がなく、この悔しさが印の習得に情熱をもたらしたのかも知れない。


 獅牛が『空間系』ではないかと目星をつけたサクは(どうやって印を結んだのだろう)と不思議だったが、それはともかく、懐かしい過去を思い出したのだった。今は『空間系』の上位の『時空系』を操っているが、昔のそれは不器用だった。考えるより先に身体が動き、印を習得しているというより、体得しているといった方がよく、考えて見れば獅牛もその類なのかもしれない。


 獅牛の系統のあたりがつき特訓が始まると、印の結び方は独特で、上肢2本の指と頭部の2本の角を使って結んでいる。下肢2本も使ったらどうかとサクは思ったが、今はそのレベルではないし、獅牛の念願も叶いそうだ。『空間系』と『縛』は相性がよく、獅牛のレベルでは2次の印で発動できる。


“あれ”と“縛”の印の型だけ覚えた獅牛は、紅天に向かって、

“あれ”⇒“縛”と印を発動させた。すると紅天は、一瞬固まったかのように見えたが、

「何すんのよ、この馬鹿牛!」と詰っていた。


 やはり、獅牛のレベルでは紅天を捕まえることは、未だ先のようだ。いつになるのか誰も知らないが、獅牛が紅天を“縛”によって捕まえた時が、婚姻の時かもしれない。


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