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乱界  作者: 酒井順
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第2話 大湯ストーンサークル/印の組み合わせ

人類序章の第2話 大湯ストーンサークル


 昼過ぎに電話で起こされたシンが牛の面倒をみていると、

“社長から連絡が入っています。至急最寄りの受話器を取ってください“と呼び出しがかかった。

「今度は何処に落ちたんだ?」

「いや、そっちの動きはあまりない。どこのニュースも似たようなもので煮え切らない。こっちで独自に情報を掴むことにした。ところで、今夜“大湯”にいかないか?」

「そりゃ何処の風呂だ。大体に俺のボスがそんな休みをくれると思うか?いつでも自宅待機だぜ」

「そっちは大丈夫だ。さっき許可をとったさ。“鹿角の牧場にお前を明日一日借ります”とね。大体に“大湯”は、鹿角のストーンサークルのことで、風呂じゃない。さっちんのお告げさ」

「それを早く言え。さっちんのお告げなら何をおいてでもいく」

 通称さっちんは、本名が三数沙織みかず さおりで、ヘイの彼女であるが、東京大学文学部を卒業して、縄文考古学に入れ込んでいる少々変わり種の女の子であった。彼女は岩手県県北の神社に産まれ、現在巫女としてアルバイトをしているが、縄文時代と巫女を秤にかければ、だんぜん縄文時代に軍配があがるだろう。だが、さっちんが望むか望まないかに限らず、さっちんは幼い頃から特殊な能力を持っていて、それが“お告げ”であったのだ。その“お告げ”は、事の良し悪しにかかわらず、何かが起こるという点に関しては100%の当確率をもっていて、飽きさせない女の子であったのだ。ヘイの彼女となったのも“お告げ”によるものだそうで、ヘイは彼女から熱烈なアプローチ“お告げなんだから運命なんです”を再三受けたそうである。何かが起こったかと言われれば、こればかりは起こったとも起こらなかったとも判じる事が出来まいが、今ではヘイの方が彼女に夢中のようである。それを知っているシンは、何かが起きる⇒面白いになるため“何をおいてでもいく”になったのであるが、そもそもN国のミサイルより大切な“お告げ”とは一体何なのであろうか。


 それはともかくシンは、

「コウにも連絡をとったか?あいつお盆で田舎に帰っているはずだぞ」

「おう、行くってよ。今、大学は夏休みだそうだ。奥様もご一緒だとよ」

「りっちゃんも。こりゃ、楽しみが増えた」

 コウこと菊池恒きくち ひさしは、京都大学エネルギー科学研究科の大学院に在籍中であるが、いつも“自分が物理学者に向いているとは思えない”と溢し、では何に向いているかと聞くと“わからない”と返すのだった。

 りっちゃんこと菊池りつは、コウの奥様であるが、年のほとんどを出羽三山で過ごす修験道の修行者であった。


 夕方になり5人が揃うと、りっちゃんの運転するパジェロエボを駆って秋田県鹿角市の大湯ストーンサークルに向かった。さっちんが言うには何かが起こるのは、深夜のいつかだそうであるが、岩手と秋田の県境辺りで、さっちんが異常を訴えた。

「いつもと違うわ」

「何がだい」

心配そうに尋ねるヘイであったが、

「声が直接聞こえるの。いいえ頭の中に響いているんだわ。白神山地よ。とにかく白神山地よ」



人類新生の第2話 印の組み合わせ


 夕暮れ時に村に二人は帰ったのだが、そこでは紅天の予想通りに歓迎のムードがあってサクは久々のほんわか気分を味わった。この村には50人ぐらいの村人がいて、全てが“亜妖精属”のようだった。村人の食糧は宅地の周りにある畑で採れた葉っぱ様の植物で、サクはその植物の名を知らなかった。紅天が手を掛けていた畑もその葉っぱ様の植物の栽培を行っていて、村人の食事を見るとただその一品だけのようにみえる。


 サクは印の道に入り、ある程度上級となってからは食事の習慣は無くなっていたが、食べ物が嫌いなわけではなく、村人から与えられた数枚の葉っぱを頬張っていた。その時、長老らしき人物が話しかけてきた。

「お前さん、どこから来なすった?」

「はい、シラカミというところから。あちこちを旅しています」

「シラカミ?知らんの。それよりどうじゃ、ここの婿にならんか」

「はあ、考えておきましょう」

「そうか、そうか」


 この村も他のいくつかの村と同じように過疎化が進んでいるのかもしれない。主産品があの葉っぱだけでは、婿も嫁もこの村には来まい。幸いなことにこの村は、あの葉っぱだけのおかげで争いから逃れられているのだろう。主産品が目ぼしいものであれば、婿も嫁も来手はあるが、同時に争いも背負い込む。サクはこれらのバランスをとることは難しいと思っていた。貧しい平和か豊かな争いか、2000年生きてきたサクにも解決の出来ない問題であった。そもそもバランスをとることが解決方法なのかもわからなかった。


 翌朝、畑に向かう紅天に同行したサクは、

(少し、手解きしてみたいな)と思っていた。

「紅天、印の型をいくつ知っている?」

「印?いくつ?」

 紅天は、印の基本となるものは何一つ知らないようだった。

「ところで、紅天はその技を誰に教わったの?」

「おじいちゃん。この前死んじゃったけど、1000年以上生きてきたんだって」

(もしや散った印者たちの末裔か?シャラの予見の始まりなのか?いや、まだ気が早い)と思うサクだった。

「おじいちゃんも紅天と同じ姿だったの?」

「ううん。サクと同じだった」


 サクは、紅天の畑を耕す印の型を分析してみた。


・あそこ…位置指定

・雲…対象指定

・増せ…対象物の増加

・動け…対象物の移動


 知っている印は4つのようだったが、紅天はこの印を滅茶苦茶に組み合わせて発動させていて、これでは上手くもいったり失敗もしたりするだろう。


「ねえ、紅天。その印の意味知っている?」

「なんとなく」

「印はね、象の言葉なんだよ」

「言葉?」

「例えば-」

と言って、サクは手本を示してみた。


あそこ⇒雲⇒増せ

あそこ⇒雲⇒動け


 紅天は「そうそうそれなのよね」と言って、納得していたが、所有する印が4つで3次の印士は、可能性だけで言えば(4印)の(3次)乗=64通りもの組み合わせ印を発動できる。印は言葉であるから64通りの中のほとんどは意味を持たないし、同じ効果の通りも存在する。


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