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乱界  作者: 酒井順
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第1話 ミサイル/痣

人類序章の第1話 ミサイル


二〇一四年〇八月一九日


眠い眼をこすりながら『シン』こと北鎮樹きた しずきは、携帯の着信を受けた。シンは、未だにガラケーを持ち歩き、メール機能もつかない送受信通話だけのネット接続はパソコンからで十分派であった。そのガラケーに電話を掛けてきたのは高校時代からの親友の安堂平太あんどう へいたであった。


「シン、ニュースを見たか?」

「何のニュースだ。それより、今何時だと思っているんだ」

「そうか、また徹夜か。それよりN国がまた、ミサイルを発射したようなんだ」

「あ~?それより、それで電話してきたのか?」


 鎮樹は、仲間内から“シン”と呼ばれていたが、そのわけは“鎮”をシンと読んでいるだけで、平太が“ヘイ”と呼ばれるのと変わりなく、重要なのは、ヘイがシンの上役であるということで、ヘイは社長、シンは獣医の新米であった。シンが岩手大学獣医学科を卒業してヘイの下で働くことになったのは、ヘイの誘いに乗ったためであるが、昨夜というか今朝寝たのは午前7時である。昨夕から調子の悪い牛に付きっきりで看病していたシンは(そのことをヘイは知っているはずなのに、何故こんなニュースで電話してきたのか?)と不思議にも思ったのであった。


ヘイは安堂財閥現当主(平蔵)の長男であり、次期当主を約束されていたが、その財閥は、岩手、青森、秋田を拠点とする第一次産業から加工、販売までを主として手掛ける地方財閥の1つであった。ヘイは、その跡を継ぐ修行のために基幹会社の1つである安堂北上牧場の社長となっているが、獣医は幹部候補でもあるためヘイはシンのスケジュールをよく知っていて当然であった。


「まあ、聞けよ。そのミサイルが何処に着弾したと思う?」

「知るかよ。そうか、おまえん家か?これはいい」

「そうだな、その方がよほど幸せかも知れない」

「なんだって、いったい何処に落ちたんだい」

「福島県。それもあの原発かもしれないんだ」

「マジかよ、そんなこと起こるわけないだろ」

「官房長官の公式報道によると“N国のミサイルは福島県辺りに着弾した模様です。詳細は鋭意調査中ですが、N国へ厳重に抗議し、如何なる制裁措置も辞さない所存です”ということらしい」

「ふ~ん、で、それでどうしてあの原発になるんだい?」

「おかしいと思わないか?自衛隊もU国も優秀なレーダーを持っている。それがどうして福島県に着弾になるんだい?もう少し場所を特定できてもいいんじゃないか?実はな、うちに入った情報で『あの原発付近でキノコ雲を見た』というのがあるんだ」

「ガセじゃないのかい?」

「複数の人の証言だぞ」


(もし、本当なら日本が、いや世界がどうなるかわからない。確か、あの原発には広島型原爆の18,000発分の核燃料が残っていたような?)と思うシンであった。



人類新生の第1話 痣


 時は、おおよそ21世紀よりも2千年が経た頃であろうか、仮に41世紀としておきたい。この頃、地球上の人類のほとんどは小さな集落を営み、国家はもとより、大規模な交流もみられなかった。つまり、人類共通の暦というものが存在しなかったのだ。


 サクこと小田桐勇作おだぎり ゆうさくは、風来坊でいつでも何処かを彷徨っていたが、そのサクがその村に2、3日滞在してみようという珍しい気になったのは、一人の少女が印を結んでいる姿を目にしたためだった。その少女は、畑と思われる場所に印によって雨を降らせたり、雲を退かせたりしていたのだが、それは上手くもいったり失敗もしたりしていた。


「何してるの?」

 不意に声を掛けたサクに驚いたように少女は、

「畑を耕しているの」

「上手くいってる?」

「そりゃ、なんとか…」

「どうして、そんなことしてるの?」

「えっ、決まってるじゃない。ご飯を食べるためよ。私がこの村で一番の働き手なんだから」


 よくよく聞くと、少女の名前は“紅天こうてん”と言い、この村で一番の腕利きの印士のようだが、ここでは印士と呼ばず“天与娘”と呼ぶらしい。産まれた時に背中に2つの花のような痣があり、天が与えてくれた贈り物だと村人たちは喜び、名前に“天”の文字を入れたそうである。


「今じゃ3つも花の痣があるんだから」

「へえ~、凄いね」

と言ったサクであったが、内心は(だから、3次の印なのか。自然現象系は3次では難しい)と思っていた。


 印は、主に手指を使うが、身体の一部で『象』を描き、その象をいくつか組み合わせて発動させる『印道』の能力のことである。サクが3次と言ったのは、3つの印の組み合わせによる印の発動だったためで、基本的に印士のレベルが上がると次数は高くなる。自然現象系は、最低でも5次は欲しいところである。印士とは、印道の最下級の術者であり、レベルを上げるためには厳しい修行が必要とされる。


 それよりサクが紅天の姿態に目を奪われたのは、紅天の身体は透き通った乳白色をしていて、背中に薄い羽根様なものが未だ生えそろっていないことだった。サクは、このような姿態の人種といくつか出会ってしているが、その全てが温和であり“亜妖精属”と呼ぶことにしていた。


「ねえ、紅天。今夜、村に泊っていいかな?」

「いいと思うよ。サクなら歓迎されるかも。それより、何か手伝ってよ」

 サクの出会った亜妖精属も、対する相手の敵意や害意、好意を見抜く能力を備えていたが、この紅天も例外ではないらしい。サクは、紅天を手伝う振りだけして、紅天の印を補助してあげた。


「あらっ、今日は調子がいいわ」

「終わったの?俺、何の役にも立たなかったね」


 サクは、紅天を通してシャラの遺した言葉の成就を感じていた。


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