黄金色の森
東の方の島国に小さな森がありました。そこにはきつねの家族が楽しく暮らしていました。一人っ子のこぎつねは、いつもみんなに優しいけれど、少し弱虫でした。
「弱虫コンはあっち行け!」
コンは、友達のたぬきちにいじめられて、シクシクコンコンと泣いていました。すると、コンは美味しそうな匂いに出会いました。
「コンくん、こっちだよ。さあ、おいで。」
コンはくんくん匂いを追う。待って待って、と匂いを追う。木漏れ日が一匹のこぎつねを照らし、虫たちは、どうしたの?とざわめきました。コンは美味しそうな匂いに連れられて、いつのまにか森を抜けていました。ここは人間が住む村でした。コンは匂いに夢中で、周りのことを見ていなかったので、ここが人間の村なんてちっとも気づきませんでした。ひとつの家の小さな窓から匂いがコンを呼びました。
「3日後に都会の人たちが来るって本当かい?」
人間たちが鍋を囲んで話していた。
「本当さ、本当。」
「大きな機械を持ってきて、木を全部なぎ倒すって話さね。」
「なんでも、そこの森をゴルフ場にするんだと。」
コンはビビビッとしっぽが立ちました。
「はやくみんなに知らせなきゃ。」
コンは匂いさんにお礼を言って、森に入りました。木漏れ日は全速力で森を駆け抜けるこぎつねを照らし、なんだなんだと虫たちがざわめきました。
「みんな、聞いて!この森が危ないんだ!」
コンは森の住人にさっき人間が言っていたことを話しました。みんなは、どうしようとあたふたしました。みんなは、一緒に頭を捻りました。
「私にいい考えがあるよ!」
森で二番目にかしこいアライグマのお姉さんが言いました。
「神様にこの森に住んでもらうんだ。昔、人間が捨てた絵本を読んだんだ。そこには神様を奉る人間の姿が描かれていたんだよ。」
「でも、どうやって?」
みんな、また頭を捻りました。
「それなら僕の出番だ!」
森で一番かしこいチンパンジーのお兄さんが言いました。
「でも、ひとつ問題があるんだ。一番重要な役をコンにしてもらわなくちゃいけないんだ…。」
みんなが一斉にコンの方を見ました。コンの胸が騒ぐと同時に、森がざわめいたように感じました。コンが無理だよと言おうとしたとき、どこからか、弱虫コンには無理だよ、という声が聞こえました。コンは、言いかけた言葉を飲み込み、すっと森の空気を吸いました。
「ぼく、やるよ!」
コンの声が森に響き渡り、ざわめきもいつのまにか消えていました。高らかなその声には、みんなを、この森を、救いたいという想いが込められていました。チンパンジーのお兄さんは、コンを見てうなづき、作戦をみんなに伝えて、準備をし始めました。
人間たちが森を壊す日がやって来ました。森の住人は準備万端です。ガタガタ、ゴトゴトと森が揺れました。人間たちが大きな鉄の塊に乗ってやってきたのです。
「さぁ、作戦開始だ!」
コンは声高々に言い放ちました。みんながそれに応えて頷いて、持ち場にぴょんと駆けていきました。
「あれはなんだ?人影か?俺たちは外に出ていないはずだぞ?」
一人の男が草の上に映し出された人影を指差しました。他の男が目を光らせて言いました。
「きっと、村の誰かが邪魔しに来たんだ。おい、追いかけるぞ。部長、少し見てきますね。」
二人の男は人影を追いました。森の住人たちは、ガラスと人形を抱えて一生懸命走りました。うまく太陽の光を反射させて人形に当てるのは難しいけれど、必至にみんなはがんばりました。そして、人影は草原を駆け抜けて、小さな森の象徴である大きな岩のてっぺんに辿り着きました。すると、人影がいなくなるのと同時に、黄金色に輝くきつねが一匹、ふっと現れました。その姿は凛々しく、天から舞い降りて来たようでした。黄金色のきつねは、ひょいと岩から向こう側に飛び降りました。二人の男は、慌ててその姿を追いかけて岩をよじ登りました。岩のてっぺんに着いたとき、言葉もなく、ただ目の前の光景を見つめることしかできませんでした。夕陽に照らされた小麦畑がきつねを隠し、より一層輝いていました。その光は世界を照らしているようでした。
「ほら、早く行かないと太陽沈んじまうぞ。」
美味しそうな匂いが漂う庭で、少年が妹を呼びながら走ります。少女は、待ってと兄の後を追います。
「こら、琥珀!山吹を連れてどこ行くの!」
少女は振り返ってにっこりと笑います。頬は夕陽に照らされて、キラキラと輝いて見えます。
「黄金色の森に神様を探しに行くのよ、お母さん。」