ドッペルゲンガー
「ドッペルゲンガー」
彼女はパソコンを覗き込んできた
「何見てるの?またろくでもないサイトみてるんでしょう?」
「オカルトサイトだよ暇つぶしだよ、暇つぶし」
彼女は意地悪な表情をうかべながらさらに邪魔してきた・・・いつものことだ
「こんなの信じてるわけ?・・・何?ドッペルゲンガーって」
俺は説明させるぐらいなら自分で見ろ!と内心思ったが
少し怖がらせてやろうと思った
「簡単に言うと、もうひとりの自分、分身、幽体離脱、生霊みたいなものかな
それを見ると、見た人は死んだりする怖い現象だよ・・・
歴史上の人物も見てるひと多いんだよ・・・芥川龍之介とか・・・怖いだろ〜」
「はははは!面白いホントに信じてるわけ?・・子供ね〜あなた」
「まったく説明すればこれだよ・・・だから言いたくなかったんだ」
「だいたいそんなの他人の空似ってやつじゃないの・・自分に似た人なんか
けっこういるもんよ・・芸能人だってそっくりさんいっぱいいるじゃない」
だいたい彼女はいつもこういう反応しかしない、きわめて現実的な女だ
ファンタジーというものがわかっていない
結婚しているわけでもないのに、付き合い始めてすぐ半同棲状態だ
おれの楽しみを邪魔しては喜んでいる
最近うんざりしている
「ねえ!そんなもの見てないで、買い物に行こう!おいしいもの食べたいな〜」
始まった・・・いつものお決まりコース
おれの趣味を小ばかにして、テンションが上がったところで
自分勝手な買い物と食事・・もちろん俺の金で・・・
それから俺たちは、駅前通りをぶらぶらと散策していた
買い物を済ませ、どこか食事をしようと物色しているときだった
急に彼女が足を止めた
「ね、ねえ!ほら!あの人あなたにそっくり、いやあなたの分身みたい! ねえ見て!」
俺は心臓の鼓動が高鳴り、彼女が指差す人物を一瞬見ようとしたが
さきほどのドッペルゲンガーの件が
あたまをよぎりその場から駆け出していった・・・
案の定、彼女はさんざんに怒って帰ってきた
両手には、今日の買い物と、夕食のお弁当を抱えて
それから例のごとく、俺に対する非難がはじまったが
俺はじっと耐えた
(なんと言われてもいい、命あってのものだねだ・・・)
入浴を済ませて、缶ビールを片手にリビングへ入ると
彼女がパソコンの前に座っている・・珍しいこともあるものだ
「ねえこれ見て、あなたにそっくりでしょう、頭にきたからお願いして写メしちゃった」
そこには・・まさしく俺が写っていた・・・正確に言うと
俺の持っていない服を着た・・・別人の俺だ・・・
俺は気が遠くなりそうだった・・・・
三日後の朝
俺はまだ生きていたが
すやすやと寝息をたてる彼女のとなりで
朝刊を持ったまま恐怖で固まっていた
三面記事には、俺ではない別人の俺が通り魔によって・・故人となっていた
ドッペルゲンガーは・・・・俺の方だった
彼はあのとき、見てしまったのだ・・・俺を・・・