(短編) 最新型LEDシーリングライト - 3,500文字
「見てください。これが最新型LEDシーリングライトの威力です」
面倒臭がりの妻から掃除機の替えの紙パックを買ってきてくれと言われて電気屋に来た帰り、路上で熱心な販売店員に捕まってしまった。
正直、やっかいだなと言う気しかしなかったが、販売店員があまりに熱心に説明してくるので話だけを聞くことにした。
販売店員は熱心に説明する。
「このLEDシーリングライトには、今までの蛍光灯シーリングライトと違ってシーンモードという物が搭載されています」
「シーンモード?」
「シーンモードという物は特定の雰囲気に演出するモードで、例えば疲れた時は癒し効果のある電球色の黄色い光を出したり、映画を見るときは照明を暗めにする等の細かい制御が出来るのです」
「ほう……でも、ここ最近は映画なんて見ないからどうでもいい機能かな?」
「そうでしょう、そうでしょう。そんなお客様には、これ。超最新型のこのモデルがお勧めです」
「これにはどんな機能が? 映画とかそんなのなら要らないよ」
「この超おすすめの最新型G型シーリングライトはそんな物じゃありません。すべての物が清々しく見えるのです」
「ちょっと色が変わるだけじゃないの?」
「と思うでしょう。見てください、これを」
販売店員が指差したデモ用の箱の中にはこのライトで照らされたとってもつやつやとしたみずみずしそうで美味しそうな林檎が一つ置いて有った。
「どうです、この林檎美味しそうでしょう?」
「まぁ、確かにおいしそうでは有るな」
「お客さん、ご失礼ですが、この照明の凄さが全く解っておられ無いようですね……」
「林檎なんて、そう毎日食べるものでもないからな~」
「じゃぁ、この箱の中から林檎を取り出してみて下さい」
俺は箱の中に手を入れ林檎を取り出してみた。
「うぉ??」
林檎はしおしおに干からびて、今にも崩れ落ちそうなほど朽ちていた。
「なんだこりゃ? あのつやつやだった林檎がなぜボロボロに?」
「では、照明の下に戻してみて下さい」
林檎はつやつやとみずみずしい姿に戻った。
「これは凄い……」
「これがG型LEDシーリングライトの威力なのです。どんなものでも美味しそうに見せる。それがこのG型LEDシーリングライトです」
「最近の照明はたいしたもんだな」
「どうでしょうか? 一つお買い上げになりますか?」
「値段がな~」
店員の横に有る値札を見ると128,000円であった。
照明にその値段は少し高過ぎる。
「ん~。ちょっと高いな~」
「そうでしょ、そうでしょ。そこで、お客様だけに特別なプランを用意しいました」
「特別?」
「はい。それはもう特別です。3台お買い上げになれば、なんとこのLEDシーリングライト3台分の値段で、お客様のおうちにある照明全部の台数分ご提供します。何台でもOKですよ。おまけに、電球型のG型LED電球も、今ある電球分交換しますよ~」
「うちの蛍光灯6台と、電球10個ぐらい有るんだがその値段でいいのか?」
「はい! 特別セールなので何個でも何台でもOKでございます」
「よし! 決めた!」
俺は3台分の照明の値段384,000円でクレジットカードで契約を結んだ。
販売店員は即日LED照明を持って来た。
結局、取り付けたのは、シーリングライト8台で、LED電球12個となった。
「とてつもなくお買い得な買い物だったな」
照明は販売店員の言う通りの性能で、家族の皆が満足した。
見た目だけじゃ無く、味も変わる。
見た目どうりの味になるのだ。
大きな嬉しい大誤算だった。
その日から生活が楽しくなった。
コンビニで買って来た弁当が一流シェフの作った三ツ星レストランの味になり、料理下手の妻の作った料理が美味しく食べれるようになった。
子供たちも最近は毎日の食事が楽しいのか、夕方になるとお母さんに食事を催促してるそうだ。
とっても幸せだ。
このライトは食べ物だけじゃ無く人間にも少なからず効果が有るようだった。
最近、弛んできた頬肉とお腹と胸を見るのがウンザリだった妻の身体が、結婚当初の若々しい20代前半の姿に見える。
そんな妻となら、夜の営みにも力が入る。
俺はこのシーリングライトを勧めてくれたあの販売員に心から感謝した。
一ヶ月ぐらいしたある日の夜、あの販売員がうちに訪ねて来た。
「どうですか? あの照明? ちゃんと動いてるか様子を見に来ました」
「ええ、ちゃんと動いてますよ。とっても素晴らしい商品を勧めてくれた事を、家族の誰もが感謝しています」
「それは光栄です」
「なんか、他にも面白い物有ったら持ってきてくれませんか?」
「そう言うと思って、これをお持ちしました」
販売店員は塗料のスプレーがビッチリと収められたスーツケースの中から、サンプルと書かれたスプレーを取り出した。
「これは何でも金色に変えてしまうスプレーです」
「ほー。でもただ金色になるだけなら、タダの塗料のスプレーと変わらないのでは?」
「まぁ、ここにサンプルが有るので試してください」
販売員が新聞紙を居間の机の上に広げる。
その上に、一個のゴルフボールを置く。
「さー、これにスプレーしてみて下さい」
販売店員が促すので、そのゴルフボールにスプレーをしてみた。
──プシュー!
すると、ゴルフボールが金色に塗られた。
見た目は金とそっくりになった。
「確かに綺麗な金色だけど……これが何か意味有るんですか?」
「さーさー、もう乾いた頃なのでこれを手に取ってみて下さい」
持ち上げようとしたところ、とんでもない事に気がついた。
重い!
ずっしりと重い!
それは明らかにゴルフボールの重さではなく、金の塊の玉の重さだった。
「これ金?」
「どうです? 凄いでしょう」
「確かにすごい」
机の上を跳ねさせてみても、ゴルフボールの様にコンコンと音を出して跳ねるのではなく、ゴトンと言ったきり机の上から跳ねる事は無い。
明らかに黄金の塊と化していた。
「このスプレーはいったい?」
「だから言ったじゃないですか、金色にするスプレーだと」
「いや、これはどう見ても金塊……」
「金じゃないです、金色ですよ。金色。コレ……かなりヤバイ商品なので信頼出来るお客様にしかお売りできないのですよ。この照明を買ってくれた上で照明を取り付けると言う名目ておうちの中を見せてもらいまして、警察関係者やヤバそうな人は避けて売ってるんですよね……」
「まぁ、確かにこんなに簡単に金が作れるとなるとかなり危険な商品だな」
「でしょう? で、今回は信頼できるお客様のとこに持ってきたんです」
「わかった。買わせてもらおう。で、いくらだ?」
「1本60万円の商品なのですが、今回は初回と言う事も有って1ダース12本で500万円、いや480万円でお売りいたします。色々な物を金色に出来る事を考えれば、かなりお買い得でしょう?」
「480万円だな。解った。金庫の中から家の購入資金でしまってある480万円持ってこい」
嫁にいうと、渋る。
480万円は少し高過ぎると言う。
俺は、そこら辺に転がってる物を金にして売ればいいじゃないかと説得するがなかなか納得してくれない。
すると、夫婦で揉めてるのを見たセールスマンが言った。
「解りました。今回だけの特別サービスですよ。定価600万円を半額の300万円でどうですか? もう二度とない値段ですからね」
妻は即OKを出した。
私がごねたから300万円も得したのよと、得意気だ
俺たちは、セールスマンに300万円を渡すと、妻と子供たちは喜々として家じゅうの物を黄金に変えた。
妻はアクセサリ、子供たちはおもちゃを黄金にしている。
俺は少し気になってた。
300万円を渡した時のセールスマンのとても悪そうな眼を……。
解説
スプレーはただの金色のラッカースプレー。
セールスマンは一言も、金になるとは言っていない。
照明から脳に作用して物をより良く見せる怪電波が出ている為そう見えてるだけ。