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鏡界少女ユウキ(仮題)  作者: 暁文空
Chapter01<Prologue>
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Ep02:戦いの日々、外れてゆく道

「……あっ……悠希。……こんなところで会うなんて……」

 街を歩いていると、悠希はそんな風に声をかけられた。小さな声で、だけど確かに聞き取ることのできる綺麗な高い声は、歌い手や声優にでもなれば大成できるのではないか、と周囲の人物がそう評価するほどに澄んだ声だ。そして、悠希は声の主に返事をする。

「お。一美か。……珍しいな、一美から話しかけてくるなんて」

「……そういえば、そうだね。……まぁ、変わらなきゃ、とは思っているから。一応、努力しているんだ」

 鷲津わしず一美かずみ。悠希とは幼馴染の関係にある少女。前述のような彼女の武器となりうる声があるにもかかわらず、彼女はそれを活かし切れていない。というのも、極度のあがり症であり、ただの幼馴染である悠希に話しかける事すらできない、という凄まじさである。そういう事もあって、合唱やカラオケなど不可能であるし、声優や歌手になどなれそうもない。

 しかも、彼女の場合は美少女という事も厄介だった。容姿がいいだけに、声優や歌手としてデビューしようものなら、まず間違いなく顔出しする。そういった事を理解しているがために、彼女はそういった夢を持てずにいた。そして、今も。

 そんなあがり症、というよりももしかしたらコミュニケーション能力が低いだけなのかもしれない彼女が、悠希に話しかけた――その事実が、彼には驚きを与えたのだ。

「ところで……悠希。ちょっと痩せた?」

「……んー。痩せるつもりはなかったけど、最近は運動してるからな。面倒は嫌いだけど、運動は好きだしな。退屈しないし」

「悠希らしいね。退屈しない、なんて」

「まーな」

「どんだけ退屈が嫌いなのよ?」

「金はあるけど退屈な生活を送るくらいなら、金のない退屈しない生活の方がマシなレベル。……つか、一美。妙に饒舌じゃねえか」

 何気ない会話。だが、悠希はそんな些細な事が気になった。そんな悠希の問いに対し、「だから、努力してるって言ったでしょ……?」と返した。確かに、筋は通っていた。だが――どうしても、違和感を拭えなかった。



 その違和感は、ずっと残ることになる。

 そして、その違和感の正体に、悠希は気づくこととなる。


 その時には、もう手遅れだった――否、この時に気づいたとしても、結末は変わらなかった可能性が高いのだが。









Chapter01<Prologue>

Ep02:戦いの日々、外れてゆく道










 悠希は用事があるらしい一美と別れ、一人――否、ラプターとともにK駅近辺を歩き、ナニカの兆候を探していた。

 ナニカの兆候を探す――と言っても、ナニカがその近辺の鏡の中、鏡界にいれば、ラプターが察知できる、というものであり、悠希だけでなんとか探す、という事はできない。悠希はただ広い範囲を歩くことしかできないのだ。ラプターが、ナニカを探し当てるまで。

「そんにしても、こうやって駅近辺を歩くと新しい発見とかあって、案外退屈じゃないのがいいよなー。用がなかったら、こんな商店街とか入らないぞ。つか、こんなところにコンビニとか、ファーストフード店とかあったんだな。……いやー、驚きの発見とかあると、最高にハイになるな」

『……いや、高揚し過ぎと思う。そこまで饒舌だったっけ、ユウキは?』

「俺のは元からだよ“ラプター”。……まぁ、生まれつきかどうかはともかく、物心ついた頃から、大体こんなだな。テンションが上がっていれば、という但し書きはつきそうだけどな」

『それって、結局普段は饒舌じゃない、って言っているようなものじゃ……』

「気にしたら負けだと思ってる――それに、テンションが上がっているときは比較的多いからな、俺は。だから、間違ってはないんだよな、これが」

 そう言って、悠希はハハハ、と笑った。少し乾いた感じのその笑みは、どことなくラプターの言っている事を自覚している事を暗に示していた。悠希にはそのつもりがなくても、ラプターにはそれを感じられた。そして、そんな様子を見てラプターは存在しないはずの頭に痛みを感じた。今のラプターには身体というものがない。故に、痛覚などはないはずだった。なのに、痛みを感じた。

 ――どういう事なんだろう。

 そんな事をラプターは思いつつ、それについて考えようとした時――ナニカの存在を察知した。

 その瞬間に痛みは止まった。気のせいか、と適当に結論をつけて、考えることをやめにした。そして、悠希にナニカの存在を知らせる。


『ユウキ……いたよ』

「……了解、ラプター。……“界入エンター・イン・ミラー”……!」

 そうして、悠希はユウキとなると同時に世界は左右反転、彼――否、彼女は鏡界に入った。


 其処にいたのは、やはりナニカ。名前などない。その外見が、その形状が、その在り方を言葉で説明するにはあまりにも奇妙過ぎた。ただ、それをなんと呼称するにしても、この外見や形状、あり方はこの世のどんな存在とも似つかない。故に、これはナニカと呼ばれる。そこに何か――ナニカがある。それで十分なのだ。これが、ラプターから聞いた限りで、悠希が――ユウキが知っている知識だ。

 それが正しいのか否かはともかく、目の前にいる敵の名称を考えようにも、その形状からなんと呼称すればよいのかわからないのは事実。少なくとも、目の前にいるのはナニカだ、と結論づけるには十分だった。

 そして、目の前にいるのがナニカなのであれば――それは、排除しなければならない。


 ――否、排除するのだ。確実に。


 ナニカはユウキを視界に入れたのか、あるいはなんらかの方法で認識できたのか――手段はユウキにはわからない。だが、ナニカは確かにユウキへ向けて有害そうな物質を放射し、その上で、上昇した。その形状からは想像できない動き。それにユウキは一瞬対応が遅れ、有害そうな物質を紙一重で避けることとなった。――否、微量がスカート部に着弾し、その部分が溶けたように欠けた。

「……サービスカットとか趣味じゃねえっての」

『まぁ、誰も見てないからサービスも何もないと思うけど。それに、ナニカには感情のようなものはないし』

「だとしても、気にするだろ、ラプター」

『……そう、なのかな? 私にはわからないけど……いや、それよりユウキ、まだ来るよ!』

 そして、第二波。今度は放射した量をさらに増やし、ユウキに逃げ道を用意しないようにしていた。回避は不可能のように見えるこの状況。そう、回避は不可能故にユウキはその場を動かない。――が、迎撃は不可能ではない。「“空を支配する雷の長槍ライトニングラプター”」と、小声で呟くと、右手に光り輝く長槍が握られ、それを右手だけで器用に回転させる。すると、槍に触れた物質はそのまま蒸発するかのように消滅していった。そして、そうして作った道へと逃げ込みつつ、残った物質をも消滅させた。

 ――そして、それだけでは終わらない。

 攻撃を防ぎ、自分の身を守るだけなら難易度は低い。だが、この迎撃運動は攻撃への転換をも一瞬で済ます布陣だった。

 ユウキの経験談では、という但し書きこそつくものの、ナニカは総じて動きの速さはバラバラではあるが、動くまでのタイムラグが長い。つまり、相手が接近してきていると気づいてから攻撃するまでの時間が長く、そこが弱点となる。――そして、この場合。ナニカはユウキに向かって攻撃を行っていた。ユウキは確かにその攻撃を迎撃していたが、この時点でナニカはまだ攻撃を止める事ができない。攻撃を始めてしまった以上、攻撃開始時に決めた分だけ攻撃しないと、止める事ができないのだ。この時点で、ユウキが接近し、“空を支配する雷の長槍ライトニングラプター”の射程圏内にナニカを捉えたとしても、ナニカは回避運動をとる事ができない。


 ――つまり。


 この時点で、勝敗は決していた。ナニカが動き始めた時点で。ナニカが勝利するには、一撃目を必中させる事が前提だった。

 だが、それは果たされなかった。ユウキは初撃を回避し、ナニカは初撃を外した。そして、ユウキは止めの一撃を放つ準備に入っている。そして、ナニカはそれを感知しても、それに対する回避運動を取るには、時間が足りない――

「――“空を支配する雷の長槍ライトニングラプター”ァァァッ!!」

 この空を、この戦場を支配する長槍の一撃が、ナニカに突き刺さる。そこから稲妻が走り、ナニカを焼き、そのままナニカを消滅させ、そこから小さな球状の物体が現れる。それに向けてユウキは長槍を突き出し、物体を吸収すると長槍の輝きが先程よりも増した。

「排除完了っと」

『お疲れ様、ユウキ』

「ああ。まあな。……初撃は危なかったけど、どうにかなったな。スカート部も倒したら元通りだったし――」


『――ありゃ、一歩遅かったか』


 ユウキはなんてこともない一言を発したとき、それに割り込む形で誰かのハスキーボイスが、彼女の耳に入った。

 ラプターの声ではない、とユウキは気づく。誰のものなのか。少なくとも、ユウキはこのような声を聞いたことがなかった。だが、この声の聞こえ方はラプターのものと類似しているとも感じられた。故に、その声の主はただものではないと結論づける。果たして、それが何者なのか。敵か味方か。様々な推測ができる。――だが、何もわからない以上、どうすればベストか、ベターか、というのがわからない。となれば、ユウキにできるのは――

「何者だッ!?」

 ただ、問うこと。それが何者であるかを調べることのみだった。

『何者かって言われてもねえ……まぁ、“ブラックウィドウ”ってもんだ。其処にいるラプターとは同類だっていえば理解できるかい?』

 そんな声が聞こえた後に、目の前のビルの屋上に、三、四メートルほどの巨大なクロコゲグモが其処にいた。

『よぉ……さっきぶりだねぃラプター。そっちは保険を見つけたみたいだねぇ……? こちとら実力不足なのに見つけてなくてねぇ……これ以上強くなられる前に潰させてもらうよ……っ』

「……!? ど、どういう事だラプター。アイツは同類なんじゃないのか!? 同類だっていうのなら、協力関係にあるんじゃないのか!?」

『あれ? ラプターは伝えてなかったのかい?』

『……』

『肝心のラプターがだんまりだから親切なアタシがラプターの保険やってるアンタに冥土の土産として教えてやるよ。アンタが倒してたアレ、実はラプターやアタシたちにとっては養分なのさ。回収すれば回収するだけ得。つまり、効率良く回収したい。けど、回収して、それが自分たちに反映されるまでには時間がかかる。――なら、その反映される直前のヤツを狙うのも作戦、というわけだ。そして、アンタら……これまでに何体か倒しただろ? つまり、アンタらを倒せばアタシは一気に何体かのナニカを倒し、回収したのという事になる。――なら、狙うしかないじゃないかァ!!』

「……ラプター、なぜ言わなかったんだ……?」

『言えば協力してくれないと思った。それに、うまくいけば遭遇せずに済むと――そう思ってたから』

 そんなラプターの回答に、確かにそうかもしれない、とユウキは思った。とはいえ、ナニカが自分たちの害と聞かされた以上、どういう事情があっても、ユウキはラプターに協力しただろうな、と結論づけた。

「……気にしなくていい。……今の状況は状況で、楽しめるから」

『……えっ……?』

「いかにもかませ犬です、みたいなヤツを倒すのは――楽しそうだからな!!」

 ニヤリ、と口元を歪ませつつ、長槍を構えるユウキ。そんな様子にラプターは困惑するばかり。


 ――違う。そうじゃないよユウキ。


 ラプターはそう呟くも、そんな儚い呟きはユウキの心臓の鼓動でかき消され、ブラックウィドウはユウキへと迫り、ユウキも迎え撃つ体勢に入った。

 ユウキは相変わらず、こんな状況を楽しんでいる様子だ。それがなんとなく察して出来てしまうがために、そんな状況はラプターにとって好ましくなかった。

 最初はそんな事はなかった。だが、日に日にラプターはユウキに戦って欲しくない、と思うようになっていた。だからこそ――ユウキに戦わせる原因を作ってしまった自分を責めてもいた――なのだが。

 いくら刺激が欲しかったとは言え、ユウキの変わりようはおかしい、とラプターは感じた。一体何がユウキをそうさせてしまうのだろうと思いつつ、ユウキを死なせないためにも、ユウキが戦うのであれば、できる限りの支援をしなければ――と、ラプターは考えるのをやめた。


 ――今はとにかく、ユウキを守ることだけを考えよう。


 そうして、ラプターはユウキの眼となり、耳となり――あらゆる感覚を強化しつつ、ラプターにのみ察することのできるナニカにもにたブラックウィドウの力の気配をユウキに伝えることで、ユウキを助けなければ――ラプターはそう思ったのだ。



 もう少し、ユウキについてこの時考えていれば、あるいは少しはラプターの望み通りに、そしてユウキにとっても最良の結果が待っていたのかもしれない。だが、もう遅い。賽は振られてしまった。

 こうなった以上、あとは結果が出るのみ。そうなってから、ラプターは自らの失態に気づくことになるのだが――その時にはもう何もできない。










To be continued......

2012.9.15 脱字修正、一部文章修正

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