あいつの策略
双子ちゃん……可愛い!!
自分で書いておきながら言うのもなんですが……。
狼の双子が落ちつくまで少し休憩し、二人が落ちついたところで事情を訊くことにした。
「あのねー、フィアたちはある人に頼まれて来たのー」
「来たのー」
「誰に頼まれたの?」
「フィアたちには分かんないー」
「分かんないー」
先に話しているのがフィア、後に繰り返しているのがフィイ。可愛いんだけど、若干うざいな。慣れるまでの辛抱か。
「で、あんたたちはどうするの? 狼族のところに戻る?」
「それは絶対に嫌ですー」
「嫌ですー」
双子が泣きながら抱きついてきた。そんなに辛かったのだろうか、狼族の中での暮らしは。
さすがに小さい子供が泣きついてくるのは情に訴えるものがあるらしく、リアと黒いのの顔は幾分か柔らかくなっていた。
「私たちはお父さんもお母さんもいないからね」
「いっつもいじめられてたの」
「でもね、今回の"さくせん"で"おてがら"たてたらね」
「族長さまがお父さんの代わりになってくれるって言ってたから」
「自分たちから志願したのー」
「したのー」
私たち3人は言葉を失った。こんなに幼い子供が自分の身を守るために自らこんな危険な作戦に加わったというのだ。その族長がどんな人物なのかは知らないが、おそらくこの双子は騙され、利用されている。
「私たちと一緒に行こう。大丈夫。お姉ちゃんはとーっても強いのよ♪」
そう言って二人を抱きしめると、二人はにっこりと笑った。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「フィイたちも何か役に立ちたい」
「ありがとう、その気持ちだけで十分よ。リアに黒いのも文句ないわね」
振り返りながら聞くと、二人とも首を縦に振った。
さて、と。出発する前にもう一仕事するか。無言で黒いのが太い縄を差し出してきた。気がきくな、こいつ。リアも見習えよ~。
私はまだ気を失っているリーダー格をこれでもかというほどきつく縛りあげた。まだ起きないので軽く頬をはたく。そこで呻きながらリーダー格が目を覚ます。
目を開けること数秒。自分の状態を確認して自分の状況を理解したらしい。話が早くて助かる。
「さぁて、洗いざらい吐いてもらいましょうか?」
「……師匠、目が悪人です」
「貴女の辞書には手加減という言葉がないのですか?」
「敵に対してはね」
「「(絶対にこの人だけは敵に回したくない)」」
何もしゃべらないが、気配だけで双子もおびえているのが分かる。敵に女という理由でなめられるわけにはいかないからね。このぐらいがちょうどいいのよ。
……と思ったら、
「まったく貴女は……。相手が怯えて口もきけなくなってるじゃないですか。代わってください。僕がやります」
何やら不気味な笑顔を浮かべた黒いのがリーダー格を連れて私たちから離れていった。何するつもりだあいつ!? あんな生き生きとしている黒いのは初めてみた……。
――――数分後――――
妙にぐったりとしたリーダー格と、妙に肌がつやつやとしている黒いのが戻ってきた。ホントに一体何があったんだ!?
「だいたい分かりましたよ、敵が」
「大丈夫か、お前……」
思わず敵のほうを心配してしまった。声をかけても放心状態でピクリとも反応しない。もとは仲間だったはずなのに双子は怖がって近づこうともせずリアの後ろに隠れている。ムムッ! いつの間にリアに懐いたんだ、この二人!
「どちらかといえば、残念なお知らせになりますね。僕の予想が正しければですけど」
「誰が依頼人か分かったのか?」
「まだ僕の予想ですけどね。……たぶん、"あの人"が関わってます。こいつも実際に依頼人の顔を見たわけではないそうなので、あくまで僕の予想になりますけど」
「……真相は進んでみないと分からない、か」
黒いのがいつになく真剣な顔をしているから、私をからかって楽しんでいる可能性は低い。
もしあいつが関わっているなら、この先少し慎重に進まなければならないだろう。
「何がしたいんだよ、あいつ」
そこには不思議そうに私を見上げる双子が居た。
次回、隣村に入ります。