新たな敵
やっとリア君が解放されたと思ったら、また敵です。
久々に師匠の真面目モードが入ります。常にふざけてるからな、師匠って。たまには真面目になってもらいました。
最近はミカゲ君も師匠と仲良くなってきました。もともと師匠はミカゲ君のこと大切に思ってるんですよ。照れ屋なんです。好きな子はいじめたくなるというあの原理です。
「嫌ー!!」
「ほら、頑張ってリア!」
「早くしないと暗くなって出られなくなりますよ」
巨大ナメクジにリアが挑み始めてから早3時間。リアは逃げてばかりで戦いになってない。リアの背後の壁際に並んで座った私と黒いのは時々面白がって声援という名の茶々を入れる。
「私、こんなナメクジに負けるような鍛え方をした覚えはないわよ!」
「そんなこと言ったって! 嫌だ、こいつ気持ち悪いです! 触りたくないし触られたくない!!」
「もう、しょうがないわね……」
「お、師匠のお出ましですか」
立ち上がった私に反応する黒いの。その黒いのを上から見下ろしながら私は不敵に笑う。その顔を見た黒いのが顔を引きつらせる。……さすがは一時期私の弟子をやっていただけはあるわ。いい勘してる♪
「行きなさい、黒いの!」
「えー、僕が行くんですかぁ? ここは可愛い弟子を助けるために師匠が出る場面ではないですか」
「師匠命令よ!」
「もうとっくに貴女の弟子ではなくなりましたけどね。……仕方がない、困った師弟ですね」
そう言って懐からやや大ぶりのナイフを取り出して立ち上がる黒いの。
「リア、ちょっとそこどいてください!」
リアが黒いの前からどいた瞬間、地面をけった黒いのがもうナメクジの目前まで迫っていた。そのままナイフを一振り。一撃でナメクジを沈める。
「黒いの、もう一度道場戻ってきて師範代やる気はない?」
「嫌です」
あっさり、しかもさわやかスマイル付きで黒いのは言い切った。ここまで綺麗に即答されると帰ってきてほしくもない相手だとしてもちょっとムカつくわね。
「何よ、私だっていくらあんたが「はい、ストップです」」
私がちょっとキレたのを感じたのか、リアがストップをかけてきた。さすが弟子。自分の師匠のこと良く分かってるわぁ。
「ミカゲさん、僕の代わりに倒してくれてありがとうございました。おかげで助かりました」
必殺、リアの天使の微笑み。この技は老若男女を問わず、すべてのネコに通用する。試したことは無いが、たぶん狼にも効くだろう。もちろん、脇で見ていた私にもしっかり効いている。可愛いなぁ。
「……まあ、文句は後でしっかりと、然るべき相手に。とりあえず上に戻りましょう」
黒いのは少し下がると、助走をつけて跳んだ。続いてリアも。……足自慢の若いのはいいわ。二人とも元気ね。
「何やってるんですか、師匠! 早く来てください。これくらい師匠なら余裕でしょ?」
「えー、私も跳ぶの? リアたちが引っ張ってくれないの?」
「ふざけてないで早く上がってきてください。いつまでもそこにいるとまたナメクジがきますよ。あと2、3匹分くらいの匂いがします」
「それを早く言いなさいよ!」
私は助走無しでそのまま軽く5mほど跳ぶ。余裕で穴を抜けた私を黒いのとリアがジトっとした眼で見つめる。
「……元気じゃないですか、師匠」
「………………(相変わらず嫌な人だ)」
あれで僕たちより強いんだからー、とかリアと黒いのが二人で愚痴っている。何よ、これでも私はあんたたちの師匠よ。これくらいで出来なきゃあんたたちの師匠なんか勤まらないわ。何か文句ある?
私が一人拗ねていると、突然リアの耳がピクッと動く。とたんに目を細めて辺りをうかがう私たち3人。さっきまでの弛んだムードは何処へ行ったのやら、全員の顔が厳しいものへと変わっていた。
「東方、1、2……10匹? たぶん狼です」
「みたいね。10匹なんてそんな大勢でいるところ初めてみたわ。とりあえずこの人数であれを相手するのは面倒ね。隠れましょう」
私の眼ははっきりと東からやってくる狼たちの姿が見えていた。
「あいつらが来るのが東からじゃなかったら先に進むんだけど……」
私たちはもと来た道を音を立てずに駆け戻る。集落の外に出ると、各自手頃な木に上り、姿を隠す。木の葉のおかげでこちらからは狼の様子が確認できるが、あちらからは見えないだろう。
東からやってきた狼たちは私たちが落ちた穴を覗き込むと、リーダー格っぽい狼が口を開いた。
「いいか、お前ら。ナメクジの溶け具合からまだ奴らはこの辺に居るはずだ。探せ!」
あのナメクジ溶けるのか! って、突っ込むところはそこじゃない。あいつら確かに、奴らはまだこの辺にいる、と言った。奴らとはもちろん私たちのことだろう。
「……まずいな」
狼たちは総じて鼻がきく。最初から私たちを探すつもりなら匂いでこちらにすぐ気がつくだろう。
私たちと狼の距離、100m。
次回、ちょっと話はシリアスに。物語が少し進みます。新キャラも出る予定です♪