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気ままに。  作者: 咲坂 美織
種族戦争編
46/48

上に立つ者

「血の花に呑まれたか……」

「ソーマさん……?」

 私の声に応えることはなく、ソーマさんはリアに向きなおった。

「リア君、あれはなんだか知っているかい?」

「花、ですか」

「そう。君がずっと血を捧げてきた花だ。しかし、花は完全に依り代を取りこんでしまった。これはどういう意味だか分かる?」

「!!」

 ソーマさんはリアの反応を見て満足したらしく、視線を花に向けた。

「どうするかは君に任せるよ」

 そう言って花から視線を逸らさないまま、一歩下がった。

「ソーマさん、ソーマさんって一体……?」

 一歩下がった位置にへたり込んでいた私はソーマさんを茫然と見上げて言った。

 そんな私に視線を向けると、ソーマさんが口元に指を一本あてて微笑んだ。そうですか、秘密ですか。

 ソーマさんはそのまま私の隣に立つと、私を促して正面に注意を向けさせた。

 目の前では、リアがリノと向かい合っていた。

「リノ、リノ。僕の声が聞こえる? リアだよ。君の兄である、リアだよ」

 リアは自分で言った兄という言葉に切なげに笑った。

「リノ、ごめんね。ずっと独りにしていたんだね。大事な時にいない、不甲斐ない兄でごめん」

「おにい、さま?」

 ずっとうわごとを繰り返していたリノが反応を返した。

「ごめんね、リノ。何も出来なかった兄でごめん。傷つけることしか出来なかった兄でごめんな」

 そう言いながらリアは泣いていた。しかし、リノから顔を背けることだけはしなかった。

「おにい、さま。……泣かな、い……で」

 リノが手を伸ばした。リアはそっとその手を握り返した。

「リノ、リノ。もう終わりにしよう。もう辛い思いをしなくていいんだ。僕が傍に、ずっと傍にいるから」

「お、わり。……おにい、さま、と……い、っしょ」

 リノの言葉が途切れた瞬間、逆再生をするかのように、絡みついていた蔦がするすると消えていった。

 最後に残ったリノの白い身体を、リアは抱きしめていた。

「おやすみ、リノ……」

 固く閉じられたリノの瞼に、リアは優しく口づけた。

 

 森には朝の光が差し込み始めていた。




「リア、もういいの?」

「はい。ありがとうございました」

 日が完全に昇るまでリノの身体を抱きしめ動かなかったリアは、リノを埋葬したいからといって先に私たちを"白ネコ族"の集落に向かわせた。

「とうとう、僕1人になってしまったんですね」

 昨日までは"白ネコ族"で埋め尽くされていた集落には私たち以外人影はない。

「守るべき民を失った族長なんて、笑っちゃいますよね」

 珍しくリアが自嘲気味に笑った。私は何も答えることが出来なかった。

「あー! リア見つけたの!! ソーマさん、リアいたよー!!」

 フィアが興奮したように走ってきて、リアの周りを飛び跳ねている。

「ちょっと、フィア、どうしたのよ。落ち着きなさい」

「大変なの大変なの大変なのー! とにかく早く来るのー!!」

 フィアは私とリアの手を引いて立ち上がらせると、来た道を一目散に駆け戻った。

 フィアに手を引かれて辿りついた先には小さめの建物が建っていた。その前にはニコニコと満面の笑みを浮かべたソーマさんが立っている。

「フィアちゃん、ご苦労さま」

 ソーマさんに頭を撫でられてフィアはご満悦だ。

「ソーマさん、一体どうしたんですか?」

「いたんだよ、生き残りが」

「え!?」

 ソーマさんの言葉にリアが真っ先に反応すると、続きも聞かずに建物の中へと飛び込んだ。

 その必死な様子に笑みがこぼれる。

「カランさんも行ってみますか?」

「そうね、リアの民だものね」

 間にフィアを挟み、三人で並んで建物の中に入る。中はそれなりにきれいにされていて、なんだか温かい気持ちになった。

「師匠、見てください」

 リアに呼ばれて隣に立つ。リアの脇からリアが覗きこんでいる籠の中を見ると、中にはまだ小さな赤ん坊が眠っていた。

「こっちにもいるよ」

 そう言ってソーマさんが連れてきたのはまだ歩き始めて間もないくらいの歳の子からリアと同い年くらいの子供たちだった。

「おにいたん、だぁれ?」

 まだよちよちと歩いている男の子がリアに向かって手を伸ばす。リアはその手を捕まえてしゃがみこみ、目線を合わせると笑顔で言った。

「みんなのお兄ちゃんだよ」

 その答えを聞いた子供たちは一斉にきゃっきゃと笑いだした。それを微笑ましく眺める年長者組。

「しかしどうしてこの子たちがこんなところに?」

「この子たち、孤児らしいんだ。力も弱く、集落のはずれに慎ましく住んでいたこの子たちは血を求められなかったわけだ」

 ソーマさんの言葉に、リアは目から涙を溢れさせた。

 そんなリアにぎょっとした子供たちがわたわたとリアの周りに集まる。

「おにいたん、どうしたの?」

「いたい、いたい?」

「おにいちゃ、ぎゅー」

 リアの涙に不安そうな顔をした子供たちに、リアは慌てて笑顔を浮かべて言った。

「違うよ。どこも痛くないよ。お兄ちゃんはね、嬉しいんだ」

「うれしい?」

「そう。みんな、生きててくれて、ありがとう」

 リアはそういうと、子供たちをまとめて抱きしめた。子供たちも喜んで抱きつき返した。

「もう大丈夫そうですね」

 希望が見えた瞬間だった。





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