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気ままに。  作者: 咲坂 美織
種族戦争編
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満月

 "斑ネコ族"の集落に来てから一晩が経った。日が昇ったというのに辺りは薄暗く、空はどんよりとした雲に覆われていた。

 あてがわれた宿で朝食を食べ終わったころ、ロイが私たちのもとを訪ねてきた。

「レイラ様から丁重にお見送りせよとのお言葉だ。案内する」

 相変わらず私たちに対する警戒は解かれていなかったが事情を考えれば当然というものだろう。私たちは黙って後についていった。

「南のほうに行くのだろう? この街道を道なりに行けば3日ほどで着くはずだ。……道中の安全を祈る」

「ありがとうございました」

「あの、1つお伺いしても?」

 私が頭を下げていると、その隣でソーマさんがロイに問いかけた。ロイは無言で頷いた。

「あなたはレイラさんをどうするおつもりですか?」

 その言葉に私とフィアは目を剥いた。少なくとも本人に直接聞くようなことではない。

 しかし、私とフィアの心配をよそにロイがふわりと笑った。

「レイラ様は、大切な人です。……いえ、正確には大切だった人の娘です。全力でお守りします」

 その柔らかくなった表情と口調が本来の彼なのだろう。私は心配事が1つきれいに消えた気がした。

「それが聞ければ十分です。不躾なことを聞き、申し訳ありませんでした」

 ソーマさんの表情もどこか晴々としている。それほどソーマさんにとっても心配だったのだろう。

「それでは、これで本当に失礼します」

 私たち3人はもう一度丁寧に頭を下げると、今度こそ南へ足を向けた。




 それから私たちはほぼ走りっぱなしだった。途中まだ幼いフィアを私とソーマさんで代わる代わる背負って走ったりもしたが、そのとき以外は特に速度を落とすこともしなかった。

 そうして私たちが"白ネコ族"の集落がある森の手前まで来たのは、"斑ネコ族"の集落を出てから1日半が過ぎるころだった。

「ようやくね。ここまでくれば明日中には適地よ。今日は体を休めましょう」

 私の言葉に2人は特に反対することもなく、野宿の準備を始めた。

 1日半ほぼ走りっぱなしだったというのに、ソーマさんもフィアも動きに淀みはない。化け物だな、と自分のことは棚に上げて思う。

 腹ごしらえ済ませたころには月が昇っていた。昨日までの曇天が嘘のように空は澄み渡っている。丸々とした月が気持ち悪いほど明るくくっきりと見える。知らず知らずのうちに私の眉間にはしわが刻まれていたらしく、フィアが心配そうな顔をした。

「カランさん、大丈夫ー?」

「平気よ。……ただ、嫌なことを思い出しただけ」

 月を見て思い出すのは家族を引き裂いた存在。今はもう亡きルーパスのことだ。私は頭を軽く振って嫌な記憶を追いだした。

 その時、すっと背中を冷たいものが通ったような心地がした。頭の中で警鐘が鳴り響く。

「2人とも、体は休められた?」

 私の問いに2人は戸惑いながらも頷いた。

「行きましょう。嫌な予感がする」

 突然変わった私の顔色に2人は何かを感じたらしく、手早く片付けをして立ち上がった。




 3人の中で唯一絶対的な視覚をもつ私が月の光も届かない森の中を、ソーマさんとフィアの手を引きながらゆっくりと歩いていた。私の直感が何故か月に照らされしっかりとした道よりも、視界も悪く足場も不安定な道なき道を進むことを選んだ。

 森の中を進み、もと来た道も分からなくなるほど遠くまで歩いたころ、私の眼が何かを捉えた。

 そこは鬱蒼とした森に囲まれながらも、月に照らされて明るい開けた場所だった。人影は見えない。

 私たちは吸い寄せられるようにその場所に近づいた。

「待っていましたわ、みなさま」

 広場まで目算50mといったところまで近づいたころ、唐突に声をかけられた。

 私たちははっとして立ち止った。その時ようやく、広場に横たわる影を認めることが出来た。普段の私たちならありえない。

 声の主はくすくすと笑いながら身を起こした。

「随分と遅いご到着でしたのね。わたくし、待ちくたびれて眠ってしまいましたわ」

「リノ……」

 私たちが追ってきた少女は、今目の前でわざとらしくあくびをしたりしている。そんな無防備な姿であったのに、私たちは誰も動くことが出来なかった。

「……つまらない。せっかくお兄様がこんなに動けるようにしてくださいましたのに」

 リノは唐突に動きを止めてそう呟くと、私たちに顔を向けた。

「もうすぐお兄様来る予定ですの。それまで一緒に遊びませんこと?」

 まるでリノのその言葉で動くことを許されたかのように、足が自分の意思で動いた。

 私たちはゆっくりとまた歩を進め、広場の手前で足を止めた。強烈な嫌悪感がその先へ進むことを拒絶した。両隣をみると、どうやらそれはソーマさんやフィアも同じらしい。2人とも顔を顰めていた。

「つまらない。つまりませんわ。ようやく、手に入れましたのに」

 ずっと虫唾が走るような愛らしい笑みを浮かべていたリノから表情がすっかりと抜け落ちたころ、その戸惑ったような声は背後からかけられた。


「リノ……?」





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