第2の故郷
意外とリア君が好評だったので再登場します。相変わらず師匠にいじめられています。
「ただいま~! リア、元気にしてた?」
「師匠!? お帰りなさい!」
まるで子犬のように駆け寄ってきたのは稽古場を任せているリアだ。"白ネコ族"特有の白い尻尾をパタパタと元気よく振っている。こいつは生まれる種族を間違えたらしい。
「今回はわりと早かったですね。これから稽古つけてくれるんですか」
「う~ん、それがね、またこれからすぐに出かけなきゃいけないのよ。今回はマジで長期になるから一回顔見せに戻ってきたというわけ」
「そんなぁ……。僕またお留守番ですかぁ?」
いつもはピンと元気よく立っているリアの耳がしおれた。
「そんなこと言ってもね、リア以外に師範代任せられる奴いないし。じゃあ、頑張ってね♪」
にっこり笑って肩をポンと叩くと、リアはその場にしゃがみこんで地面にのの字を書き始めた。可愛いからそのままにしておこう。
「よし、お前ら! 久々に私が稽古つけてあげるわ。順番に並びなさい」
稽古場の奥のほうでそれぞれ稽古していた少年少女たちが一斉に駆け寄ってきた。
「今日は師匠が稽古つけてくれるんですか!? 僕が一番!」
私が、僕がと騒ぎ立てる子どもたちを眺めまわしてすっと深く息を吸う。
「順番!! 全員相手してあげるから、一人ずつ並びなさい!」
今度は素直に返事して一列に並ぶ子どもたち。先頭の少年が一歩前に出てお願いします、と頭を下げる。
「あら、入ってきた時よりもずっと礼儀正しくなってるじゃない」
「リア師範代は礼儀にだけは厳しいですから」
なるほど、あいつのおかげか。私が教えるよりもずっといい。
「リアも、何で私に習ってあんなに礼儀正しくなれたのかしら。奇跡としか言いようがないわね」
実際私が直接教えた奴らはリアを除く全員が礼儀もくそもない好戦家だ。まあ、リアも訓練だけなら組み手とかを嬉々としてやるのだが。礼儀関係も教えた記憶がない。
向かってくる子どもたちに足払いをかけながらそんなことを考える。体制を崩した子どもたちを片っ端から投げ飛ばす。もちろん加減してだが。
「って、ちょっとあんたたち! 一人ずつって言ったでしょ!?」
稽古場はもう乱戦状態だ。背後からも誰かが近づいてくるのが分かった。
「甘いわよ、リア!」
背後から近づいてきたリアの腕をとって投げとばす。
「ちぇ、ばれましたか。さすが師匠です」
結構本気で投げたのに平然と受け身をとって即座に立ちあがるリア。
「あんた、また強くなったわね。師匠として嬉しいかぎりだわ」
「光栄です!」
そう言っていきなりリアが飛びついてきた。反射で受け止めてしまった。すぐに周りの子供たちが師範代だけずるい! とかよく分からないこと言って一斉に飛びついてきた。
「お前らやめろ! 稽古にならないじゃない! つか真面目に私死ぬ!!」
5、60人の子どもたちに押しつぶされて思わず悲鳴を上げる。もうただのじゃれあいだ。
「あなたたちは何やってるんですか」
呆れた顔をして稽古場に入ってきたのは外で待っていたはずのミカゲだ。
「あ、ミカゲさん! お久しぶりです」
すぐにリアが反応してぴょこんと立ち上がる。そういえばこいつは一時期ここの稽古場に通っていたな。ちなみにリアの兄弟子。私が師範代にしようと思っていたら、やめていきやがった。だから実力は実質リアよりも上だ。私には到底かなわないがな!
「そろそろ出発しないと日暮れまでに隣の村に着きませんよ。まあ、夜の森で狼たちと乱戦しながら行きたいのなら別にかまいませんけどねぇ」
ミカゲが言う狼とは"狼族"のことだ。夜行性で私たち"ネコ族"とはあまり、というよりもかなり仲が悪い。夜の森をうろついていると必ずと言っていいほど襲われる。
「別に襲われても追い返すだけだから別にいいけど、面倒臭いわね。じゃ、私出発するわ」
まだ引っ付いている子どもたちを引き剝がしながら稽古場の外へと向かう。バイバイ師匠! とか言いながら手を振って見送ってくれる子どもたち。……いい子どもたちをもったわ、私。
ミカゲを伴って稽古場を出ると、誰かが服の裾を思いっきり掴んだ。突然のことにバランスを崩しかけながらもその掴んだ相手を睨みつける。
「どういうつもりかしら? リア」
「僕はダメなのに、ミカゲさんは連れて行くんですか?」
……ウルウルした目で上目遣いに見上げてくるのは反則だろう!? って、いかんいかん!可愛いからこそ今回は連れていっちゃダメだわ。
「ダメ。あんたにはあの子たちのこと守ってもらわなきゃいけないんだから。あいつらのこと頼むわよ」
最後に頭をポンポンと撫でて今度こそリアに背を向ける。
「……………(あいつ付いてくるな)」
「……いい加減出てきたら? いるんでしょ、リア」
稽古場を後にしてかなりのスピードで歩く(いや、あれは走るだ! byミカゲ)こと3時間。足も止めず、振り向きもせずに背後に声をかけた。
「……いつから気づいてたんですか?」
「あんたが私たちに追いついたころから」
「……最初からですか」
隠れることをあきらめたのか、消していた気配を元に戻してリアは私たちに近づいてきた。
「子どもたちはどうしたの?」
「トーマさんに任せてきました。師匠たちが戻ってくるちょっと前に、フラッと帰ってきてそのまま奥で寝てたんですよ」
「あいつ、帰ってきたの」
トーマとは私の弟子の一人で、確か最年長のはずである。実力は、私が一番最初に師範代に任命した男だから十分すぎるほどある。
「ま、あいつが帰ってきてるなら心配ないか。帰ってきたときに文句を言われそうね」
トーマは何故かびっくりするほど私に似ていて、一人放浪の旅をするのが好きなのだ。でも、責任感は強いほうだから、子どもたちを放ってどこかへ行ってしまうことはないだろう。
「……帰りにトーマの好きな魚でも持って帰ってあげるか」
トーマ→冬馬
です。ちなみに、16歳の"虎ネコ族"です。
そのほかのキャラをまとめてみると、
師匠→17歳
リア→12歳
ミカゲ→14歳
リュウセイ→20歳
です。種族は小説の中で説明したとおりになります。