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気ままに。  作者: 咲坂 美織
種族戦争編
36/48

近道

しばらくぶりです。美織です。

今回からトーマ君の故郷のお話になります。

「血を、集めている……?」

「しかも族長の、よ」

 リアが全種族に宣戦布告した理由。それは、表向きには人数の増加に伴う領土の拡大、食料の確保となっているけど裏の目的、要するに真の目的は……。

「各部族の族長一族はもっとも古の時代の血を濃く受け継ぐ。その血は他の者とは比べ物にならないくらい大きな力を持つらしい。何に使うのかは知らないけど……」

「……以前、こんな話を聞いたことがあります」

 ミカゲが躊躇いがちに話し始めた。

「南の森に伝わる伝承ですが、血を飲んだ時に咲く花があるらしいです。その花は吸った血によって不思議な力を持つこともあると伝えられています」

「リアはその花を……? 何のために……」

「まだそうと決まったわけではありませんが」

 血によって力を持つ花か……。確かにそれもあるかも知れない。

「こうなったら直接リアに聞くしか……トーマ?」

 気がつくとトーマが地面に膝をついていた。前線ではなかったとはいえ、一応戦闘があった後だ。もしトーマに何かあったら……。

「すまない、師匠。大丈夫だ」

「大丈夫だ、ってお前、顔が蒼いぞ」

「トーマさん、もしかして……」

「ああ。俺等のところにリアが現れたらしい。こんなときで悪いけど言ってきてもいいか? 師匠」

「行ってきてもいいも何も、当り前じゃない。というか私も行く」

「師匠も?」

 何故そこで驚いた顔をする。仲間を大切にするのは当り前だろう。仲間を助けにいく必要があるのなら、そこに私が止める理由はない。

「……何? 私が一緒に行くのが不満なの?」

「いや、師匠は最前線にいたのに大丈夫なのかと……」

「んなことあんたに心配される筋合いはないわよ。それに、私も少し気になることがあるし……」

「じゃあ僕も一緒に……」

「あんたはダメ。チビ達を頼むわよ」

 ミカゲは少し不満そうな顔をしたが、特に何も言わずに引き下がった。……こいつ、妙なところで聞き分けがいいんだよな。なんか調子狂う……。

「カランさん、フィア達はー?」

「フィアは私たちに、フィイはミカゲについてね。それぞれしっかりサポート頼むわよ」

「了解ー」

 ついでにそこらへんでとりあえず動けそうな奴に簡単な指示を出す。まあ、これくらいやっておけばあとは副族長さんが何とかしてくれるだろう。

「よし、私たちは出発するわよ」

「了解! 準備はいつでも」

 自分の周りをざっと確認して必要なことはないか確認する。よし。とりあえずは大丈夫そうだ。

「先頭はトーマに任せていいわね。私の体力は気にしなくていいから、思いっきりとばしていいわよ」

「んじゃ、遠慮なく」

 そういうなり唐突にトーマは走り出した。まあ、唐突にとは言っても余裕で追いつくけどね。

「師匠……戦闘終えたばっかり、だよな?」

「そうだけど、何か?」

「化けも……いや、今さらか。何でもない」

 今、何かすごく失礼なこと言われたような気がしたけど……。

 私がジトッとした目でトーマを見ると、さっとトーマに目を逸らされた。

「師匠、そこ左に曲がるよ」

「左? まっすぐじゃなかったっけ?」

「正式なルートはね。でもそっちのが近道だから。うちの一族はみんなそっち使ってる」

「ふーん。……って、そこ入るの!?」

 よく見るとトーマが倒れた木の下に潜り込んでいた。よく見ると微妙に土が掘り下げられている。よくもまあ、こんな道を……。

「こっから先はマジで迷子になるからしっかりついてこいよ」

「あんたたちは一体どんな道を使ってるのよ……」

「どんなって……歩けるようになったら親に連れていかれて徹底的に覚えこませられる道。ちなみにそれでも遭難者出るけどな。命にかかわるから親は必死で教えるわけよ」

「命がけの道って……」

 隣を見るとフィアの顔も若干青ざめている。

「というわけだから、しっかりついてこいよ」

「……というか、そんな道通らせるんじゃねえ!!」

 あら、私としたことが。ついつい汚い口が……。

「あ、師匠、そこはダミー」

「ダミーとかあんの!?」

「フィア! そこには罠が……」

「ヒイ!!」

 ホントにこっちが近道なのか!? こっちのが明らかに時間かかるような気がするぞ。

「こっちの道はホントに近道になるから敵対策にいろいろ仕掛けがあるんだよ。もうちょっとで……ほら、着いた」

「え、嘘、早すぎじゃない!?」

 "黒ネコ族"の森から"虎ネコ族"の森までだいたい私が一人で走って5日かかる。それがたかだか1時間くらい、しかもほとんど走ってないのに。

「俺たちの一族は自然に愛されているからな。森の中を走っていると自然に助けてくれるみたいだ」

 いや、それはもう愛されているレベルじゃないでしょ。

「結果的に早く着けばいいんだよ。ほら、行くぞ」

 何か釈然としないものがあるが、まあ、いい。今はそんなこと考えている暇はない。わけが分からなくても便利なものは利用したおすまでだ。

「カランさん、トーマさん。あれー!」

「フィアどうしたの……って、あれ」

「………………」

 フィアが指差したのは"虎ネコ族"の集落がある方向。そこからは濃い煙が立ち上っていた。

「あいつ、森を焼き払うつもりか。この森を焼き払ったら"虎ネコ族"は……」

「師匠、悪い。俺先に行ってる」

 トーマが駆け出した。いくら自分のことを捨てた故郷だとしてもやはり心配なのだろう。

「私たちも早く行こう」

「はいです!」

 私たちもトーマのあとを追って煙が立ち上る方へ駆け出した。

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