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気ままに。  作者: 咲坂 美織
種族戦争編
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 私は急かす兄様をに肩を貸しながら歩き出した。ホントは抱えて行こうと思ったのだが、体の大きさ的に抱えることが出来なかったのだ。こんな時、小さい自分の身体が嫌になる。あ、いや、平均的に見たら高いほうなんだろうけど、兄様もずば抜けて高いからな。

「カランさん!? 一体どうしたんですか!?」

「か!?」

 集落の入り口付近まで戻ると、敵が引いたので怪我人の手当てに回っていたらしいフィアとフィイが私に肩を貸されてやっと歩いている状態の兄様を見て慌てて駆け寄ってきた。

「大丈夫だ。ちょっと出血が多くて……」

「ちょっとじゃないでしょ!!」

 とりあえず私が応急手当として縛っていた布を外し、新しい布できちんと縛りなおした。相変わらず兄様の顔は白いままだ。

「族長!? いかがなさったのですか」

「大したことはない。それよりも緊急会議を開く。だがその前に怪我人の手当てを急ぎたい。動けるものみんなで怪我人を広場まで運んでくれ」

「分かりました」

 裏側から戻ってきた副族長たちは、まだ心配そうな顔をしていたが兄様に言われた通り次々と指示を出し始めた。兄様って信頼されてるんだね。

「フィア、疲れてるところ悪いが、洞窟にいるトーマ達を呼んできてくれないか。全員だ」

「分かりました」

 フィアは疲れた様子を微塵も見せず、すぐさま駆けだした。残された私とフィイは、とりあえず兄様を広場まで連れていくことにした。

「フィイ、先に行って怪我人の様子を見てきてくれる? たぶん、兄様は私一人で大丈夫だから」

「分かりました。怪我人は任せてくださいー」

 フィイは手当てがうまい。ルーパスと戦った時もそうだったが、止血だって、包帯を巻くのだって、もしかしたらあたしよりも上手いかもしれない。まあ、手当てがどうしてああも上手くなったのかその経緯を知りたいとは思わないが。

「兄様、大丈夫?」

「……ああ」

 ……不味い。私は直感的にそう思った。兄様の反応が鈍くなってきている。これは急がないと取り返しのつかないことになる。

「副族長!」

「何でしょう」

「今すぐ寝床を用意してください。今すぐに兄様を休ませます」

「しかし……」

「兄様の命令とは違う、と? このままでは兄様が死にますよ」

 死ぬ。その単語にハッとしたのか、副族長の顔つきが変わった。まあ、この経験豊富な副族長なら何とかなると思ってたけどね。

「……カラン、俺は大丈夫だから……」

「そんな血の気の無い顔で言われても信じられません。とにかく今はしっかり休んでください」

 抗議の声をあげた兄様を一喝して私は兄様を担ぎあげた。手を貸してくれようとする副族長たちの手を断って私一人で運ぶ。

「師匠終わったんです……か、ってリュウセイさん!?」

 副族長が先導してくれた建物の前あたりでフィアが呼びに行ってくれたトーマ達と合流した。今まで見たことがないほどやられている兄様の様子を見てミカゲが駆け寄ってきた。

「あんたたちは先に広場に行ってて。怪我人が集められてるはずだから手当てを手伝ってあげて。先にフィイが行ってるはずよ」

「分かった。フィイは先にこちらによこす。それでいいな、師匠」

「助かる」

 手短に用件を伝えてトーマ達を行かせる。ミカゲはよっぽど兄様の様子が気になるのか何度もこちらを振り返っていた。ミカゲは兄様によく懐いてるもんな。仕方がないか。

 トーマ達が行ったのを確認して建物の中に入る。中に用意された布団に兄様を寝かせ、毛布をかける。

「カラン、耳貸せ。もうそんなに大きな声を出せん」

 寝かせた兄様に引き寄せられて、口元に耳を寄せる。

「……兄様、それ、本当ですか」

「ああ。カラン、後は頼む」

 兄様がゆっくりと目を閉じる。私が寝息が一定になるのを確認して、私は建物の外に出る。

「カラン様。族長の様子は」

「まだ何とも言えないけど、とりあえずは寝ました。誰かそばにつけておいてくれるとありがたいです」

「かしこまりました」

 あとは副族長に任せておけば安心だろう。気が緩みそうになって私は自分に喝を入れ直す。私にはもう一仕事残っている。




「師匠、リュウセイさんの様子は」

「たぶん大丈夫よ。とりあえず今は私たちにできることをするわよ」

 私が広場に行くと、身体を起していられる者は上体を起こし、起こせない者は寝たまま、皆私のことを待っていた。私が兄様の容体を告げると、皆ほっとした表情になった。やっぱり凄いや、兄様は。

「師匠、とりあえず今の状況を教えていただけませんか。僕たち、洞窟付近にいたので全く状況が掴めないのですが」

「そうね。けどその前に私たちの状況を把握しておきたいわ。副族長、被害の状況を報告してもらえますか?」

「はい。現在確認中ですが、未だ死人の報告は上がっていません。建物は入り口付近の建物が数棟倒壊。今のところ報告された被害はそのくらいです」

「ありがとう。トーマ、洞窟の様子は?」

「洞窟に到達した敵は今んとこ0。気付かれた様子もなし。途中で具合が悪くなった奴もいない」

「分かったわ」

 私は上がった報告の内容を頭の中でまとめる。後で兄様に報告するためだ。と同時に、先程兄様から告げられたことをどのように伝えるか考える。そのまま言うのは憚られる。

「みんな、ちょっと聞いてほしいんだけど……」

 私は悩みながら、口を開いた。

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