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気ままに。  作者: 咲坂 美織
神狼編
20/48

いじる

相変わらず、リア君はいじられています。いじる人は増える一方です。

愛ゆえにみんないじってるんです。

 翌朝、早速私たちはトーマも加えて早朝稽古にいそしんでいた。ちなみに今日の組み合わせは、私とフィア、トーマとフィイ、ミカゲとリアだ。

「そ。そこそこ。んでもって身体回したらこっちから」

「はい!」

 流石、というべきか、基本的どころか応用編までかなり出来上がっているフィイ相手に、細かい指摘をしながらも全て受け流すかかわしているトーマ。もちろん、わざと受けているのはフィイが体勢を崩さないようにするためだ。自分のダメージが最小限になるようにうまく受け流している。流石、私の1番弟子ね。

「そこで、膝を伸ばさない!」

「はう!」

 とか言う私も指摘しつつ、かわしたり受け流したり。ついでに余所見までしている。流石は師匠?

「リア、いい加減僕に一発でも当ててください」

「う~、じゃあ動かないでくださいよ~!」

 情けない声が聞こえてきたと思ったら、リアだった。リアはかなりの速さで身体を動かしているのだが、なにせ相手はミカゲだ。未だに攻撃の一つも当てられないでいる。空振りしてもたいして体勢を崩さないのは流石というべきか?

「ふわあぁ」

 とうとうミカゲが欠伸しだした。両手を頭の後ろで組んでいかにもつまらなそうだ。しかし全て攻撃はかわしている。そんなミカゲを前に、リアはもう涙目になっていた。

「リア! あんた師範代でしょ! ミカゲに一発くらい当てられなくてどうすんの。ミカゲが稽古で欠伸するなんて、そうそうないわよ!」

「そんな、師匠、僕だって頑張ってるんですって!」

「トーマさん、相手交換しませんか? 僕がフィイの相手しますよ」

「ミカゲさん!?」

「おお、いいぞ。リアの相手なんて久しぶりだな!」

「トーマさんまで!?」

 リアのプライドは粉々に打ち砕かれたようだが、そんなの気にする2人ではない。諦めろ、リア。

「さて、久々だからなぁ。たっぷりしごいてやる」

「トーマさんのしごきは半端ないんですからね! そこ、自覚してます!?」

「師匠のしごきに比べたらマシだろ? さてと、どっからでもいいぞ」

「あら、私と比べたらマシ、とはどういうことかしら? ねぇ、リア?」

「そこ、僕に聞くんですか!?」

 そろそろ本気で泣きだしそうになってきたので、いじるのはここまでにしとこう。あ、苛めてるんじゃないよ。愛ゆえにいじっているの。


 ――――――2分後。


「ほら、リア! 早く俺に当ててみろよ!」

「結局相手が変わっても一緒じゃないですか!! というかレベル上がってますから!!」

 やっぱりトーマに全てかわされていた。ついでに言うと、トーマは頭の後ろで腕を組み、時折ミカゲが相手をしているフィイにアドバイスをしている。当然、リアのほうは見ていない。

「あんた器用ね……」

「感心するとこ、そこですか!?」

「私なら目瞑っててもかわせるわよ、あんたくらい」

「僕もう泣いていいですよね!?」




 宿の朝食の時間が迫ってきたので、稽古のお開きを宣言すると、年下3人組はその場にへたり込んだ。もちろん、私たち年上組は息ひとつ乱してはいない。

「お疲れ様。朝食の前に身体も拭いておきなさい。ちゃんと着替えもするのよ」

「「はーい」」

 双子は私の言葉にそろっていいお返事を返してくれた。リアはというと、小さく手を挙げて、質問、といった。

「何で師匠たちは僕の攻撃を全て楽々とかわせるんですか?」

「そんなの自分で考えなさい」

 私の即答にリアがあからさまにがっかりした顔をする。そもそも私がそう簡単に教えると思ったか。しかし、先輩2人はいくらなんでも可哀想だと思ったのか、丁寧に答えてやることにしたようだ。

「お前は、気配が強すぎんだよ」

「気配、ですか?」

「そうです。リアは気配を殺す、というようなことはしてないでしょう? 気配というのは、そうですね……」

 ミカゲは急に言葉を切ったかと思えば、いきなり私に回し蹴りをしてきた。私は少々驚きながらも難なくかわす。

「あら、はずしましたか。まあ、貴女ならかわすと思いましたけど。リアは今、僕が攻撃しようとしたことは感じ取れましたか?」

「……全く」

「このように、相手に攻撃するという意思、動きを悟られないようにすることを気配を絶つ、殺す、といいます」

「なるほど」

「で、お前はこれから攻撃します、っていう気配がだだもれなんだよ。これじゃ、これからここに攻撃するのでかわしてください、って言ってるのと同じだぞ」

「そうだったんですか……」

 自分の弱点が分かって満足したのか、リアは気配を絶つ、気配を絶つ、と繰り返しブツブツとつぶやきながら、宿に入っていった。あ、いいこと思いついた。

 私は自分の気配を絶つと、リアの後をそっと追った。私が何をしようとしているのか気がついたのか、トーマとミカゲが呆れたような視線をよこすが、無視。

 リアに追いつくと、気配を絶ったままリアの肩を叩く。

「気配を絶つっていうのは、こうするのよ」

「ふぎゃう!?」

 相当驚いたのか、リアが変な声を上げた。その驚いた顔と声を聞けたから私は満足。いやー、面白かった♪

「師匠! ヒドイじゃないですか!!」

「私は気配の絶ち方を教えただけ。どう、分かった?」

「分かるわけないじゃないですか!!」

「あんたもまだまだねえ」

「師匠なんか、大っ嫌いだー!!」

 あ、とうとうリアが泣きながら走って逃げちゃった。いじりすぎたか? ……ご飯、大盛りにしてやるか。

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