いじる
相変わらず、リア君はいじられています。いじる人は増える一方です。
愛ゆえにみんないじってるんです。
翌朝、早速私たちはトーマも加えて早朝稽古にいそしんでいた。ちなみに今日の組み合わせは、私とフィア、トーマとフィイ、ミカゲとリアだ。
「そ。そこそこ。んでもって身体回したらこっちから」
「はい!」
流石、というべきか、基本的どころか応用編までかなり出来上がっているフィイ相手に、細かい指摘をしながらも全て受け流すかかわしているトーマ。もちろん、わざと受けているのはフィイが体勢を崩さないようにするためだ。自分のダメージが最小限になるようにうまく受け流している。流石、私の1番弟子ね。
「そこで、膝を伸ばさない!」
「はう!」
とか言う私も指摘しつつ、かわしたり受け流したり。ついでに余所見までしている。流石は師匠?
「リア、いい加減僕に一発でも当ててください」
「う~、じゃあ動かないでくださいよ~!」
情けない声が聞こえてきたと思ったら、リアだった。リアはかなりの速さで身体を動かしているのだが、なにせ相手はミカゲだ。未だに攻撃の一つも当てられないでいる。空振りしてもたいして体勢を崩さないのは流石というべきか?
「ふわあぁ」
とうとうミカゲが欠伸しだした。両手を頭の後ろで組んでいかにもつまらなそうだ。しかし全て攻撃はかわしている。そんなミカゲを前に、リアはもう涙目になっていた。
「リア! あんた師範代でしょ! ミカゲに一発くらい当てられなくてどうすんの。ミカゲが稽古で欠伸するなんて、そうそうないわよ!」
「そんな、師匠、僕だって頑張ってるんですって!」
「トーマさん、相手交換しませんか? 僕がフィイの相手しますよ」
「ミカゲさん!?」
「おお、いいぞ。リアの相手なんて久しぶりだな!」
「トーマさんまで!?」
リアのプライドは粉々に打ち砕かれたようだが、そんなの気にする2人ではない。諦めろ、リア。
「さて、久々だからなぁ。たっぷりしごいてやる」
「トーマさんのしごきは半端ないんですからね! そこ、自覚してます!?」
「師匠のしごきに比べたらマシだろ? さてと、どっからでもいいぞ」
「あら、私と比べたらマシ、とはどういうことかしら? ねぇ、リア?」
「そこ、僕に聞くんですか!?」
そろそろ本気で泣きだしそうになってきたので、いじるのはここまでにしとこう。あ、苛めてるんじゃないよ。愛ゆえにいじっているの。
――――――2分後。
「ほら、リア! 早く俺に当ててみろよ!」
「結局相手が変わっても一緒じゃないですか!! というかレベル上がってますから!!」
やっぱりトーマに全てかわされていた。ついでに言うと、トーマは頭の後ろで腕を組み、時折ミカゲが相手をしているフィイにアドバイスをしている。当然、リアのほうは見ていない。
「あんた器用ね……」
「感心するとこ、そこですか!?」
「私なら目瞑っててもかわせるわよ、あんたくらい」
「僕もう泣いていいですよね!?」
宿の朝食の時間が迫ってきたので、稽古のお開きを宣言すると、年下3人組はその場にへたり込んだ。もちろん、私たち年上組は息ひとつ乱してはいない。
「お疲れ様。朝食の前に身体も拭いておきなさい。ちゃんと着替えもするのよ」
「「はーい」」
双子は私の言葉にそろっていいお返事を返してくれた。リアはというと、小さく手を挙げて、質問、といった。
「何で師匠たちは僕の攻撃を全て楽々とかわせるんですか?」
「そんなの自分で考えなさい」
私の即答にリアがあからさまにがっかりした顔をする。そもそも私がそう簡単に教えると思ったか。しかし、先輩2人はいくらなんでも可哀想だと思ったのか、丁寧に答えてやることにしたようだ。
「お前は、気配が強すぎんだよ」
「気配、ですか?」
「そうです。リアは気配を殺す、というようなことはしてないでしょう? 気配というのは、そうですね……」
ミカゲは急に言葉を切ったかと思えば、いきなり私に回し蹴りをしてきた。私は少々驚きながらも難なくかわす。
「あら、はずしましたか。まあ、貴女ならかわすと思いましたけど。リアは今、僕が攻撃しようとしたことは感じ取れましたか?」
「……全く」
「このように、相手に攻撃するという意思、動きを悟られないようにすることを気配を絶つ、殺す、といいます」
「なるほど」
「で、お前はこれから攻撃します、っていう気配がだだもれなんだよ。これじゃ、これからここに攻撃するのでかわしてください、って言ってるのと同じだぞ」
「そうだったんですか……」
自分の弱点が分かって満足したのか、リアは気配を絶つ、気配を絶つ、と繰り返しブツブツとつぶやきながら、宿に入っていった。あ、いいこと思いついた。
私は自分の気配を絶つと、リアの後をそっと追った。私が何をしようとしているのか気がついたのか、トーマとミカゲが呆れたような視線をよこすが、無視。
リアに追いつくと、気配を絶ったままリアの肩を叩く。
「気配を絶つっていうのは、こうするのよ」
「ふぎゃう!?」
相当驚いたのか、リアが変な声を上げた。その驚いた顔と声を聞けたから私は満足。いやー、面白かった♪
「師匠! ヒドイじゃないですか!!」
「私は気配の絶ち方を教えただけ。どう、分かった?」
「分かるわけないじゃないですか!!」
「あんたもまだまだねえ」
「師匠なんか、大っ嫌いだー!!」
あ、とうとうリアが泣きながら走って逃げちゃった。いじりすぎたか? ……ご飯、大盛りにしてやるか。