懐かしい顔
あの人が再登場。懐かしい。懐かしすぎます。
……というか、本編では名前しか出てないんだよね。この人。作者が可哀想過ぎて番外編の主人公にしちゃうほど、出番が少ない。
思い立って、ここで再登場させてみました。
「よお、師匠! 久しぶりだな!」
「な、あんた、何でここに来てるのよ!?」
宿屋に戻って一番最初に見たのは、図々しくも私のベッドに寝そべり、片手をあげて挨拶してくる"虎ネコ族"の少年、トーマだった。
私はトーマをジトっとした目で見つめると、あろうことか本人は笑いながら私に話しかけてきた。
「何だ、道場の奴らが心配か?」
「当たり前じゃない! あんたが面倒見てたんじゃないの!?」
「うん、まあ、そうだったんだが。いろいろあってな……」
「そうなんです、師匠! トーマさんったら木とか石とかが言伝に師匠が危ないって聞いていてもたってもいられなくてここまで来たそうですよ」
「とは言っても、ちょっと遅かったみたいだけどな」
「んなことどうでもいいわ! 私って、そんなに信用ないかしら?」
トーマはちょっと困ったように考えてから、また口を開いた。
「信用というか、師匠って妙なところで自分の中に溜めこんじゃうから心配というか……」
酷い言われようである。私は一応自分の中で抱え込み過ぎないようにときどき息抜きもしているというのに。
「んなことあんたたちに心配される筋合いはないわよ。それよか道場の子供たちのほうがよっぽど心配だわ」
「それこそ心配される筋合いはねーよ。あいつら、師匠が思ってるほど柔じゃねーぞ」
そんなこと分かっている。私とこいつらが育てたんだから。戦闘能力、生活能力、全てにおいて信頼はしている。ただ、子供を置いていく母親の気持ちというのだろうか、信頼と心配はまた別のものだ。
「……なんてことあんたらに言っても分からないんだろうな」
トーマだけでなくミカゲとリアまで頭の上にはてなマークを浮かべている。
「ま、これを機会に子離れするか……。ホントに大丈夫なんでしょうね?」
トーマをジトっとした目で見る。トーマは当然とでもいうような顔で答える。
「そもそも師匠は心配し過ぎなんだよ。俺は当然として、ミカゲやリアを始めとしてあいつらを見てれば分かるこったろう。ホントは師匠が一番分かってんだろ?」
「そこで何故あんたが当然なのか気になるけど、まあいいわ。確かに私が連れていった子たちだしね。分かったわ」
私は手を挙げて降参のポーズを作る。それを満足そうに見ているトーマ。ふと外野が静かになっているのに気がついて、周りを見回す。そこにいたのは目をキラキラと輝かせているリアと、興味を失くしたのか、空いてるベッドに横になっているミカゲだった。
「すごいです、トーマさん! 師匠にそこまで言えるなんて! 尊敬です!」
と、目を輝かせているリア君。尊敬するのはそこか!?
「いや4年以上もつきあってればこうなるって。師匠に何か言いたいことがあれば遠慮なく俺に言え。俺から師匠に言ってやる」
「調子に乗るな、このバカ!」
私に頭をはたかれるトーマ。これは当然の結果だと思う。
「痛え! 痛えよ、師匠! 冗談とか抜きで。本気で痛いっす!」
「当然だ。6割くらいの力で殴ったからな。これ以上力いれると骨にひびが入ると思うが、試してみるか?」
「遠慮します!」
私たちがぎゃいぎゃい騒いでいると、部屋の隅のベッドからだるそうな声が聞こえてきた。
「煩い。静かにしてください。他のお客様にも迷惑です」
「なんだよお、ミカゲ。久しぶりなのにつれないじゃないか。お前もこっち来て混ざれよ」
「何で僕がトーマさんたちと騒がなきゃいけないんですか。迷惑です」
「何だよ。昔はもっと可愛げがあったのにな。おーい、リア、俺と遊ぼーぜ」
「嫌です。トーマさんの遊びって、稽古じゃないですか。トーマさんの相手は嫌です」
みんなに振られて一人しょげているトーマ君。不覚にも笑ってしまった。
「何なら私が遊んでやろうか? 久々に」
「え、師匠と……?」
「何よ、その顔。嫌なら別にいいわよ。帰ってからたっぷりと遊んであげるから」
「それも嫌!!」
何やら一人真剣に考え込んでいるトーマ。今しごかれるのも帰ってからしごかれるのも嫌だな……とか何とかブツブツ言っているが、無視。
「ま、今日はもうだいぶ疲れたしな。明日遊んでやる。お前に相手させてやりたい奴もいるしね……」
そこで私は部屋を見渡した。そこでふとあることに気がつく。
「リア、ミカゲ。フィアとフィイは?」
「2人は今隣の部屋です。貴女が帰ってくる前に眠ってしまったので。貴女が帰ったら起こしてほしいと言ってましたよ。一応2人をバラバラの部屋に寝かせるのはどうかと思ったので、一緒に寝せておきました」
ミカゲがそこまで言ったところで、部屋のドアが開く。そこからちょこんと顔を覗かせたのは、私がちょうど探していた顔。
「あ、セーラさんだ!」
「だ!」
そう言うなり、2人は私の元に駆け寄ってきた。その様子の何とも可愛らしいこと。傍にいたリアに目をやると、逸らされた。あんたに期待はするなということか。
「こいつが私の1番弟子、トーマよ。こっちは見れば分かると思うけど、狼族の双子、姉のフィアと弟のフィイよ」
「よろしくな」
「よろしくお願いしますー」
「すー」
3人は和やかに握手を交わす。互いに手を離したところで私はまた口を開く。
「あんたに稽古の相手をさせたいのはこの子たち。どう、見た目では?」
「どうって……。この子たち、稽古できるのか? 師匠が俺に相手させたいと言うからには相当な腕なんだろうけど」
「この子たち、こう見えてもリアと同い年よ。腕もリアと同じかそれ以上。リア、あんたもうかうかしてると抜かれるわよ」
「そこで僕に話が飛ぶんですか!?」
こうして、私の帰還は和やかに歓迎されたのだった。