素直な気持ち
たぶんこの辺で折り返し地点かな、なんて思ってます。
師匠たちは何処まで行くんでしょうかね。
「遅いわよ、リア」
結局リアが街に着いたのは日も暮れかかったころだった。手を膝について肩を大きく上下させ、必死に息を整えているリアは、顔を上げるのもしんどいらしく下に向けたまま反論した。
「し、師匠たちが早すぎるんですよ。何時着いたんですか」
「そうね~、お昼ごろかしら」
「早っ!?」
リアが一瞬呼吸するのも忘れて驚きの声を上げた。当然、直後にむせたように咳を繰り返す。息乱したまま呼吸止めて声上げるからだぞ。
「大丈夫ですか? ちゃんと持久力つけなきゃだめですよ」
腹を抱えて笑っているだけの私とは違って、黒いのはリアの背中をさすってやりながら言う。
「うぅ、頑張ります……」
「……何よ、リア。黒いのが相手だと随分と素直じゃない」
「人柄、の問題でしょうか?」
「黒いのは黙ってなさい!!」
睨みつける私と平然とその視線を受ける黒いの。
「喧嘩はダメですー」
「すー」
と双子に割り込まれた。とたんに私の相好は崩れる。こんな可愛い子たちを間に挟んで喧嘩なんかできるわけないじゃない。
「……貴女は相変わらず子供好きですねぇ」
黒いのにため息をつかれるが無視。可愛いものは可愛いのだ!
「とりあえず、リアが来る前に黒いのが宿見つけてくれたから、そっちに移動しましょう。入口で騒いで悪目立ちするのもあんまり良くないしね」
というわけで、私たちは一斉にぞろぞろと宿屋へと移動する。そのほうが目立つって? そんなの知らないわよ。
黒いのが見つけてきた宿屋はそこそこ大きくて、さまざまなネコが入り乱れている。
一番の魅力はその庭で、かなりの大きさを有している。これだけの広さがあれば、早朝でも他のネコにあんまり迷惑をかけずにチビたちの修行ができるわ。
双子は着いた途端、目を輝かせて庭へと走り去って行った。それを微笑ましげな顔で見送る3人。
「あら、リアは一緒に行かなくていいの?」
「こんなときだけ同じ年齢で扱うのはやめてください!!」
「遠慮しなくてもいいんですよ、リア。そのためにこの宿を探したんですから」
「ミカゲさんまで!?」
すっかり落ち込んでしまったリアをその場に置いて、私たちは宿屋の中へと入って行く。
入口のところでふと思いたって、振り返る。
「リア~、双子の面倒よろしくね!」
「えー!?」
さらに拗ねてしまったリアを黒いのと2人でニヤニヤしながら眺める。お前も相変わらず意地が悪いな。
宿屋に入り、黒いのが確保した庭に面した部屋へ移動する。窓を開けて外の様子をうかがうと、ちょうど双子がリアに駆け寄って行くところが見えた。
何だかんだ言って、リアも同い年の子供が旅に加わって嬉しいのだろう、笑顔で双子を迎えていた。
「目の保養だわ~」
「貴女は何を気持ちの悪いこと言っているんですか」
「気持ち悪いとは失礼ね。事実じゃない」
「………………(ハァ)」
何か思いっきり軽蔑の目を向けられたけど、気にしない。私は強い子!
「とりあえず、今後のことだけ確認しましょうか」
黒いのが私の正面に回り込んで座った。その真剣な顔を見て私の表情も自然と引き締まる。
「とりあえず、報告を先に。リアが遅れた理由は貴女も分かっていますね?」
黒いのの問いかけに、私は即座に首を縦に振る。
いくら体力がないとはいえ、リアは私の弟子だ。半日近くも送れるわけがない。
ならなぜ遅れたのか。理由は簡単。襲われたのだ。
時間的には私たちがちょうど村に着いたころ。私の目にはばっちり見えていた。この目ってけっこう便利よね。
「多分そいつらが狼の第3部隊と考えていいでしょう。匂いではすでに村に第4部隊が紛れ込んでます」
「あいつもだいぶ本気ね。ここまでしつこいと逆にあきれるわ」
「で、あの3人はどうするんですか? まさか最後までは連れていきませんよね」
「……そのつもりだけど」
「貴女って人は……!」
思いっきり黒いのにため息をつかれた。
「貴女はあの人にリアたちを会わせるつもりですか!? あんな危険な人に!」
「落ちつけ、黒いの。会わせるとは言ってない。そのために黒いの、お前を連れてきてる」
「僕を? ……まさか!?」
「あいつには私1人で会いに行く。3人を頼んだわよ。リアもいるし、あんたと2人でなら私が戻るまで双子を守れるでしょ」
「それはダメです!」
めったに言葉を荒げるどころか興奮することが無い黒いのが、珍しく興奮している。というか初めてみたぞ。
「何のために僕が貴女についてきたと思ってるんですか。少しくらいは僕を頼ってください」
「十分頼ってるわよ。信頼してなきゃあの3人を任せるなんてできないわ」
まだ何かを言いたそうな黒いのを目で制して、私は視線を外に向ける。あの子は耳がいいから全部聞こえちゃったかな?
「東の森まではあと5日で行くわ。次の村で一緒にいるのは最後よ。その村であの子たちを守ってちょうだい」
黙っている黒いのの肩に手を伸ばし、ポンポンと軽く2回たたく。そして立ち上がると私は外に向かった。
「絶対に、帰ってきてください」
すれ違いざまに軽く服の裾を引っ張って、黒いのが小さく囁いた。
それに私は軽く微笑んで応えると、そのまま外に出た。
「当然よ」
たまには可愛いこともするのね、なんてことを考えながら、笑みを抑えきることができていない頬を手で押さえながら、私はチビたちを呼び戻すため、日も落ちてだいぶ暗くなった外へと足を踏み出した。
なんか、フラグたちました。
師匠は大丈夫なんでしょうかね。作者にも分かりません。
そろそろお兄さんのほうも本格的に動き出す頃でしょうか。