道の途中
年下組は可哀想です。
「そろそろいいかしらね」
そう言って私はフル回転させていた足をとめた。それにならってリアと黒いのも足を止める。
私はもちろん息ひとつ乱れていないが、黒いのとリアの息はかなり上がっていた。
「何よ、あんたたち。だらしないわね」
「ゼェ、ハァ……。貴女は相変わらず化け物ですね……。フゥ……」
黒いのの息はだいぶ整ってきたようだ。それに比べてリアは、
「ハァ、ハァ……。な、んで…フゥ、ふた、りは……平気、何ですか……」
「男の子のくせにだらしないわね。特にリアは誰も背負ってないでしょ」
「だからって、8時間連続走破って、……フゥ、ヒドイじゃないですか」
追手を振りきったのがだいたい午前3時くらいだから、今は日も高くまで昇り、もうすぐ昼時になる。
「ったく。帰ったらしごき直してやるわ」
「そんなぁ」
私は止めていた足をまた動かし始めた。いつまでもこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
「だいぶ息も整ったでしょ。行くわよ。早くしないと日暮れ前に村につかない」
「それもそうですねぇ。さ、リア、行きますよ」
「えっと、ミカゲ? 僕降りて自分で歩くよー?」
ミカゲの背中でたっぷりと眠っていたらしいフィイが元気いっぱいになったらしく、降りる降りると騒いでいる。
「だ、そうですよ。背中空くのでおんぶしてあげましょうか? リア」
「結構です!!」
明らかに楽しそうな顔をした黒いのと、顔を真っ赤にするリア。いちいちそんな反応をするからみんなに遊ばれるのだということにいい加減気づかないもんなのかな。
「フィイが降りるなら、フィアも降りますー」
フィアもそう言いだしたので、降ろしてやった。
地面に着地すると、フィアは私に向かって深く頭を下げた。
「セーラさん、ありがとう、でしたー」
「いいのよ、お礼なんて。それにフィアはすっごく軽かったから全然辛くなかったよ」
「でも、ありがとう、なんです。フィイもお礼言った?」
「ミカゲさん、ありがとうでした」
「僕もお礼なんて要りませんよ。年上としては当然のことですから」
「年上なら、当然、ですか……」
リアが珍しく拗ねている。1人だけそっぽ向いている。顔を90度とちょっとくらいひねって歩いてるのによく転ばないな。
「あ、っぶな」
あ、転びかけた。でもさすがの運動神経でリアは転ぶ直前に体勢を立て直した。さすが私が鍛えただけあって体のバランス感覚と反射神経は素晴らしいわね。
「リアの課題はあと体力かぁ。また追いかけまわす?」
「遠慮します。体力はしょうがないですよ。僕はまだ成長期ですから」
「あれ、僕がリアくらいのときはもう12時間連続走破とか余裕でしたよ」
「ああ、そうだったわね。黒いのは昔から武芸に関しては天才だったわ」
「まぁ、そうは言っても貴女に勝てたことなんて結局1度もありませんでしたけどね」
黒いのに関しては確かに私が教え始めたころからもう天才的だった。ほんの数カ月でトーマと並んでしまったほどだ。でもトーマもそこら辺にいるようなレベルではないので、黒いの相手に引けを取ったことは1度もないが。
「リアは帰ったら1日50キロ走ること。帰ればしばらく私も道場に入れると思うからチビたちの相手は私がするわ。……あ、トーマに任せてもいいのか。どっちにしろあんたは自分の修行に専念しなさい」
「5、50キロ……。分かりました」
今までリアは連続走破30キロまでしかしたことがない。いきなりハードルが上がってビビってるんだろう。
「なぁに、ビビってるの?」
「そ、そんなことないですよ」
「ね、セーラさん、道場ってなんですか?」
「かー?」
どうやら双子を放っておいて3人だけで盛り上がってしまったらしい。反省反省。
「道場っていうのはね、私が武道を教えてるところよ。こう見えても私、師匠なのよ」
自慢げに耳をぴくぴくと動かした。
双子は目をキラキラと輝かせて喰いついてきた。
「セーラさん、オシショー様なんですね!」
「強いんだー!」
「フィアたちも教わりたいですー!」
「すー!」
私はあごに手を添えて考える。確かに今は私たちが守ってあげられているけど、これから先ずっと守っていられるとは限らない。自分の身は自分で守れることにこしたことは無いだろう。
「分かったわ。これから先何が起こるか分からないし、自分の身くらい守れたほうがいいわよね」
「やったー!」
「たー!」
私の周りをぴょんぴょん跳ねながら喜びを表す2人。その2人をリアと黒いのの2人が微笑ましげに見ていた。……リア、お前は同い年だろう。
「そうね、でもあんまり時間はないし、村の外で教えるのは今はちょっと危険ね」
「なら、各村で一泊ずつして、1日ずつ教えればいいじゃないですか。1日は移動、もう1日は稽古。それでどうですか?」
「ナイスアイディアよ、黒いの。双子もそれでいい?」
「「らじゃーです!」」
双子が可愛らしくそろって敬礼する。
こうやって並べてみると、この双子がすっごく似ていることに気がつく。もしかしたら、フィアが髪切って短くなったらどちらがフィアでフィイなのか分からないかもしれない。
「そうと決まれば、次の村まで走るわよー!」
「え、また走るんですか!?」
情けない声を上げるリアは無視して私と黒いのはそれぞれフィアとフィイを抱き上げる。
2人で目配せしてほぼ同時に走り始める。
「そんな、ちょっと待ってくださいよ。ミカゲさん、師匠ったら!」
足は早いが持久力がないリア君は、結局1人だけ村に遅れて着きましたとさ。
誤字脱字、または文章の流れ的におかしい、前までと言葉遣い、呼び方が違う(今まで僕だったのに俺になっている)など、何か気づいた点がありましたら、お知らせください。
作者もたまに読み返して見つけ次第直していますが、1人じゃ限界があります(泣
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