ごめんなさい、どこかのあなた。
「神様みたいないい子でした」人間失格を読んだとき、この言葉は僕にとって絶望だった。
「なに……これ」「……」
状況の呑み込めないままに、何かやばいことが起きているのだろうという直感が作用して友希に覆いかぶさる。
「大丈夫、友希」口をぽかんと開けていた。当然だ、僕だって混乱の中で彼女を守るために動いただけなのだから。
「うん、大丈夫だよ介理」その返答に安心して立ち上がり後ろを振り向く。明かりのまぶしさに瞬きの回数が多くなる。そうしてやっと目をちゃんと開けると眼の前にはレンガの壁、石畳が広がっていた。床の上には、赤くて豪華そうなカーペットが引かれている。
狸に化かされたような表情でファンタジー小説の魔法使いのような恰好をした女性や何やら豪華な正装を着た男たち、いわゆるメイド服を着た女性たちがそこに立っていた。その中でも特に目を引くのは僕たちの眼の前に経っているローブを着た少女だ。
黒髪で、目には特徴的な赤い瞳を宿していたが何よりもあまりにも美しい容姿が僕の目を引きつける。少し幼さの残る表情と長い黒髪、赤い瞳がその少女を幻想的に彩っていて、まるで世界に愛されているのではないかと思うほどだ。
「友希、僕が話してみるよ」片手を横に突き出しながら、後ろを少し振り向きつぶやく。
僕は刺激を加えないよう、慎重に言葉を選びながら話しかける。
「すいません、あなた方は?」それでも彼らが困惑したような表情をしていたため、英語で話してみる。
「えっと、フーアーユー?、クッドユースピークイングリッシュ?」そんなこともつゆ知らず、目の前にいる女性は、声を出す。
「むてりあのるぴとlくれみあ」日本語でも英語でもない僕の知らない言語だ。
どうしようか悩んでいると友希が声を発する。
「えーと、それで私たちにどうしろと」ん?どういうことだ?
「友希、君には彼らが何て言ってるのかがわかるの?」平然と言葉を返す彼女に対して疑問をぶつける。
「逆に介理には分からないの?」本当に自然とそう思ったような表情だった。
もう一度、彼らの言葉を思い返してみたがまったくもって理解できない。友希は僕の表情を見て察するともう一度彼らに対して言葉を放った。
「彼には君たちの言葉が分からないんだ。」
さっきの反応から見るに友希は日本語をしゃべっていると思っているはず。それに、今も友希の言葉が日本語に聞こえる。これじゃあ、友希が異世界語をしゃべっているんじゃなくて僕が彼らの言葉を聞き取れないみたいじゃないか。そう考えると、彼らの言葉を受け取ってから脳で処理する段階で遮断しているんじゃないのか。もしかして、友希がおかしいんじゃなくて僕がおかしいのか?「どういうことっ、そんな身勝手な」友希の怒鳴る声に驚く。「どうしたの?」と質問する。「なんか、お姫様?が私たちを召喚?したらしくて、私たちはゆうしゃなんだって。でも言葉が話せないなんて言うのは前例がなかったらしくて解決策が分からないみたい」友希が自分の心を必死に落ち着けて僕に話しているのがわかる。
「ごめん介理、もう少し話してみる」友希はそのあと、彼らのほうに振り返り交渉を始めたようだった。
話し終えると僕らは部屋に通された。僕らへの配慮か管理しやすくするため分なのかからないが僕らは同じ部屋で過ごすことになった。
部屋に入ると、中央のソファに腰かける。すると、友希がこちらに椅子の方に近づき対面のソファではなく僕の座っている方の横に立つ。彼女は僕の横に腰を掛ける。
「ゆっ、友希!!」
「ゴメン介理、ちょっといい」
僕がその言葉に対して肯定の意思を込めた頷きを見せると、友希が肩を寄せてくる。
僕はそれに少し驚いたが、友希の顔を見てはっとする。その顔には一雫の涙が滴っていた。そうだ、いつも少し大人びて見えるけど友希は普通の女の子なのだ。知らない場所に突然こさせられて不安になってそれでも強がって、知ってる人の前では不安が現れて涙を流してしまう。そんな普通の女の子。そんな友希の顔を見て僕がやらなければならないと思った。友希を安心させてあげなくてはいけないと、もうこんな不安に怯えて涙なんか流すことのないように。こんな、今は言葉も喋ることができない僕だけれど、彼女に涙を流させてはいけないと強くそう思った。そう思いながら友希の顔を見つめると、彼女は眠っていた。安心した、そんな顔で。
その後、友希を部屋の横においてあるベッドに運び僕も寝ることにした。
朝、起きると僕は部屋のベランダに出てみることにした。昨日は夜だったからわからなかったがここからは城の中庭を見る事ができる。
城の中には兵士らしき格好の人たちが、訓練をしていた。
「介理、もう起きたのぉ」
後ろから声が聞こえる。友希の声だ。
「うん、なんか目が覚めちゃって」
むしろ、ここでぐっすり眠っていられる友希のほうがすごいと思う。
僕と友希だけの時間をノックの音が邪魔する。
「勇者様、謁見の間で王がお待ちです」
「わかりました」
小さめの声で返事をする。
しょうがないから、友希を起こすか。
ーーーーー
王、どんな人なのだろうか。昨日見た一団の一人ではあるのだろうが、つい友希に聞くのを忘れていた。
そんなこと考えながら謁見の間に入る。
謁見の間の真ん中で王を見上げる。王は明らかに偉そうなヒゲを蓄え、その目は品定めをするような目で僕らを見ている。その横にはこちらが無言の王を見つめていると王が口を開く。
「~~~~~~~~」
全く何を喋っているのかわからないが、友希の方を見ていると特に重要なことではないだろうことがわかった。
最後に王が何かを発すると後ろの大きな扉が開かれる。
友希が横の僕に向かって話しかけてくる。友希のいうところによると僕たちは僕たちを召喚したという魔法使いさんのところで身体検査を受けなきゃいけないらしい。今から、部屋を移動するということだった。
部屋につくと、あの時の美しい少女が立っていた。なるほど、この少女が僕たちを召喚した魔法使いというわけか。
少女がなにかを話はじめ、終わるとお辞儀をする。
ふと横を見ると、友希が口を開けて驚いていた。
「どうしたの、友希」
友希がジェスチャーをすると僕は耳を友希の方に向ける。
「彼女、今自己紹介をしたんだけど。格好からなんとなく魔法使いだってことはわかるよね」
「うん、それは」なんとなくだが、この国のお抱え魔法使いとかじゃないだろうか。
「彼女はね、この国の魔法使いでもあるんだけど、この国の王女でもあるんだって」
その言葉を聞いて僕は驚く。王女がそんな役目を担っていていいのだろうか。
僕たちが会話していると王女が話しかけてくる。
「あー、ごめんなさいはやくやっちゃいましょう」
王女は笑顔で僕たちに話しかけてくる。何を言っているのか僕にはわからなかったが、王女がどうしようもなく嬉しそうな顔をしているのだけはわかった。
友希が僕と王女の間に立って翻訳を通訳をしてくれる。
僕たちは椅子に座り、王女は正面に立つ。僕の胸の前に手を出しなにか言葉を発すると、そこから光が出る。
僕は驚いて飛び退きそうになったけれど、王女の顔を見てみるとそれは普通のことのようだった。
だが、それに気づいても僕の驚愕の顔を隠すことはできない。
王女は僕のその顔を見てなにか察したのだろう。顔には申し訳なさがにじみ出ている。
「ごめんなさい、勇者様方は魔法のない世界から来たんですよね。私、まだあまり実感がわかなくて」
その顔は僕たちの通っていた学校の連中や王とその周りのような何処か品定めするような顔ではなく、純粋にその優しさからくるものだとわかる、そんな顔だった。




