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婚約破棄されたので隣国の冷徹皇太子に全力で甘やかされます。元婚約者がこちらを見て悔しがっていますが、もう遅いです

作者: 紡 愛(つむぎ あい)
掲載日:2026/05/27

どうぞお楽しみください

「アイリス・ヴァンディル! 貴様との婚約を破棄する! 聖女マリアをいじめた泥棒猫め、お前のような悪役令嬢は我が国には不要だ!」


きらびやかな夜会の中央。

婚約者であった第一王子・エドワードの怒声が響き渡った。

彼の腕にすがりつき、勝ち誇った笑みを浮かべるのは「聖女」と呼ばれる男爵令嬢のマリア。


身に覚えのない罪。

周囲からの冷ややかな視線と、ひそひそ話。

アイリスが絶望に目を閉じかけ、胸が締め付けられた――その時だった。


「――ほう。我が『至宝』を泥棒猫呼ばわりとは。ずいぶんと威勢がいいな、格下の国の王子風情が」


低く、地響きのように美しい声が会場に響く。

その場の空気が、一瞬で凍りついた。


人波を割って現れたのは、誰もが恐れる隣国の皇太子、アルフレッド・フォン・ノースランド。

冷徹無比、戦神と恐れられる彼が、なぜかまっすぐにアイリスの元へと歩み寄ってくる。


「あ……アルフレッド殿下? なぜここに……」

エドワードの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。


アルフレッドはアイリスの前で優雅に跪くと、彼女の手をそっと取り、恭しく甲にキスをした。


「迎えに来たよ、私の可愛いアイリス。こんな狭い檻で、よく耐えてくれたね」

「え……? あの、殿下?」


混乱するアイリスの腰を、彼は大きな手で強引に、かつ壊れ物を扱うように優しく抱き寄せた。

そのまま冷酷な視線をエドワードへと向ける。


「君を貶めたこの国など、いつでも滅ぼせるが……どうする? 今すぐここで、この男の首を跳ねようか?」

「ひっ……!?」

エドワードが情けない悲鳴を上げて一歩後ずさる。


「いえ、殿下。そこまでは望みませんわ」

アイリスが困惑しつつも答えると、アルフレッドの冷徹な仮面が剥がれ、とろけるような甘い笑みが浮かんだ。


「ふふ、君は本当に優しいな。では、この愚か者たちには『最高の絶望』をプレゼントしよう。――さあ、我が国へ行こう。君を世界一の幸せ者にしてあげるよ」


エドワードたちが唖然とする中、アイリスは皇太子に横抱きにされ、まるでお姫様のように大切に会場から連れ出されたのだった。


それから数ヶ月後。

隣国の王宮で、アイリスは夢のような、というよりは少々甘すぎる日々に頭を悩ませていた。


「アイリス、見ておくれ。今日の君のドレスに合わせて、この鉱山を一つ買い占めておいたよ。君の瞳と同じ、美しいサファイアが採れるんだ」

「アルフレッド様、さすがにドレス一枚に対して鉱山は規模が大きすぎます!」

「これでも我慢した方さ。君が可愛すぎるのが悪いんだ。本当は国中の宝石を集めて君を飾り立てたいくらいだというのに」


朝から晩まで、アルフレッドからの怒涛の溺愛。

巷で「冷徹皇太子」や「戦神」と恐れられている姿はどこへやら、アイリスの前ではただの「甘やかし魔」だった。

彼の惜しみない愛と極上のスキンケア(アルフレッドが毎晩直々に髪を梳かしてくれる)を受け、アイリスの美しさは以前よりも何倍も輝きを増していた。


そんなある日、両国の親睦を深めるための合同晩餐会が開催され、アイリスの元婚約者・エドワードたちの姿もあった。


「あ、アイリス……? そんな、まさか、あんなに美しく……」


遠くからアイリスを見つめ、エドワードは呆然と目を見開いていた。

無理もない。彼の隣にいる「聖女」マリアは、贅沢三昧で国費を使い込み、今やただの「我が儘なお荷物」と化している。エドワード自身の顔もひどくやつれ、服の仕立てすら以前より落ちているのが一目で分かった。


その時、アルフレッドがアイリスの腰を引き寄せ、わざとエドワードの視線に止まるように、彼女の耳元に唇を寄せた。


「アイリス、あそこに君を捨てた愚か者がいるね。ずいぶんと惨めな顔をして君を見ているよ」

「え? ああ……エドワード様、ですか?」


アイリスは小首をかしげた。

今の彼女にとって、エドワードは「過去のどうでもいい人」でしかない。完全に記憶の彼方に追いやられていた。


「フッ……もう君の視界にすら入っていないわけだ。素晴らしいよ。……おい、そこの元王子」


アルフレッドが氷点下の視線をエドワードに投げかける。


「私のアイリスを、ただの『悪役令嬢』だと思って手放したこと、せいぜい一生悔やむがいい。彼女は今、私の腕の中で、世界で一番愛されている」


そう言って、アルフレッドはエドワードへの威嚇を込めて、アイリスの額に見せつけるように深く、熱いキスを落とした。


「あ、う……あぁ……っ!」


エドワードは拳をきつく握りしめ、ガタガタと震えながら、悔しそうに歯噛みした。

自分が手放したものが、どれほど大きな「至宝」だったのか。

隣国の皇太子に極上に溺愛され、幸せそうに微笑むアイリスの眩しい姿を見て、彼はただただ、激しい後悔と惨めさで顔を歪めることしかできなかったのだった。


アイリスを追い出してからというもの、エドワードとマリアの日常は、お世辞にも「真実の愛の結末」とは呼べないものになっていた。


「ねえエドワード! なんで今月のドレスの予算がこれだけなのよ! 私は聖女なのよ、もっとキラキラしたお洋服が必要だわ!」

「うるさい、少しは黙れマリア! 我が国の財政が今どうなっているか分かっているのか!?」


かつて美しく可憐に見えたマリアの甘えた声は、今やただの耳障りな金切り声にしか聞こえない。

ヴァンディル公爵家(アイリスの実家)の経済的・政治的バックアップを失ったエドワードの立場は、文字通り失墜していた。さらに、優秀な事務官でもあったアイリスがいなくなったことで、彼の手元には山のような書類が未処理のまま放置されている。


「だいたい、マリア。お前が『聖女の奇跡』で我が国の作物を豊作にできると言うからアイリスを切り捨てたんだぞ! あの奇跡は一体いつになったら発動するんだ!」

「な、なによそれ! エドワードが頼りないから私のモチベーションが上がらないのよ!」


実際は、マリアの「奇跡」などただのちょっとした手品レベルのものであり、これまで国を潤していたのはアイリスが裏で回していた完璧な流通ギルドのシステムだったのだ。それがストップした今、国内の経済はガタガタだった。


そんな中、追い打ちをかけるように、隣国からの国書が届く。


「……な、なんだこれは……」


書面に目を通したエドワードの手が、ガタガタと震えだす。

そこには、アルフレッド皇太子とアイリスの「世紀の結婚式」への招待状――ではなく、アイリスを不当に貶め、精神的苦痛を与えたことに対する、天文学的な額の『慰謝料請求』と『経済制裁の通告』が書かれていた。


「そんな、ヴァンディル公爵家からも縁を切られ、隣国からもこんな……っ。あ、ああ……もし、あの時アイリスを裏切らなければ……!」


頭を抱えてガタガタと震えるエドワード。

かつて自分をどんな時も健気に支えてくれた、美しく聡明な婚約者。その彼女を自らの手で放り出し、今や隣国の皇太子の腕の中で、見たこともないような幸せな笑顔を咲かせている。


「エドワード? そんなことより、私の新しい宝石――」

「だっ、黙れ、この疫病神がーーっ!!」


ヒステリックに叫ぶマリアを突き飛ばし、エドワードは自室に引きこもって頭をかきむしった。

失ったものの大きさに、ただただ悔し涙を流すことしかできない。


これからの彼らに待ち受けるのは、終わりのない借金返済と、周囲からの冷ややかな視線。そして、「あんな悪女に騙されて至宝を捨てた愚かな元王子」という、一生消えない不名誉なレッテルだけだった。

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― 新着の感想 ―
婚約者に対して「泥棒猫」は頭悪すぎませんかね? まあ、突然アイリスを「至宝」とか持ち上げた挙句、連れ去ってやる事が只の過剰な贅沢と甘やかしな隣国の皇太子の方も、権力とか財力とかが段違いなだけで、さして…
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