ちょっと狂ってる愛を食べてみる話し。
「手作り?」
「ええ。手作り」
目の前にはケーキが一つ。お誕生日おめでとうって訳でもなく、記念すべき日でもなく。作ってくれたのは嬉しいもの、その理由は全く計り知れません。
もしかすると、何か欲しいものがあるのかも。
そう思い、しぶしぶとケーキを押し返しました。食べたらいけないって感じがしたので。
「食べてくれないの?」
「もうすくご飯だから、後で食べるー」
「なんで?」
こうやって何かを作ってくれたのは今日が初めてではありません。いつもいつも美味しいクッキーとかチョコとか、作ってくれるから美味しくもぐもぐしていた記憶が未だに鮮明に残っています。
でも、昔のままに接するのは少々難しいのです。
何故かと言うと。
「君のために作ったのに。世の中に一つだけの、君だけのケーキだよ?
唯一。地球中どこを探してもこのケーキはここにしかいないの。
食べて?
私のために、一口でもいいから」
とても必死そうに食べさせようとする仕草はもちろんで。ケーキがほんの少しだけ赤みを帯びているのも理由の一つでしょう。
「私の愛、捨てるの?」
もっともの理由は、重くなったからなのです。
重たい。
自分の思いのままにやらないととても落ち込んで、悲しくて、おどおどしてて。
それがなんだかとても嫌で。
「捨てよっか」
拒むようになってしまうのです。
よくわかんない。なんでこんな気持ちになるのかも、言葉には上手く表せない。
でも嫌。
「むっ、またそんなこと言って。変なことやってないから。欲しいのもないし。単に、作ったから食べよーって意味なんだよ?」
拒むと途端、彼女はいつも通り、いつも?昔のままに戻るのです。
重たい視線も、ほんのり熱がこもった手も、妙にべたべたする仕草も消えて、いつも通り。
「それだけー?」
「それだけ。いつもそうだったんでしょ?」
「それもそうね。じゃた食べてみよっかな?」
「早く食べようよ。ケーキ、美味しいよ?私そろそろ甘くないのに美味しいケーキ作るコツが掴めたんだー。これなら太らなくないかな?」
「ケーキだし太るよー?」
こんな彼女はとても好きです。きゃっきゃって、赤ちゃんみたいで可愛い。
とても無害に見えるので。
ケーキを食べました。おいしい。
「どぉー?美味しいっしょ?力作なんだもん」
「どっかで売ってるのと似た味」
「ふふん。実は私、ケーキ屋でちょっとだけレシピ学んできたんだ。帰りにいつも見るケーキ屋あるでしょ?そこで学んだの」
「ほぇー。うまー」
これは手が止まりません。食べたくなる味だ。レシピのお陰なのかとても味がよい。
ほんのり、隠しきれない鉄の匂いがするのを省くと、とても上出来だった。
「なんか変なの入ってるー?」
「変なのは入ってないよ。全部普通」
「でも、味が」
「味?……やっぱり、君って鼻がいいね」
雰囲気ががらっと変わりました。あの日から彼女は悪いことをバレたらこんな感じになるのです。
「ちょっとだけかけたの。私を」
「あなたをかけるってなに。賭けでもした?」
「うぅん、そんなんじゃなくて…私だったことを乗せたって意味」
「つまりー?」
血でもかけたって言いたいのでしょうか。まさか、ケーキに血液なんか似合うわけないですよね。
「詳しいのは内緒。知りたい?」
「知りたくない」
美味しいし、もう食べてしまったのは仕方ないんです。知りたい気持ちもあるけど、知ればきっと後悔すると思うから、知らないままで。
また一口、食べました。
今度は、もっと確かに、ふんわりと。
血の匂いがした。
「私ね?思うの。
人は絶対に一つにはなれない。心も体も、繋がることはあっても一つには混ざらない…どうしても混ざらないことはあるもの。
でもそれは、二つを元のまま混ざろうとするから混ざらないんだ。水も油もちょっとだけ頑張れば混ざれるもの。
お互いに、少しづつ削ったら、一つに混ざれる。
うふふ…怖い?可愛い顔になったなぁ……
ね、私から離れた、私だったものが、君の中に吸い込まれて、君を作るために使われる…それは、とても素敵なことだと思わない?」
「素敵だね」
「でしょう?」
でもケーキはそこそこ美味いので、もう一度。
ご飯も食べなきゃだし、最後の一口だけ。
食べた。




