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第18話 「本当のダンスと月下の呪い」



第18話 「本当のダンスと月下の呪い」



美月―――


寝室に入った瞬間、わたしは、陽翔の背中を、ドンッ、とドアに押し付けた。


「美月、ちょっと待っ…」


驚く彼の唇を、わたしの唇で塞ぐ。

それは、今までのどんなキスよりも、深くて貪るような、キス。

わたしは、彼の浴衣の中に、冷たい手を滑り込ませる。

彼の、驚きで跳ねた心臓の鼓動が、わたしの指に、直接伝わってくる。


「…ん…っ…」


わたしが、ゆっくりと唇を離すと、二人の間には、熱い、銀色の糸が引いていた。

陽翔は、息を弾ませて、熱っぽい目で、わたしを見つめている。


「はぁ......美月...話を聞いてくれ」


「これが、最初のステップよ。どうかしら?あなたの、知ってる『ダンス』と、少し違うでしょう?」


わたしは、彼の言葉に耳をかさず、代わりに彼の耳元でそう囁く。

そして、そのまま彼の首筋に、わたしの唇を這わせる。

彼の、息を飲む音がした。


「………やめ…」


「やめてほしいの?」


わたしは、顔を上げて彼の瞳を覗き込む。

その瞳は、理性と本能の間で、激しく揺れ動いていた。

わたしは、その、葛藤さえも、愛おしくてたまらなくなる。


「…...嘘つき」


わたしは、そう言うと、今度は彼をベッドへと優しく突き飛ばした。

彼は、されるがままに、ベッドの上に倒れ込む。

わたしは、その上に、ゆっくりと覆いかぶさる。

月の光が、窓から差し込んで、わたしの銀色の髪を妖しく照らしていた。

わたしは、陽翔の浴衣の襟に指をかけ、ゆっくりとはだけさせていく。

そこで突然、彼はわたしの腕を掴んだ。


「美月……俺はお前を愛している」


「...わたしもよ...陽翔」


わたしは、彼の真意を確かめるべく、瞳を覗き込む。

すると、その目には、わたしの予想とは裏腹に、涙を浮かべていた。


「美月……俺には、お前の他に、2人を愛した記憶があるんだ......」


最初は、言ってる意味が分からなかった。

でも、すぐに理解出来た。

理解したくは、なかったのだけれど。


「紬希とひなた……別々の世界で結婚していたのよね......だから何?」


あまりにも、無邪気で、残酷な答えに、彼は言葉を失う。


「……今はもう、忘れなさい」


わたしは、彼の胸に顔をうずめる。

そして、彼の、胸にキスをする。


「あっ…...」


彼から、可愛い声が漏れる。

わたしは、くすくすと、笑う。


「…わたしが、手取り足取り、全部、一から、教えてあげる」


わたしは、ゆっくりと顔を上げる。

そして、自分の浴衣の帯に手をかけた。


「…見てなさい、陽翔。

これから、始まるのが、本当の、月明かりの『ダンス』よ」


帯を解くと、前がはだけて、月の光がわたしの白い肌を照らし出す。


「……美月…綺麗だよ」


彼は、起き上がると、わたしを強く抱きしめた。


「......ごめん、でも、やっぱりダメなんだ。今の俺には、頭では理解出来ても、どうしても、罪悪感に襲われてしまうんだ……だから、このゲームが終わったら......今夜の続きをしてくれないか?」


彼は、震えていた。

本当は、このままわたしとシたいくせに。


(本当に...バカな男ね。黙っていれば2人には分からないって言うのに)


わたしは、心の中でため息をつく。

目の前で、子犬みたいに体を震わせている、誠実すぎる男。

他の二人には、バレやしないのに。

自分の中の、ちっぽけな罪悪感のために、わたしから逃げようとするなんて。


(…でも)


その、馬鹿正直さが、どうしようもなくあなたの魅力だってことも、わたしは知っているわ。

わたしは、ゆっくりと陽翔から体を離す。

そして、ベッドの縁に腰を下ろすと、乱れた浴衣を直して帯を締め直す。

その仕草は、ひどくゆっくりで、焦らすようで、でも、どこか物悲しかった。


「…...ごめん」


陽翔が、申し訳なさそうに目を伏せる。

わたしは、彼の方を見ない。


「…いいのよ」


「え?」


「…あなたの、馬鹿みたいな誠実さも含めて、わたしはあなたを愛しているんだから」


わたしは、静かに立ち上がる。

そして、部屋の窓を開けて、縁側に出た。

ひんやりとした夜風が、火照った体を冷ましてくれる。


「…美月、怒ってるのか?」


後ろから、陽翔が子犬の様についてくる。

わたしは、振り返らずに答えた。


「怒ってるわよ。当たり前でしょ。

最高の夜を、台無しにされたんだもの。

…それに、わたしを選んでおきながら、他の女のことを考えるなんて…万死に値するわ」


氷のように冷たい言葉に、陽翔は言葉を詰まらせる。

でも、わたしは続ける。


「…...でも」


わたしは、ゆっくりと振り返る。

月の光を浴びて、わたしの銀色の髪がキラキラと光っている。


「そんなあなたを、許してあげるくらいには、あなたのことを愛しているわよ?」


わたしは、ふっと、妖艶に微笑む。

そして、陽翔の胸に、人差し指を、とん、と当てた。


「…いいこと、陽翔。

あなたが、言ったのよ?

『このゲームが終わったら、今夜の続きをしてくれるか』って」


「…ああ」


「約束よ...」


わたしは、彼の小指に、自分の小指を絡ませる。

あの、展望台での約束のように。


「…もし、あなたが、最後にわたしを選んだのなら。…その時は、今夜の、百倍、千倍にして、あなたをめちゃくちゃにしてあげる。もう、他の女のことなんて、一生考えられなくなるくらい、わたしの全部で、あなたを満たしてあげるわ」


わたしは、彼の瞳をまっすぐに見つめる。


「…でも、もし……もし、あなたが、わたし以外の誰かを選んだら……わたしは、あなたを絶対に許さない。地獄の果てまで追いかけて行って、あなたを、呪ってあげる。この約束を破った、罰としてね」


あまりにも激しい愛の言葉に、陽翔は立ち尽くすことしか出来ない。

わたしは、満足げに微笑むと、彼の胸から指を離した。


「…さあ、もう寝ましょうか」


わたしは、そう言うと一人でベッドへと向かいベットに入る。

陽翔は、しばらくその場で呆然としていたが、やがて静かに隣に潜り込んできた。


「今はこれだけしか出来ないけど……おやすみ、美月」


陽翔が、わたしのおでこに、優しいキスを落とした。


(...そんなことしたら、興奮して寝れないじゃない)


その夜、わたしたちは何もしなかった。

ただ、背中合わせで、互いの温もりだけを感じているだけ。

静かな暗闇の中で、わたしはひっそりと確信していた。


(……勝ったわ)


今夜、体を繋ぐよりも、もっと深くて強い「呪い」という名の「約束」を、あなたにかけることができたのだから。

あなたは、もう、わたしから逃げられない。

わたしは、静かに勝利の笑みを浮かべて眠りについた。



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