表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

16.5話 「サンクチュアリ・リターン」



第16.5話 「サンクチュアリ・リターン」



紬希―――


陽翔さんと美月さんが出て行った後の、静まり返った家。

玄関には、2人を見送って、まだ立ち尽くしているひなたさんがいる。

私は、ひなたさんの元へまっすぐに歩いていく。

そして、震える両手を、ぎゅっと握りしめてこう言った。


「…ひなたさん。泣いてる暇はありませんよ?」


そして、私は、今まで見せたことのないような力強い、でも、どこか悲しい笑顔で続ける。


「…戦争が、始まりました。

…ううん、とっくの昔に、始まってたんですね。

美月さんは、この機会に、陽翔さんを完全に堕としに行くと思います。

もしかしたら、帰ってくる頃には、陽翔さんの心は美月さんの色に染められてしまっているかもしれません。

だから、私たちは準備をするんです!

陽翔さんが、帰ってきたその瞬間に、美月さんの『夜』の色なんて一瞬で吹き飛ばしてしまうくらいの、最高の『家』をここで作り上げるんです!」


そして、私は桜色のエプロンを、きゅっと締めた。


「作戦名は『サンクチュアリ・リターン』です!」


「さんくちゅあり…?」


「はい。『サンクチュアリ』は、聖域…つまり、陽翔くんにとっての『帰るべき、お家』のことです。

『リターン』は、帰還。

美月さんの元から、陽翔くんの心を、必ず私たちのお家に取り戻す。

そういう、意味を込めました」


私は、ひなたさんの手を引いて歩き出す。


「私は、陽翔さんがもう何年も口にしていないはずの…陽翔くんのお母様が、作ってくれたという、思い出のハンバーグの味を、完璧に再現します。

陽翔くんの、心の一番柔らかい場所に直接語りかけるんです」


ひなた―――


わたしは、紬希ちゃんの完璧な作戦を聞いて、一瞬息を呑む。

でも、すぐに、負けないぞ!って、気合を入れて、にぱーって笑い返した。


「すごいね、紬希ちゃん! 陽翔くんの胃袋から心を掴む、最高の愛情作戦だね!それでこそ、紬希ちゃんだよ!」


わたしはそう言って、力いっぱい、両手で拳を作った。


「じゃあ、わたしは『太陽のラブレター作戦』で対抗しちゃう!美月ちゃんとの旅行で、リフレッシュして元気になって帰って来る陽翔くんを、さらに爆発させる『心のエネルギー』で、迎え撃つんだ!」


そして、拳を高く掲げる。


「紬希ちゃんが、ハンバーグで陽翔くんの『過去』を癒すなら、わたしは『共通の未来』をプレゼントしてあげる! 明日帰って来るまでに、わたし、陽翔くんの大好きな漫画や映画をぜーんぶ見直す!

そして、単に『好き』って言うだけじゃなくて『わたしは、陽翔くんのこの好きな気持ちを、未来永劫、誰よりも深く、隣で分かち合えるお嫁さんだよ!』って、全身でアピールするの!」


わたしは、熱を帯びた瞳で紬希ちゃんをまっすぐに見つめ返す。


「それにね、わたしは信じてるよ! だって、陽翔くんは、私たちを『家で留守番』っていう、一番安全な場所に置いて行ってくれたんだもん!美月ちゃんと二人きりになっても、陽翔くんの心は、ずっと私たちのお家にあるはず! だから、わたしたちは、最高の笑顔と愛で、陽翔くんの帰りを迎えればいいんだ!

……ねぇ、紬希ちゃん。陽翔くんが、本当に、最後に隣にいてほしいって思うのは、優しさだけのお嫁さんかな?それとも、誰よりも自分のことを信じてくれて、誰よりも深く、心と趣味を分かち合える最高の相棒みたいなお嫁さんかな?

わたしも、絶対に負けないからね、紬希ちゃん!」


紬希ちゃんは、そう言ったわたしに、ゆっくりと近付いて来て、真剣な顔でこう言った。


「…でも、気をつけてくださいね?ひなたさん。美月さんは、きっと...“帰ってくる陽翔さん”じゃなくて、“帰ってこない陽翔さん”を作ろうとしてる気がする...」


こうして、わたしたちは、陽翔くんたちの帰りを、臨戦態勢で待ち構えているのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ