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第16話 「秘密のディール」



第16話 「秘密のディール」



全ての音が消え、匂いも消えた。

陽翔たちが、凍りついた様に動かない。


(もしかして……時間が止まった?)


わたしは、周囲を見回すが、動いている物は何も無かった。


(陽翔に聞いていた通りね……今度はわたしに選択させるってこと?)


わたしが、血文字の出現を待っていると、突然、目の前の空気がぐにゃりと歪むのを感じた。

そこに、そいつはいた。

陽翔から聞いていた通りの、醜悪な姿。悪魔が、そこに立っていた。


「…我を、呼んだか?カカカカ!」


悪魔のガラガラとした耳障りな笑い声が辺りに響く。

わたしは、その姿を見ても怖がらない。

ただ、腕を組んでその醜い顔をまっすぐに見つめ返した。


「...あなたがそうなの? 陽翔を弄んでいるっていう、下劣な悪魔というのは」


その侮蔑に満ちたわたしの声に、悪魔は愉快そうに喉を鳴らした。


「カカカ…! 威勢のいい女だ。

…して、我に何か用かな?」


瞬時に、わたしがさっき言った「悪魔を呼び出してあげましょうか?」って言葉を思い出す。


「……ええ。あなたに、取引を持ちかけにたいのよ」


「…取引、だと?」


悪魔は、わたしを驚かせに現れたはずなのに、逆に驚かされて四つの目を丸くする。


「そう。…あなたの、その退屈なゲームを、もっと面白くしてあげるわ」


わたしは、ゆっくりと悪魔に近づいていく。

そして、その耳元(らしき場所)で囁いた。


「…わたしと陽翔が二人きりになれる、特別な『ステージ』を用意しなさい。

...例えば、そうね。一泊二日の、温泉旅行、なんてどうかしら?」


その大胆な提案に、悪魔の四つの目がギラリと光った。


「……なぜ我が、貴様の願いを叶えなければならん?」


「決まってるじゃない。あなたのゲームを、もっとスリリングにしてあげる為よ」


わたしは、悪魔から少し離れると、妖艶に微笑んだ。


「わたしは、その旅行で陽翔を完全に堕とすわ。そして、彼にこう囁くの。

『わたしだけを選び続けて。そうすれば、わたしが、あなたをこのゲームから解放してあげる』ってね」


「...ほう? 解放、だと? 戯言を」


「ええ、もちろん嘘よ。でも、陽翔はその話に乗るでしょうね」


わたしは続ける。

その瞳は、獲物を品定めする狩人のように、ギラギラと輝いていた。


「陽翔は、わたしとの旅行の後、変わるわ。彼は、わたしを最後の希望だと信じて、わたししか選択しなくなる。そして、あえて紬希とひなたを突き放すようになる。今までみたいに優しくなんかしない。冷たくあしらうようになるわ」


悪魔の赤い目が、何かを考えるように細められる。


「…...それは、見ものだな。偽善者の男が、たった一人の女のために、他の二人を絶望の淵に突き落とす、か…!」


「そうよ」と、わたしは微笑む。


「そして、紬希とひなたはどうなると思う? 信じていた陽翔に裏切られて絶望する…。そして、わたしへの醜い嫉妬の炎を燃やすことになるわ。三人の馴れ合いの家族ごっこは終わり。そこから始まるのは、愛と憎しみが渦巻く、本物の、女同士の醜い殺し合いよ。あなたはそれを、残りの二週間、特等席でじっくりと眺めることができる。…どうかしら? 悪魔さん。ただ待っているよりも、ずっと刺激的で、濃厚なショーが見られると思うけど?」


悪魔は、しばらく黙っていた。

そして、ギザギザの歯を見せて笑った。


「カカカカ!…良いだろう。その提案、乗ってやろう。…だが、タダではないぞ?」


「ええ、分かっているわ…あなた好みで、そして、わたしにとっても価値のある物をあげる」


わたしは、自分のこめかみに、そっと人差し指を当てた。


「わたしの頭の中から、陽翔との、一番大切な思い出を、一つ消しなさい」


「ほう?」


「わたしの1番大切な『月明かりの下でのダンス』の思い出。アレをあなたにあげるわ。過去の思い出なんかにすがりついてる弱いわたしは、もういらないの。わたしは、これから新しい、もっと強烈な『記憶』を陽翔と作るんだから」


その、あまりにもクレイジーな提案に、悪魔の四つの目は見開かれた。

そして、次の瞬間、腹の底から哄笑した。


「カカカカカ! ククク…! 面白い! 面白い女だ、貴様は! よかろう! その取引、成立だ!」


悪魔がその骨ばった指をぱちんと鳴らす。

その瞬間、わたしの頭の中から何かがすぅっと抜け落ちていく感覚がした。

満月の夜のベランダ。

陽翔の不器用なリード。

彼の胸の温かさ。

全てが霞んで、消えていく…。

でも、わたしは笑っていた。

心にぽっかりと穴が空いた、その空虚な感覚さえも楽しむように。


(...さようなら。弱かった、わたし)


悪魔は、ニヤリと笑うと、満足げに闇の中に消えていった。

わたしは、もう、何を失ったのかさえ、思い出せない。

でも、わたしの瞳は、これからの未来への希望で、蘭々と輝いている。


「…さあ、始めましょうか」


わたしは静かに、唇の端を吊り上げた。


「わたしの、本当のハンティングを」



──陽翔視点


朝のリビング。

コーヒーの香りが、静かに部屋を満たしていた。

美月は、一人掛けのソファに座り、足を組んで、優雅にカップを傾けている。

その姿は、まるで何も起こっていないかのようだった。


美月の「…陽翔。いつまで感傷に浸ってるつもり? 早く、次の選択を始めさせなさいな」と言う、その言葉に呼応するように


―――世界が止まった。


空気が凍りつき、音が消えた。

そして、目の前に赤黒く滲んだ“血文字”が浮かび上がる。


【心して選べ】


A. 紬希と料理コンテストに出場する(一泊二日)

B. ひなたとコスプレイベントに参加する(一泊二日)

C. 美月と温泉旅行に行く(一泊二日)

 ※紬希とひなたは家で留守番


※選択しなければ、全員が消える


(………なんだ、この選択肢は?)


俺は、息を呑む。

唐突すぎる選択肢の内容に頭が混乱する。

でも、その中に、2人が家で留守番の文字を見つけて一縷の希望を見る。


(なんでこれだけ?)


疑問は浮かんだが、砂時計の砂は刻刻と落ちていく。


(留守番なら…紬希も、ひなたも、消えずに済むな)


その希望にすがるように、俺は手を伸ばす。

選ばされているとも知らずに。


C. 美月と温泉旅行に行く(一泊二日)


──選んだ瞬間、世界が動き出した。


美月は、ゆっくりとカップを置いた。

そして、何かを感じ取ったのか、こちらを見た。


「…選択があったのね?」


その声は、甘く、冷たく、そして──

すべてを掌握する者の声だった。


俺は、うなづくとすぐに3人に選択の内容を伝えた。

紬希とひなたが、不安そうな顔でこちらを見ている。


「旅行に行ってくるだけだから大丈夫だよ」


2人の懸念している内容とは裏腹に、俺はなだめるように言葉をかけた。


すると、美月が、俺の手を握った。

その手は、冷たくて、でも、頼もしかった。


「行くわよ、陽翔」


「ああ」


こうして、俺たちは──

“選ばされた旅路”へと、足を踏み出したのだった。



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